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君だけが知っている
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普通の紙とは違い光沢を持った表面に印刷された写真の山積み。
これでも大分厳選したのだが、トータルで軽く100枚は超えていた。
「これ全部一人で撮ったの?」
「倍以上はメモリーカードに残ってるけどな。」
画面で見るのも悪くないが大人数には手に取って見れる方が良いだろう。
ここでの数ヶ月間の思い出は、小中学校での卒アルを優に超えるぐらい分厚いものになっていた。
「気に入ったのあったら持ち帰っていいぞ。」
貰ったデジカメには、レトロ風にしたり、くすんだ色を背景に差しこませるなどといった加工機能まで搭載されている。
いわゆる『インスタ映え』と呼ばれるような奴だ。
女子達はお気に召した様子で自分達が写った写真を山の中から夢中になって漁っていた。
「いずれはちゃんとしたファイルにでも入れるから。」
一枚だけ誰にも見せていない写真がある。
神崎先生とのツーショット。
上手く撮れたそれだけは引き出しの中にしまってある。
「凪君、お客さんが来てるわよ。」
「…お客さん?」
昨日までに来客の話は聞いていない。
寮母さんや児童相談所の職員の人が来る時は応接室に行く必要があり、時間が事前に看護士や主治医から教えられるはずだった。
「部屋で待っててもらってるから、行ってあげなさい。」
橋本先生から松葉杖を受け取り身支度を整える。
最初はふらつくことが多かったが、今は大分バランスが保てるようになった。
「写真は後で届けるね。」
「バイバイ」と手を振る葵に俺も片手で返した。
いつもより早めの時間に院内学級の教室を出る。
「誰が来ているんですか?」
「着いてからのお楽しみ。」
部屋まで送ってくれた看護士に質問してもはぐらかされてしまった。
お楽しみという言葉がどうにも引っかかる。
(…百聞は一見に如かず、か。とりあえず開けよう。)
意を決して開けた扉の向こうは。
「久しぶり。」
「マジで会いたかった!」
身がのけぞるぐらいの勢いで抱き着かれる。
懐かしい二つの声。
「…え?…何で二人が」
翔也と湊が目の前にいることに理解が追い付かず、間抜けな声が口から漏れてしまう。
「サプライズ成功」とハイタッチしているのを見るにわざと俺に隠していたと分かった。
「翔也、そろそろ離れろ。苦しい。」
バスケ部の体力馬鹿の腕を自力で引きはがすのは困難を極める。
「悪い。感動の再会で待ちきれなかったんだよ。」と返されるが全く反省しているようには見えない。
今日ぐらいは仕方ないとしても。
「突っ立ってないでこっち来いよ。」
ローテーブルをソファーで挟んだスペースで神崎先生が手招きしている。
眼鏡はしていないから無事コンタクトは買えたのだろうか。
この計画には先生も加担していたようで「一週間前に担任の先生を通じて電話があったんだ。」と答えた。
「元気そうで良かった。家まで送った次の日に入院なんて本当にびっくりしたよ。」
あの日、気分が優れなかったのは貧血や疲労によるもので入院の理由は右脚の骨折が主だったはず。
どうやら、学校に連絡が届くまで二人には病気に罹ったと勘違いをさせてしまっていたらしい。
4人分のマグカップに入ったコーヒー。
湊が病院までの道中で買ってきてくれたという有名洋菓子店のシュークリームを並べると和やかな雰囲気が部屋の中に立ち込めていく。
カスタードと生クリームの二層構造、薄めのシュー皮をかじるとまったりとした甘さが口に広がる。
ほろ苦く温かいコーヒーとも相性抜群だ。
「さっき、凪の話してたんだけど。」
「変なこと言ってないよな。」
屈託のない笑みを浮かべる翔也。
マグカップの中身はミルクと砂糖のせいかコーヒーというより最早カフェオレだ。
「他の人には内緒だけど、2年生のクラスも一緒にしてくれるって話。」
湊の証言によれば広尾先生が俺が復帰した後、学校に馴染みやすいよう気を遣ってくれたのことで。
「…わざわざ気遣わなくても」
「普通に喜べよ。」
喜べって、嫌な訳ではないけど「嬉しい」なんて声には出せない。
「そろそろお暇しないとね。」
「もう時間かよ。」
面会は原則午後4時まで、いつになくあっという間に過ぎてしまった。
「凪、最後に一つ。」
こっそりと耳打ちするように湊が寄ってきた。
「神崎さん、いい人だね。」
「…まあな。」
「応援してるよ。恋愛相談ならいつでも乗るからね。」
(…気づかれた)
思わず抗議したくなるのを何とかして抑える。
たったあれだけの時間で何故こいつにばれてしまったのか。
「これからも凪のこと頼みます。」
「いつでも来いよ。」
「またな。」
あの日、家のマンションで別れた時とは違う。
「また会える」そんな安堵感が胸を撫で下ろした。
「友達は分かってくれてるな。凪のこと。」
神崎先生はマグカップを洗いながら話す。
俺も手伝おうとしたが「怪我人は無理するな」と止められてしまったので大人しくベットに座って待つことにした。
先生は洗い終えたカップを置くと、俺の隣に腰かけた。
「今まで知らなかったお前がいて、同時に俺だけが知ってるお前もいた。」
「先生だけが知ってる?」
「…笑顔が可愛い、とか。」
こういうのをさらりと口にしてしまう大人の余裕いうとやつが憎らしい。
