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余興
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「決めた!」
髪を高い位置でツインテールに結んだ女児が選んだのはハートのエース。
それを元の場所に戻し、カードが見えないよう教室の外で待機させていた葵を呼び出す。
「選んだのはこれだね。」
葵が指をさしたのは先程女児が選択したカードだ。
「当たり!」
「なんで分かったの?」
今披露したのは二人一組でやる手品で、まずトランプを10枚並べ、どこでもいいので1枚は必ず『10』のカードを入れておく。
もう一人は別の場所に隠れ、その間に手品を見せる相手に好きなカードを選んでもらう。
やり方としては、隠れていなかった人が順番に全てのカードをさしていく。その際、『10』のカードの時に答えのカードと同じ位置のマークをさす。
実は最初に並べた配置は『10』のマークと同じ配置になるように並べられていて、この場合俺がさしたのは左列の上から2番目。つまり、そこに置かれているのが相手が選んだものということになる。
トランプ自体には仕掛けは一切入っていないし(マークのないトランプだと出来ないのが難点だが)仕組みさえ理解してしまえば結構簡単に出来てしまうのだけど、予想以上にウケが良く、子供達は嬉々とした目で夢中になっていた。
「葵、もう一回やって!」
普段大勢に囲まれることがなかったのか、葵はしどろもどろになっているがどことなく楽しんでいるようにも見える。その様子にふと、前の俺の姿が重なった。
「あのさ、俺に勉強教えてくんない?」
「…なんで、俺に?」
まだ、セミの声がうるさかった夏の頃。定期試験の勉強を見てくれないかと、頼まれたのが翔也との初めての会話だった。運動部のルーキー、社交的でいわゆる『陽キャ』と呼ばれるような人間が何故約40人のクラスメイトの中からわざわざ俺に話しかけてきたのか、当時は疑問を抱いていた記憶がある。
「だって数学、クラス1位だったじゃん。スゲーよな。俺、高校入ってから全然でさ。」
「僕にもお願いね、凪。」
「…湊まで。」
成り行きで三人で挑んだテスト。赤点をギリギリで回避するぐらいだったらしい翔也の点数は平均点を少し超すまでに飛躍していた。
「マジありがと!二人ともお礼に奢るからさ、帰りちょっと寄ってこうぜ。」
「良かったね。友達、一人増えたよ。」
あの日が3人で過ごすようになった最初のきっかけだったと思う。
「ねえねえ、他にもないの?」
葵に群がっていた子供達が今度は俺の方にやってくる。
マジックを複数用意しといて助かった。不正がないことを示すために念入りにシャッフルをする。
「あ、来た! 龍一先生、こっちこっち。」
葵の手招きに従って神崎先生は橋本先生のいる後ろ側ではなく、俺の目の前に座った。
身長170センチは超えているであろう体格は、小学生用の椅子がミニチュアのように見えてしまう。
(まさか、葵はこれを狙って)
単なる偶然にしてはタイミングがあまりにも良い。
「で、何を見せてくれんのか?」
(何で、こんな緊張して)
平常心を装うとするとそれが逆により心臓の鼓動を高めてしまう。
ただの子供騙しの余興は、まるで心理戦のギャンブルへと姿を変えてしまった。
髪を高い位置でツインテールに結んだ女児が選んだのはハートのエース。
それを元の場所に戻し、カードが見えないよう教室の外で待機させていた葵を呼び出す。
「選んだのはこれだね。」
葵が指をさしたのは先程女児が選択したカードだ。
「当たり!」
「なんで分かったの?」
今披露したのは二人一組でやる手品で、まずトランプを10枚並べ、どこでもいいので1枚は必ず『10』のカードを入れておく。
もう一人は別の場所に隠れ、その間に手品を見せる相手に好きなカードを選んでもらう。
やり方としては、隠れていなかった人が順番に全てのカードをさしていく。その際、『10』のカードの時に答えのカードと同じ位置のマークをさす。
実は最初に並べた配置は『10』のマークと同じ配置になるように並べられていて、この場合俺がさしたのは左列の上から2番目。つまり、そこに置かれているのが相手が選んだものということになる。
トランプ自体には仕掛けは一切入っていないし(マークのないトランプだと出来ないのが難点だが)仕組みさえ理解してしまえば結構簡単に出来てしまうのだけど、予想以上にウケが良く、子供達は嬉々とした目で夢中になっていた。
「葵、もう一回やって!」
普段大勢に囲まれることがなかったのか、葵はしどろもどろになっているがどことなく楽しんでいるようにも見える。その様子にふと、前の俺の姿が重なった。
「あのさ、俺に勉強教えてくんない?」
「…なんで、俺に?」
まだ、セミの声がうるさかった夏の頃。定期試験の勉強を見てくれないかと、頼まれたのが翔也との初めての会話だった。運動部のルーキー、社交的でいわゆる『陽キャ』と呼ばれるような人間が何故約40人のクラスメイトの中からわざわざ俺に話しかけてきたのか、当時は疑問を抱いていた記憶がある。
「だって数学、クラス1位だったじゃん。スゲーよな。俺、高校入ってから全然でさ。」
「僕にもお願いね、凪。」
「…湊まで。」
成り行きで三人で挑んだテスト。赤点をギリギリで回避するぐらいだったらしい翔也の点数は平均点を少し超すまでに飛躍していた。
「マジありがと!二人ともお礼に奢るからさ、帰りちょっと寄ってこうぜ。」
「良かったね。友達、一人増えたよ。」
あの日が3人で過ごすようになった最初のきっかけだったと思う。
「ねえねえ、他にもないの?」
葵に群がっていた子供達が今度は俺の方にやってくる。
マジックを複数用意しといて助かった。不正がないことを示すために念入りにシャッフルをする。
「あ、来た! 龍一先生、こっちこっち。」
葵の手招きに従って神崎先生は橋本先生のいる後ろ側ではなく、俺の目の前に座った。
身長170センチは超えているであろう体格は、小学生用の椅子がミニチュアのように見えてしまう。
(まさか、葵はこれを狙って)
単なる偶然にしてはタイミングがあまりにも良い。
「で、何を見せてくれんのか?」
(何で、こんな緊張して)
平常心を装うとするとそれが逆により心臓の鼓動を高めてしまう。
ただの子供騙しの余興は、まるで心理戦のギャンブルへと姿を変えてしまった。
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