君を知るということ

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気づき

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「神崎君、私ちょっと用事で抜けるから子供達のことお願いしてもいいかな?」

休み明けの出勤日、橋本さんからの要望を受けた午後3時。今日は元々デスクワークであるデータの整理が大方片付いていたので特に問題はない。
むしろ、早くあいつに会えることを好都合に感じている自分がいた。

ドアを開けて真っ先に視界に入ったのはローテーブルに置かれている小学校時代によく使っていたようなお道具箱。
工作に勤しむ子供らをみるに作っているのはクリスマス会用の飾りのようだ。

「葵、接着剤あるか?」
「これでいい?」

葵から接着剤を受け取った凪は、太めのモールが巻き付けられた型にオーナメント類を付けていく。
中には小さな鈴が入っていてコロコロと心地良い音が鳴った。

「手、器用だな。」

「…料理とか自分でやってたからそのせいかも。」

完成したリースは見本の写真と遜色のない出来だ。細かい作業が性に合っていたのか最早、工作というよりハンドメイドの方が近い気もするが。
他の子供も靴下や雪の結晶を模した飾りを次々と仕上げてきたし、一度休憩させるとしよう。

左手に下げたビニール袋から菓子を出してやる。売店の飲食物は自由の利かない患者にとっては数少ない楽しみの一つだ。一口サイズのチョコパイや醤油味のおかきなど。配り終える頃には教室内にまったりとした雰囲気が流れていた。

「龍一先生って結構不器用なの知ってる?」

「そうなのか?何か意外。」

折り紙が下手とか、紙を真っ直ぐに手で割けないだとか、葵は砂糖がまぶされたドーナツを頬ばりながら余計な事まで教えてくる。
手先が器用じゃないのは昔からで家庭科のミシンの縫い目は曲がるし、自炊時の料理の味付けも大体目分量だ。
処理が面倒な揚げ物はまずやらない。

「龍一って頭はいいのにこういうのは苦手だよな。」

律が勝ち誇った笑みでそう言っていたのを思い出す。
俺とは対照的に美術や書道で賞をかっさらっていく律を内心羨ましく思う時もあった。

「でも、完璧な人より出来ない事の一つ二つある方がいい。…俺はその人をもっと身近な存在だと思えるから。」

凪の言葉を聞くと不思議と悪い気はしなかった。
きっと律と俺も互いに欠けている所があったからこそ通じ合っていたのかもしれない。


部屋まで戻る道中、凪は松葉杖を懸命に動かしながら廊下を歩いていく。
訓練が始まったばかりとはいえ、手放しで眺めるには少々危なっかしい。
転ばないよう補佐をしながらエレベーターに乗り込む。エレベーター出口から部屋までは近いから乗ってしまえばもうすぐだ。

「すみません。手間取らせて。」

「謝んなって。俺がいない間、頑張ってたんだな。」

ポンと頭を撫でると凪はフイと顔をそらす。

「嫌だったか?」

「…嫌じゃないけど、恥ずかしいっていうか。」

若干顔を赤く染めてしどろもどろに説明する様子を見ていると次第にからかいたくなってきた。

「可愛いとこあるよな、お前。」

「…別に可愛くなんか」

(好きな子ほどいじめたくなる、か。…いや小学生じゃあるまいし。)












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