君を知るということ

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年末

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「今年もお疲れ様でした。乾杯!」

「カンパーイ!」

居酒屋のテーブルを先輩と同僚で囲みグラスを打ち合わせる。
仕事納めの12月28日、店内にはOLやらサラリーマン達のグループでごった返しており賑やかな雰囲気が辺りに漂っていた。

キンとガラス製の容器がぶつかる音と共に、注がれた生ビールを流し込む。
疲れた体に染み渡るような快楽は大人になったからこそ分かるようになったものだ。

「結局、今年も男と飲むなんて。」

隣に座る森塚が憂鬱そうにため息をつく。ここに集まっているのは全員カウンセリング担当で、彼の望むような女性スタッフは一人もいない。

「それ、去年も言ってなかったか?来年こそは彼女と過ごすって。」

「細かいことは気にすんな。二十代、まだチャンスはある。」

何の根拠もない御託を並べ、森塚はさっそくハイボールを追加で注文をし始めた。この切り替えの早さだけは思わず関心したくなる。
ちょうどさっき頼んだ料理も届いたので人数分に取り分ける。
唐揚げ、枝豆、だし巻き卵といったつまみの定番がテーブルに揃うと先輩方も歓喜した。

「神崎、可愛い子知らない?」

「何で俺に聞くんですか?」

向かいの席で前菜のサラダを箸でつつきながら質問してきたのは小泉先輩。
先輩の担当は比較的年配の患者が多く、出会いのなさに困っているらしい。

「お前、看護学生にモテるから。今日も『神崎先生って彼女いるんですか?』って」

「…はぁ」

「無自覚なのが余計タチ悪くないすか?」

「それな。」

モテるという自覚はないのだが、何故こんなに共感されているのだろうか。
意気投合と言わんばかりに先輩と森塚に責め立てられた。

「仕事納めでも、休み少ないし。」

休暇の少なさは医療従事者なら誰もが抱える悩みだ。
カウンセラーならまだいいが、医者や看護士ならさらに多忙を極める。
インフルエンザにノロウイルス、冬は凶悪なウイルスが蔓延しやすい。

「俺は別に嫌ではないですよ。」

「そのモチベーションはどこから来んだよ。正直怖いわ。」

最近の職場に来る理由の半分ぐらいはあいつに会うため。
初恋の相手は患者、しかも男子高校生なんて口が裂けても言えないが。



「では、よいお年を。」

「じゃあな。」

終電前に飲み会を切り上げ、割り勘で勘定を済ませて駅で解散する。
電車の振動音、つり革に捕まる社会人の顔触れは疲労や解放感など年末ムードに浸っているご様子。

最寄駅まで30分、俺は時間を潰そうと鞄からスマホを取り出す。
フォルダ内の写真は凪のデジカメのメモリーカードから転送させて貰ったものだ。
自撮りには慣れていなかったのかぎこちなく表情を取り繕うとしている。

(これは、よく撮れてるな)

指で画面をスライドさせるともう一枚写真が出てきた。
さっきのよりも俺も凪も自然体な笑みで写っている。肌が触れ合っていたことを思い出すと頬が赤く火照るのを感じた。

(次に会えるのは年明けか)

傍から見れば変わっているかもしれない。だが、俺にとっては日常が待ち遠しい。





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