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祝福
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「荷物はそれで全部か?」
空になった棚に、組み立てられた段ボール。
傍から見れば引越しの準備をしているようだ。
「はい。着換えとかは家にあるので。」
学校の制服や他の私物は自宅に置かれたまま。
当日の朝に取りに行き、寮まで運んでもらうという。
無人状態のマンションは引き払われ、両親との未練は断たれる。
今は素直に凪の退院を祝えることが嬉しい。
(…現実なんだよな)
膨らむソメイヨシノの蕾は、進む季節を示唆している。
お互いが泣き腫らした目で過ごした夜、両想いであったのにもかかわらず随分な遠回りをしてしまった。
「好き」だとはっきり告げる声が脳裏に蘇る。
凛と響いたそれは、多分忘れられない。
あの時は必死だったから、凪の顔を直視出来なかった。
「…入りきらないか。」
分厚くなったファイルに入っているのは大量の写真。
日常を切り取ったような一コマや風景画、形として残った思い出が溢れかえっている。
一冊ではとても入りきりそうにない。
「新しいの用意しといてやるよ。」
テーブルの隅に置かれたツーショット。
額縁に収まったそれを箱の一番上に置いて作業は終了だ。
種類ごとに分けてからマジックで明記し、使わなそうな物にはガムテープで封をする。
ひと段落したのを確認し、余った梱包材を片づけた。
「何か飲むか?」
二人分のマグカップにコーヒーを用意し、片方に少量のミルクと砂糖を入れる。
凪は性格こそ同世代と比べて大人びているものの、味覚は意外と年相応で甘い物が好きらしい。
猫舌なのか、息を吹いて冷まそうとする様子にはあどけなさが垣間見られた。
「…まだ実感がなくて、退院間近なのに。」
約半年も居たから無理もないだろう。
感慨深そうに振り返る凪を横目に、鞄から包みを取り出す。
「一足早いが俺からの祝いだ。」
「おめでとう」と添えて受け渡す。
光沢のあるリボンを解くとベルベット製のケースが露になる。
「…かっこいい。」
「着けてみるか?」
ケースに敷かれたスポンジの上にはシンプルなデザインのネックレス。
シルバーを基調としたチャームの中央には「ターコイズブルー」と呼ばれる空色の石が嵌められている。
留め具を外し、凪の首元に回しかけてやると気恥ずかしそうに鏡を向く。
「俺の好きな色知ってたんですか?」
「何となく気づいてた。」
使ってる文房具に寒色系が多く、好みの傾向は掴めていた。
半透明のチャームが反射して淡い光が煌めく。
清涼感漂うネックレスは凪によく似合う。
「じゃあ、俺からも。」
凪は腰掛けていたソファから降りると、大きめの袋を手に提げて戻って来た。
手で持ってみるとサイズの割に重量はない。
「今までのお礼です。」
柔らかい肌触り、茎を螺旋状に束ねたスパイラルブーケ。
本物との違いは、花も葉も全て紙で出来ているところだ。
一から手作りしてくれた枯れない花束をそっと撫でる。
「ありがとな。すげー嬉しい。」
「…俺ばっかり色々貰ってたから。」
「大事にする。恋人からのプレゼントだしな。」
「…こ、恋人!?」
「違ったか?」と聞き返せば凪は黙ってしまった。
湯気でも出てるのではないかというぐらい、耳まで赤く染めている。
(…俺がどれだけ我慢してると思ってんだ。)
ここが職場だから自制が功を奏しているが、無自覚な行動に理性がどれだけ保ってくれるのか。
新たな心配が生まれてしまったのであった。
空になった棚に、組み立てられた段ボール。
傍から見れば引越しの準備をしているようだ。
「はい。着換えとかは家にあるので。」
学校の制服や他の私物は自宅に置かれたまま。
当日の朝に取りに行き、寮まで運んでもらうという。
無人状態のマンションは引き払われ、両親との未練は断たれる。
今は素直に凪の退院を祝えることが嬉しい。
(…現実なんだよな)
膨らむソメイヨシノの蕾は、進む季節を示唆している。
お互いが泣き腫らした目で過ごした夜、両想いであったのにもかかわらず随分な遠回りをしてしまった。
「好き」だとはっきり告げる声が脳裏に蘇る。
凛と響いたそれは、多分忘れられない。
あの時は必死だったから、凪の顔を直視出来なかった。
「…入りきらないか。」
分厚くなったファイルに入っているのは大量の写真。
日常を切り取ったような一コマや風景画、形として残った思い出が溢れかえっている。
一冊ではとても入りきりそうにない。
「新しいの用意しといてやるよ。」
テーブルの隅に置かれたツーショット。
額縁に収まったそれを箱の一番上に置いて作業は終了だ。
種類ごとに分けてからマジックで明記し、使わなそうな物にはガムテープで封をする。
ひと段落したのを確認し、余った梱包材を片づけた。
「何か飲むか?」
二人分のマグカップにコーヒーを用意し、片方に少量のミルクと砂糖を入れる。
凪は性格こそ同世代と比べて大人びているものの、味覚は意外と年相応で甘い物が好きらしい。
猫舌なのか、息を吹いて冷まそうとする様子にはあどけなさが垣間見られた。
「…まだ実感がなくて、退院間近なのに。」
約半年も居たから無理もないだろう。
感慨深そうに振り返る凪を横目に、鞄から包みを取り出す。
「一足早いが俺からの祝いだ。」
「おめでとう」と添えて受け渡す。
光沢のあるリボンを解くとベルベット製のケースが露になる。
「…かっこいい。」
「着けてみるか?」
ケースに敷かれたスポンジの上にはシンプルなデザインのネックレス。
シルバーを基調としたチャームの中央には「ターコイズブルー」と呼ばれる空色の石が嵌められている。
留め具を外し、凪の首元に回しかけてやると気恥ずかしそうに鏡を向く。
「俺の好きな色知ってたんですか?」
「何となく気づいてた。」
使ってる文房具に寒色系が多く、好みの傾向は掴めていた。
半透明のチャームが反射して淡い光が煌めく。
清涼感漂うネックレスは凪によく似合う。
「じゃあ、俺からも。」
凪は腰掛けていたソファから降りると、大きめの袋を手に提げて戻って来た。
手で持ってみるとサイズの割に重量はない。
「今までのお礼です。」
柔らかい肌触り、茎を螺旋状に束ねたスパイラルブーケ。
本物との違いは、花も葉も全て紙で出来ているところだ。
一から手作りしてくれた枯れない花束をそっと撫でる。
「ありがとな。すげー嬉しい。」
「…俺ばっかり色々貰ってたから。」
「大事にする。恋人からのプレゼントだしな。」
「…こ、恋人!?」
「違ったか?」と聞き返せば凪は黙ってしまった。
湯気でも出てるのではないかというぐらい、耳まで赤く染めている。
(…俺がどれだけ我慢してると思ってんだ。)
ここが職場だから自制が功を奏しているが、無自覚な行動に理性がどれだけ保ってくれるのか。
新たな心配が生まれてしまったのであった。
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