「可愛い」なんて女子に対して使う言葉。男の俺が反応するのはきっと恋のせい。
「俺だって知りたい。他の誰もが見たことのないあなたを。」
それは俺自身の本音だった。
これでも大分厳選したのだが、トータルで軽く100枚は超えていた。
「これ全部一人で撮ったの?」
「倍以上はメモリーカードに残ってるけどな。」
画面で見るのも悪くないが大人数には手に取って見れる方が良いだろう。
ここでの数ヶ月間の思い出は、小中学校での卒アルを優に超えるぐらい分厚いものになっていた。
「気に入ったのあったら持ち帰っていいぞ。」
貰ったデジカメには、レトロ風にしたり、くすんだ色を背景に差しこませるなどといった加工機能まで搭載されている。
いわゆる『インスタ映え』と呼ばれるような奴だ。
女子達はお気に召した様子で自分達が写った写真を山の中から夢中になって漁っていた。
「いずれはちゃんとしたファイルにでも入れるから。」
一枚だけ誰にも見せていない写真がある。
神崎先生とのツーショット。
上手く撮れたそれだけは引き出しの中にしまってある。
「凪君、お客さんが来てるわよ。」
「…お客さん?」
昨日までに来客の話は聞いていない。
寮母さんや児童相談所の職員の人が来る時は応接室に行く必要があり、時間が事前に看護士や主治医から教えられるはずだった。
「部屋で待っててもらってるから、行ってあげなさい。」
橋本先生から松葉杖を受け取り身支度を整える。
最初はふらつくことが多かったが、今は大分バランスが保てるようになった。
「写真は後で届けるね。」
「バイバイ」と手を振る葵に俺も片手で返した。
いつもより早めの時間に院内学級の教室を出る。
「誰が来ているんですか?」
「着いてからのお楽しみ。」
部屋まで送ってくれた看護士に質問してもはぐらかされてしまった。
お楽しみという言葉がどうにも引っかかる。
(…百聞は一見に如かず、か。とりあえず開けよう。)
意を決して開けた扉の向こうは。
「久しぶり。」
「マジで会いたかった!」
身がのけぞるぐらいの勢いで抱き着かれる。
懐かしい二つの声。
「…え?…何で二人が」
翔也と湊が目の前にいることに理解が追い付かず、間抜けな声が口から漏れてしまう。
「サプライズ成功」とハイタッチしているのを見るにわざと俺に隠していたと分かった。
「翔也、そろそろ離れろ。苦しい。」
バスケ部の体力馬鹿の腕を自力で引きはがすのは困難を極める。
「悪い。感動の再会で待ちきれなかったんだよ。」と返されるが全く反省しているようには見えない。
今日ぐらいは仕方ないとしても。
「突っ立ってないでこっち来いよ。」
ローテーブルをソファーで挟んだスペースで神崎先生が手招きしている。
眼鏡はしていないから無事コンタクトは買えたのだろうか。
この計画には先生も加担していたようで「一週間前に担任の先生を通じて電話があったんだ。」と答えた。
「元気そうで良かった。家まで送った次の日に入院なんて本当にびっくりしたよ。」
あの日、気分が優れなかったのは貧血や疲労によるもので入院の理由は右脚の骨折が主だったはず。
どうやら、学校に連絡が届くまで二人には病気に罹ったと勘違いをさせてしまっていたらしい。
4人分のマグカップに入ったコーヒー。
湊が病院までの道中で買ってきてくれたという有名洋菓子店のシュークリームを並べると和やかな雰囲気が部屋の中に立ち込めていく。
カスタードと生クリームの二層構造、薄めのシュー皮をかじるとまったりとした甘さが口に広がる。
ほろ苦く温かいコーヒーとも相性抜群だ。
「さっき、凪の話してたんだけど。」
「変なこと言ってないよな。」
屈託のない笑みを浮かべる翔也。
マグカップの中身はミルクと砂糖のせいかコーヒーというより最早カフェオレだ。
「他の人には内緒だけど、2年生のクラスも一緒にしてくれるって話。」
湊の証言によれば広尾先生が俺が復帰した後、学校に馴染みやすいよう気を遣ってくれたのことで。
「…わざわざ気遣わなくても」
「普通に喜べよ。」
喜べって、嫌な訳ではないけど「嬉しい」なんて声には出せない。
「そろそろお暇しないとね。」
「もう時間かよ。」
面会は原則午後4時まで、いつになくあっという間に過ぎてしまった。
「凪、最後に一つ。」
こっそりと耳打ちするように湊が寄ってきた。
「神崎さん、いい人だね。」
「…まあな。」
「応援してるよ。恋愛相談ならいつでも乗るからね。」
(…気づかれた)
思わず抗議したくなるのを何とかして抑える。
たったあれだけの時間で何故こいつにばれてしまったのか。
「これからも凪のこと頼みます。」
「いつでも来いよ。」
「またな。」
あの日、家のマンションで別れた時とは違う。
「また会える」そんな安堵感が胸を撫で下ろした。
「友達は分かってくれてるな。凪のこと。」
神崎先生はマグカップを洗いながら話す。
俺も手伝おうとしたが「怪我人は無理するな」と止められてしまったので大人しくベットに座って待つことにした。
先生は洗い終えたカップを置くと、俺の隣に腰かけた。
「今まで知らなかったお前がいて、同時に俺だけが知ってるお前もいた。」
「先生だけが知ってる?」
「…笑顔が可愛い、とか。」
こういうのをさらりと口にしてしまう大人の余裕いうとやつが憎らしい。
「可愛い」なんて女子に対して使う言葉。男の俺が反応するのはきっと恋のせい。
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