君を知るということ

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「…翔也め、散々人で遊びやがって。」

面会が終わり、勉強道具を片付けながら凪がため息をつく。
くすぐりに弱いのが可愛くて、俺も一緒になって弄っている時点で人のことは言えないのだが。
学生同士のじゃれ合い、まるで昔の自分を見ている様で微笑ましかった。

「翔也君、友達多そうだな。」

一言で表すなら『天真爛漫』な無邪気で明るい性格。
他者との間に垣根がなく、誰とでも仲良くなれるタイプだ。

「多いですよ。部活もやって遊んで、どこに体力があるんだが。」

半ば諦めたような口調だが、その声色は優しい。
抱き着かれたときも「苦しい」と文句は零したものの、「嫌だ」とは言っていなかった。
正反対な二人、かつての俺と律を思い出す。

「…まあ、いい奴ではあるけど。」

クールに装っているが内心は嬉しそうである。
翔也君に伝えたら喜んでくれそうだが、当の本人は「あいつが聞いたら調子に乗るんで」と言うので仕方がない。


「先生、どうかしましたか?」

運ばれてきた夕食に手をつけていない俺を見かねて凪が首を傾げる。
余計な心配はかけさせまいと箸を取り、食事を口に運ぶ。
丁寧な所作に見惚れる前に目を背け、白米を頬張った。

「…大丈夫だ。冷める前に食べるか。」

また一つ嘘をつく。
治っていく右脚は、いつか切れる砂時計みたいに俺の心の余裕を奪い去っていった。

(…いい加減、けりをつけたい)

ただの友人だと分かっているはずなのに、躊躇無しに触れられることに嫉妬してしまう。
弱音を吐ける相手だと、面と向かって信頼を置いてくれたはずなのに。


「答えは見つかったか?」

寝落ちしたのか、デスクに戻ってからの記憶が無い。
夢特有の謎の空間にいる律に今は酷く安心した。

「…俺は、凪が好きだ。」

「じゃなきゃ、『もっと凄い場所に連れてってやるよ。』なんて言わねえしな。」

「ストーカーかよ。」

あの台詞は振り返ると正直恥ずかしい。
咄嗟にカッコつけたがるのが男しての性なのか。

「見守ってるの間違いだ。まったく、龍一は考えすぎなんだよ。」

「好きならそれで大丈夫」だと律は語る。

「…怖いんだよ。」

「フラれるのが?」

カウンセラーのままの方が良かった、以前の関係が良かった。
自分の気持ちを自覚するたびに、そんな正論が切り捨てられていく。

「きっと、あの子も不安だと思うぞ。…実の親に傷つけられて、何を信じたらいいかも分からない。
でも、龍一の手を取った。二人とも心の底から笑えてたんだ。」

(…心の底から)

作り物ではない笑顔、あいつが初めてその顔を見せてくれた時、俺の罪悪感が救われた。

「もう俺のことなんて気にするな。お前の生きる意味は別にある。」

「…欲にまみれててもいいのか?」

凪を守り、共に生きる。
独占欲に近い願望。

「一人のためだけのヒーローってのもかっこいいだろ。」

「人生に正解なんてつまらない」と続ける。
見かけだけなら10も年下の子供に励まされている奇妙な構図。
嬉々とした目の律は本当に変わっていない。

「万が一フラれたら、俺が慰めてやるよ。次に会えるのは、お前が爺ちゃんになってからだけどな。」

もう一度だけが事実になる。

「最後まで世話になったな。」

「親友の背中を押すのも俺の役目だから。でも、次の相手に引き継がないとな。」

次の相手、誰のことか皆目見当がつかない。
「さよなら」は言わないでおこう。
どうせ数十年後にでも会えるから。

「心配しなくても大丈夫。俺に龍一がいたように、龍一にもあの子がいるだろ。
男らしく、ビシッと決めて幸せにしてやれ。」

「…おい、律」

何かを知っている素振り、真相を聞き出そうとすると律の体は光に包み込まれる。

「じゃあな。」

最後の夢、きっと二度と俺の幻には現れないだろう。

(また、お前のお節介に助けられたな。)















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