君を知るということ

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眼鏡とコンタクト

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強烈な眠気が瞼に襲いかかる。
最近は会談やら残業で、禄に睡眠時間を確保出来なかったのが原因だろう。
デスクで突っ伏して起きたら朝なんてことも少なくなかった。

ノック音と共にスライド式のドアが開く。

「ただいま戻りました。」

「お疲れ様です。送迎ありがとうございました。」

付添人の看護士に礼を言うと「失礼します。」と立ち去った。
今日は学生寮の寮母が来客している。凪に直接今後についての説明をして貰っている間、俺は別の職員との会議があった。
先に自分の方が終わったので、こうして持ち込んだパソコンで記録作業を進めていたという訳だ。

「どうだった?」

「正式な手続きについて聴いてきました。あっさり受け入れてくれたみたいで。」

俺も以前寮母さんと会ったことがあり、おおらかで肝が座っている人であったという印象を覚えていた。
契約関連の書類を受け取り、部屋に備え付けているファイルに入れる。
このファイルには診断書などをはじめとした個人情報が多く、取り扱いには細心の注意を払わなければならない。

「今日は眼鏡なんですね。」

「普段はコンタクトだけどな。」

いつも2weekのコンタクトを使用しているのだが、時間がないことを言い訳に買い忘れてしまった。
2weekの厄介なところは「トータルで14回使える」ではなく「容器から出した時点から数えて14日間」だということ。
使用期限の切れた物は酸素透過率が悪く(角膜に必要な潤いや酸素を届けられない)感染症のリスクが高くなってしまう。
そのため、病院にも「期限を守ろう」と銘打ったポスターが貼ってあり、俺も予備の眼鏡を持ち歩いているのが幸いだった。

(こいつ、目良いんだっけ)

眼科医の知り合いから聞いた話によると子供の平均視力は年々低下しているらしい。
スマホの普及のせいかと思われるが、凪の視力は裸眼でそれぞれ1.0近く。
本人曰く、あまりゲームとかはやっていなかったという。

透明感のあるアーモンドアイ。涼しげな瞳はいつ見ても綺麗だ。

「寝不足ですか?」

集中力が散漫になっている影響か記録はほとんど進んでいない。
肩こりも酷くなったような気がする。

凪はベットから身を乗り出すと片手を伸ばした。
指先がそっと眼鏡のフレームの下辺りに触れる。

「…どうした?」

突然の行動に驚きを隠せず、一瞬間が空いてしまった。

「眼精疲労かと思って。この辺りのツボを刺激するといいらしいですよ。」

(心配してくれたのか)

「何か癒されるな、お前見てると。」

「…今ので、目の疲れが取れるとは思えないけど。」

「いや、精神的に。」

褒められるのに弱くて、人を頼るのは下手だけど優しい奴。
あの親から凪が生まれたのは一種の奇跡かもしれない。

「…精神的にって。まあ、役に立てたなら。」

今月中には面会許可が降りる。
凪の友人から頼まれたサプライズ計画。

今度はどんな顔を俺に見せてくれるのか。
それを考えるだけで、今は頑張ろうと思えてくる。

レンズ越しのあいつが鮮明になって力をくれたように。


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