20 / 88
自覚 2
しおりを挟む
『恋』の定義とは
特定の相手の価値を高く感じて、精神や肉体に接触したい心理を指す。
加えて一緒にいると高揚感を憶えるなどといった状態にある。
男性は「自分が特別」という状態に弱い特徴があり、好意を持つメカニズムに直結しているらしい。
(…まさか、ここまで当てはまるとは)
大学で学んだ心理学を列挙してみたが見事なまでに一致している。
講義を受けていた当時は他人事のように聞いていたが、先人の教えは案外侮れないものであった。
患者、高校生、そして性別は男
あまりにも前途多難、いや最早八方塞がりと言った方が良いだろうか。
「神崎も泊まりか?」
クリアファイルの束を抱えて事務室に現れたのは同僚の森塚だ。俺がこの病院に勤務し始めた頃から同じ場所で仕事をすることが多く、月末には飲みに行くぐらいの仲である。
「雪で電車が遅延してる。無理に乗ってまで帰る気になれなくてな。」
東京では稀に起こる積雪。
電車の運休、遅延情報がネットニュースに次々と更新される。
新潟じゃ吹雪でも走っているというのに。政治家にお願いするなら、都会の公共交通機関の耐久性をもう少し上げてくれないかと頼みたい。
最寄駅は帰宅ラッシュの人でごった返しているだろう。
寒い中、バスやタクシーを待つ行列に並ぶぐらいならと今日はここで夜を明かすことにした。
ふと外に目をやると敷地内の街灯が純白の道を照らしているのが映る。
東京じゃ珍しい景色に子供達のはしゃぐ様子が浮かんだ。
(あいつは、どうだろうな)
「人手不足何とかならねえの。」
パソコンのキーボードを叩きながら森塚が愚痴をこぼす。
ここに限らず医療現場は常に人員が足りていない。俺が凪を担当することになり、結果として森塚や他の先輩の業務が増えてしまったという訳だ。
「書類は俺がやっとくから、記録終わらせろよ。」
「サンキュー。優秀な同僚がいてマジで助かる。」
以前よりも仕事に対するモチベーションが上がったせいか、記録等の作業スピードが速くなった気がする。
書類に目を通し、必要があれば印鑑を押す。規則正しい音で稼働するコピー機からは大量の紙が印刷されては受け取り口に落ちていった。
「神崎、良いことでもあったか?」
「担当してる患者なんだけど、笑ってくれるようになって。…それが、自然とやる気になってるって感じ。」
森塚は「例の凪君、だっけ?仲良いって評判だしな。」と言った。
周りからそう見えているのなら一安心だ。幸い、まだ本心には気づかれていない。
捌き終えた書類をクリップでまとめ、指定のボックスへ入れる。
時刻は午後9時半、ちょうど消灯時間になり時機に見回りが来るだろう。
「お疲れ。」
「またな。」
仮眠室の隣にはシャワー室が併設されているので、荷物を置いてからシャワーブースへと移動する。
タオルで水分を拭いながらベットに腰を下ろした。
もし本心に気づかれ、噂にでもなれば凪に迷惑をかけることになる。
それは俺自身が最も望まないこと。
自分の感情が持つべきものではないと解っていても、簡単には諦められない。心理を学んできたからこそ俺自身が一番理解しているつもりだ。
だが、この日の俺はまだ知らない。
淡い望みが思わぬ形で叶うということに。
特定の相手の価値を高く感じて、精神や肉体に接触したい心理を指す。
加えて一緒にいると高揚感を憶えるなどといった状態にある。
男性は「自分が特別」という状態に弱い特徴があり、好意を持つメカニズムに直結しているらしい。
(…まさか、ここまで当てはまるとは)
大学で学んだ心理学を列挙してみたが見事なまでに一致している。
講義を受けていた当時は他人事のように聞いていたが、先人の教えは案外侮れないものであった。
患者、高校生、そして性別は男
あまりにも前途多難、いや最早八方塞がりと言った方が良いだろうか。
「神崎も泊まりか?」
クリアファイルの束を抱えて事務室に現れたのは同僚の森塚だ。俺がこの病院に勤務し始めた頃から同じ場所で仕事をすることが多く、月末には飲みに行くぐらいの仲である。
「雪で電車が遅延してる。無理に乗ってまで帰る気になれなくてな。」
東京では稀に起こる積雪。
電車の運休、遅延情報がネットニュースに次々と更新される。
新潟じゃ吹雪でも走っているというのに。政治家にお願いするなら、都会の公共交通機関の耐久性をもう少し上げてくれないかと頼みたい。
最寄駅は帰宅ラッシュの人でごった返しているだろう。
寒い中、バスやタクシーを待つ行列に並ぶぐらいならと今日はここで夜を明かすことにした。
ふと外に目をやると敷地内の街灯が純白の道を照らしているのが映る。
東京じゃ珍しい景色に子供達のはしゃぐ様子が浮かんだ。
(あいつは、どうだろうな)
「人手不足何とかならねえの。」
パソコンのキーボードを叩きながら森塚が愚痴をこぼす。
ここに限らず医療現場は常に人員が足りていない。俺が凪を担当することになり、結果として森塚や他の先輩の業務が増えてしまったという訳だ。
「書類は俺がやっとくから、記録終わらせろよ。」
「サンキュー。優秀な同僚がいてマジで助かる。」
以前よりも仕事に対するモチベーションが上がったせいか、記録等の作業スピードが速くなった気がする。
書類に目を通し、必要があれば印鑑を押す。規則正しい音で稼働するコピー機からは大量の紙が印刷されては受け取り口に落ちていった。
「神崎、良いことでもあったか?」
「担当してる患者なんだけど、笑ってくれるようになって。…それが、自然とやる気になってるって感じ。」
森塚は「例の凪君、だっけ?仲良いって評判だしな。」と言った。
周りからそう見えているのなら一安心だ。幸い、まだ本心には気づかれていない。
捌き終えた書類をクリップでまとめ、指定のボックスへ入れる。
時刻は午後9時半、ちょうど消灯時間になり時機に見回りが来るだろう。
「お疲れ。」
「またな。」
仮眠室の隣にはシャワー室が併設されているので、荷物を置いてからシャワーブースへと移動する。
タオルで水分を拭いながらベットに腰を下ろした。
もし本心に気づかれ、噂にでもなれば凪に迷惑をかけることになる。
それは俺自身が最も望まないこと。
自分の感情が持つべきものではないと解っていても、簡単には諦められない。心理を学んできたからこそ俺自身が一番理解しているつもりだ。
だが、この日の俺はまだ知らない。
淡い望みが思わぬ形で叶うということに。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?


最弱伝説俺
京香
BL
元柔道家の父と元モデルの母から生まれた葵は、四兄弟の一番下。三人の兄からは「最弱」だと物理的愛のムチでしごかれる日々。その上、高校は寮に住めと一人放り込まれてしまった!
有名柔道道場の実家で鍛えられ、その辺のやんちゃな連中なんぞ片手で潰せる強さなのに、最弱だと思い込んでいる葵。兄作成のマニュアルにより高校で不良認定されるは不良のトップには求婚されるはで、はたして無事高校を卒業出来るのか!?

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる