君を知るということ

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自覚

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「龍一先生のこと、好きなんだね。」

今や新しい日常と化した葵と過ごす午後の時間。
屈託のない笑顔から放たれ言葉に何故か心臓がドキリと鳴るのを感じた。

「だって、他の先生が来たときよりお兄さん嬉しそうだったから。」

出会ってからまだ一か月弱しかたっていないのにもかかわらず、俺はあの人に信頼を寄せている節は確かにあった。
無理に話を問いただそうとせず口下手な自分に耳を傾けてくれて、大っぴらに泣いてしまったときも落ち着くまで隣にいてくれる。
本人は「親友の分まで人を助けるのは建前で、本当は罪悪感から逃れたかっただけだ」と言っていたが俺はそれを傲慢だとは思わない。

「…そうかもな。」

きっとこの「好き」は敬愛や尊敬に近いものなんだ。そう自分に言い聞かせる。
目の前の純粋な子供に動揺を悟られないように。

「そういえばさ、余興何やるか決めたか?」

さっきの話題を長引かせたくなくて、興味を逸らすことにした。
来週のクリスマス会に向けて職員が色々準備してくれているのだが、子供達も毎年余興を披露しているらしい。
定番なのが歌やダンスとのことだが、足の状態的に身体を使うようなものは出来ないだろう。
中学、高校と家の事情を理由に部活にも入っていなかったから楽器等の経験があるわけではない。

「俺、人前に出るの苦手で去年はやらなかったんだけど。」

「じゃあ、一緒にやってみないか?」

小学校時代、似たような『お楽しみ会』とやらで見せた芸があった。
あれなら、トランプさえあれば簡単に練習ができる。


「今日は何してんだ?」

時間が過ぎるのは案外あっという間だ。誰かと企画して何かをやるのも久しかったのかすっかり二人して夢中になってしまった。

「本番までのお楽しみってことで。」

覗き込む神崎先生を尻目に、葵と顔の前に人差し指を立てて「内緒」を示し合わせる。
一回ぐらい先生を驚ろかせてもいいかもしれない。

「葵も変わったな。前はもっと個人主義っていうか、行事を楽しみにすることもなかったのに。
凪のおかげかもな。」

「ありがとな」と微笑みながら神崎先生は俺に触れてくる。
髪からそっと頬へ降りてくる指先。暖かくてどこかフワフワと高揚した気持ちとは裏腹に、心臓の鼓動がどんどん速くなった。

「先生のこと、好きなんだね。」

本当は解っていたはずだ。俺の「好き」は多分葵の思う感情とは違う意識であることを。
そして、同時に向けてはいけない感情だとも気づいている。

(この人にとっては一人の患者でしかないとしても)

せめて、二人でいる時間ぐらいは許してくれないだろうか。

どこにいるのか、見えない神にでも祈るように

今日も俺は先生の優しさを享受する。
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