37 / 88
第三者 2
しおりを挟む
「翔也、来るなら連絡してくれ。」
「だって湊だけ一人で来てずるいじゃん。」
「抜け駆けは許さん」、と御託を並べながら翔也が部屋に入って来る。
個室だから多少の融通は利くとはいえ、一言ぐらい病院に電話をかけてくれたっていいだろう。
今日は午前授業で部活もオフ。湊は塾で、一人で来るには都合が良かったとのこと。
ちなみに週末にあった地区予選は無事突破、関東ブロック大会への進出を決めたそうだ。
上機嫌で結果を話す翔也に相槌を打ちながら、やけに多い荷物の所在を聞く。
「勉強教えてください。」
うやうやしく頭を下げられれば断る気も失せる。
学年末試験まで約二週間、進級に問題はないとしても、見舞いのせいで成績を落としたなどと思われたくはなかった。
「動いて大丈夫なのか?」
「自分でも練習しないといけないんだよ。」
参考書を取るため立ち上がる。
基本の歩行動作は大分出来るようになったが、複雑な動きは日常生活の中で慣れていくしかない。
ペンケースとワークを片腕でホールドし、左手は手すりに置く。
神崎先生の治療のおかげか足首の腫れも収まり、痛みも引いていた。
テーブルの上にノートと教科書を広げる。
翔也は別に要領が悪い訳ではない。
ただ、考えることに苦手意識があるのが課題だ。
(…恋愛もこうだったら楽なのに)
グラフを描いてから情報を書き込んでいく。
目の前の数式のように上手くいかない恋心、今は関係ないことなのに惑わされてしまう。
「…よし、出来た!」
解き終わった問題に赤ペンで添削をする。
全問正解とはいかないが、この分なら赤点の可能性はほぼ無いと見ていい。
「…本番でこれだけ出来れば平均は超えられる。後はケアレスミスにだけ気をつけろ。」
「やったー!」と喜ぶ翔也に一応釘を刺す。
前向きな性格と姿勢、俺には無いそれが時に羨ましくなる。
「凪先生のおかげだな。」
「褒めたって何も出ねえよ。」
「とか言って教えてくれるじゃん。」
背後から飛びつくように抱き着かれる。
翔也の距離感がおかしいだけなのか。
それとも、一般的に同性同士でこんなスキンシップは当たり前なのか。
思考を巡らせても解らないままだ。
「いらっしゃい。勉強会か?」
事務作業が終わったのか神崎先生が戻ってきた。
軽く挨拶を交わし、ソファに腰掛ける。
「仲良しだな。」
「神崎さんもどうですか?凪、あったかいっすよ。」
微笑ましく見ていないで助けてくれ。
そんな俺の願いも虚しく神崎先生の手が頬に当たる。
「確かにあったかいな。」
成人男性とバスケ部の体格を軟弱な俺が引きはがせるはずもなく、両側から伸びる手からは逃れられない。
冷たいはずなのに、先生に触れられた箇所が熱を帯びたように火照っていく。
「凪、顔赤いぞ。熱でもあんのか?」
「…別に、何ともねえよ。」
(…お前のせいだよ)
翔也の天然発言に悪態をつく。
鈍感だから気づかないだけまだマシだとでも思っておこう。
湊や葵に見られていたら今頃どうなってたか。
「……っ、くすぐるのやめろよ。」
「ここが弱いのか?」
翔也がくすぐった場所をニヤリと口角を上げた先生に撫でられた。
普段はかっこいいくせに、こういうときに限って悪ノリが過ぎる。
(後で覚えてろよ)
結局面会時間終了まで、俺は為す術もなく二人に遊ばれてしまうのであった。
「だって湊だけ一人で来てずるいじゃん。」
「抜け駆けは許さん」、と御託を並べながら翔也が部屋に入って来る。
個室だから多少の融通は利くとはいえ、一言ぐらい病院に電話をかけてくれたっていいだろう。
今日は午前授業で部活もオフ。湊は塾で、一人で来るには都合が良かったとのこと。
ちなみに週末にあった地区予選は無事突破、関東ブロック大会への進出を決めたそうだ。
上機嫌で結果を話す翔也に相槌を打ちながら、やけに多い荷物の所在を聞く。
「勉強教えてください。」
うやうやしく頭を下げられれば断る気も失せる。
学年末試験まで約二週間、進級に問題はないとしても、見舞いのせいで成績を落としたなどと思われたくはなかった。
「動いて大丈夫なのか?」
「自分でも練習しないといけないんだよ。」
参考書を取るため立ち上がる。
基本の歩行動作は大分出来るようになったが、複雑な動きは日常生活の中で慣れていくしかない。
ペンケースとワークを片腕でホールドし、左手は手すりに置く。
神崎先生の治療のおかげか足首の腫れも収まり、痛みも引いていた。
テーブルの上にノートと教科書を広げる。
翔也は別に要領が悪い訳ではない。
ただ、考えることに苦手意識があるのが課題だ。
(…恋愛もこうだったら楽なのに)
グラフを描いてから情報を書き込んでいく。
目の前の数式のように上手くいかない恋心、今は関係ないことなのに惑わされてしまう。
「…よし、出来た!」
解き終わった問題に赤ペンで添削をする。
全問正解とはいかないが、この分なら赤点の可能性はほぼ無いと見ていい。
「…本番でこれだけ出来れば平均は超えられる。後はケアレスミスにだけ気をつけろ。」
「やったー!」と喜ぶ翔也に一応釘を刺す。
前向きな性格と姿勢、俺には無いそれが時に羨ましくなる。
「凪先生のおかげだな。」
「褒めたって何も出ねえよ。」
「とか言って教えてくれるじゃん。」
背後から飛びつくように抱き着かれる。
翔也の距離感がおかしいだけなのか。
それとも、一般的に同性同士でこんなスキンシップは当たり前なのか。
思考を巡らせても解らないままだ。
「いらっしゃい。勉強会か?」
事務作業が終わったのか神崎先生が戻ってきた。
軽く挨拶を交わし、ソファに腰掛ける。
「仲良しだな。」
「神崎さんもどうですか?凪、あったかいっすよ。」
微笑ましく見ていないで助けてくれ。
そんな俺の願いも虚しく神崎先生の手が頬に当たる。
「確かにあったかいな。」
成人男性とバスケ部の体格を軟弱な俺が引きはがせるはずもなく、両側から伸びる手からは逃れられない。
冷たいはずなのに、先生に触れられた箇所が熱を帯びたように火照っていく。
「凪、顔赤いぞ。熱でもあんのか?」
「…別に、何ともねえよ。」
(…お前のせいだよ)
翔也の天然発言に悪態をつく。
鈍感だから気づかないだけまだマシだとでも思っておこう。
湊や葵に見られていたら今頃どうなってたか。
「……っ、くすぐるのやめろよ。」
「ここが弱いのか?」
翔也がくすぐった場所をニヤリと口角を上げた先生に撫でられた。
普段はかっこいいくせに、こういうときに限って悪ノリが過ぎる。
(後で覚えてろよ)
結局面会時間終了まで、俺は為す術もなく二人に遊ばれてしまうのであった。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
聖也と千尋の深い事情
フロイライン
BL
中学二年の奥田聖也と一条千尋はクラス替えで同じ組になる。
取り柄もなく凡庸な聖也と、イケメンで勉強もスポーツも出来て女子にモテモテの千尋という、まさに対照的な二人だったが、何故か気が合い、あっという間に仲良しになるが…
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!?
※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。
いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。
しかしまだ問題が残っていた。
その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。
果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか?
また、恋の行方は如何に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる