18 / 88
気づき
しおりを挟む
「神崎君、私ちょっと用事で抜けるから子供達のことお願いしてもいいかな?」
休み明けの出勤日、橋本さんからの要望を受けた午後3時。今日は元々デスクワークであるデータの整理が大方片付いていたので特に問題はない。
むしろ、早くあいつに会えることを好都合に感じている自分がいた。
ドアを開けて真っ先に視界に入ったのはローテーブルに置かれている小学校時代によく使っていたようなお道具箱。
工作に勤しむ子供らをみるに作っているのはクリスマス会用の飾りのようだ。
「葵、接着剤あるか?」
「これでいい?」
葵から接着剤を受け取った凪は、太めのモールが巻き付けられた型にオーナメント類を付けていく。
中には小さな鈴が入っていてコロコロと心地良い音が鳴った。
「手、器用だな。」
「…料理とか自分でやってたからそのせいかも。」
完成したリースは見本の写真と遜色のない出来だ。細かい作業が性に合っていたのか最早、工作というよりハンドメイドの方が近い気もするが。
他の子供も靴下や雪の結晶を模した飾りを次々と仕上げてきたし、一度休憩させるとしよう。
左手に下げたビニール袋から菓子を出してやる。売店の飲食物は自由の利かない患者にとっては数少ない楽しみの一つだ。一口サイズのチョコパイや醤油味のおかきなど。配り終える頃には教室内にまったりとした雰囲気が流れていた。
「龍一先生って結構不器用なの知ってる?」
「そうなのか?何か意外。」
折り紙が下手とか、紙を真っ直ぐに手で割けないだとか、葵は砂糖がまぶされたドーナツを頬ばりながら余計な事まで教えてくる。
手先が器用じゃないのは昔からで家庭科のミシンの縫い目は曲がるし、自炊時の料理の味付けも大体目分量だ。
処理が面倒な揚げ物はまずやらない。
「龍一って頭はいいのにこういうのは苦手だよな。」
律が勝ち誇った笑みでそう言っていたのを思い出す。
俺とは対照的に美術や書道で賞をかっさらっていく律を内心羨ましく思う時もあった。
「でも、完璧な人より出来ない事の一つ二つある方がいい。…俺はその人をもっと身近な存在だと思えるから。」
凪の言葉を聞くと不思議と悪い気はしなかった。
きっと律と俺も互いに欠けている所があったからこそ通じ合っていたのかもしれない。
部屋まで戻る道中、凪は松葉杖を懸命に動かしながら廊下を歩いていく。
訓練が始まったばかりとはいえ、手放しで眺めるには少々危なっかしい。
転ばないよう補佐をしながらエレベーターに乗り込む。エレベーター出口から部屋までは近いから乗ってしまえばもうすぐだ。
「すみません。手間取らせて。」
「謝んなって。俺がいない間、頑張ってたんだな。」
ポンと頭を撫でると凪はフイと顔をそらす。
「嫌だったか?」
「…嫌じゃないけど、恥ずかしいっていうか。」
若干顔を赤く染めてしどろもどろに説明する様子を見ていると次第にからかいたくなってきた。
「可愛いとこあるよな、お前。」
「…別に可愛くなんか」
(好きな子ほどいじめたくなる、か。…いや小学生じゃあるまいし。)
休み明けの出勤日、橋本さんからの要望を受けた午後3時。今日は元々デスクワークであるデータの整理が大方片付いていたので特に問題はない。
むしろ、早くあいつに会えることを好都合に感じている自分がいた。
ドアを開けて真っ先に視界に入ったのはローテーブルに置かれている小学校時代によく使っていたようなお道具箱。
工作に勤しむ子供らをみるに作っているのはクリスマス会用の飾りのようだ。
「葵、接着剤あるか?」
「これでいい?」
葵から接着剤を受け取った凪は、太めのモールが巻き付けられた型にオーナメント類を付けていく。
中には小さな鈴が入っていてコロコロと心地良い音が鳴った。
「手、器用だな。」
「…料理とか自分でやってたからそのせいかも。」
完成したリースは見本の写真と遜色のない出来だ。細かい作業が性に合っていたのか最早、工作というよりハンドメイドの方が近い気もするが。
他の子供も靴下や雪の結晶を模した飾りを次々と仕上げてきたし、一度休憩させるとしよう。
左手に下げたビニール袋から菓子を出してやる。売店の飲食物は自由の利かない患者にとっては数少ない楽しみの一つだ。一口サイズのチョコパイや醤油味のおかきなど。配り終える頃には教室内にまったりとした雰囲気が流れていた。
「龍一先生って結構不器用なの知ってる?」
「そうなのか?何か意外。」
折り紙が下手とか、紙を真っ直ぐに手で割けないだとか、葵は砂糖がまぶされたドーナツを頬ばりながら余計な事まで教えてくる。
手先が器用じゃないのは昔からで家庭科のミシンの縫い目は曲がるし、自炊時の料理の味付けも大体目分量だ。
処理が面倒な揚げ物はまずやらない。
「龍一って頭はいいのにこういうのは苦手だよな。」
律が勝ち誇った笑みでそう言っていたのを思い出す。
俺とは対照的に美術や書道で賞をかっさらっていく律を内心羨ましく思う時もあった。
「でも、完璧な人より出来ない事の一つ二つある方がいい。…俺はその人をもっと身近な存在だと思えるから。」
凪の言葉を聞くと不思議と悪い気はしなかった。
きっと律と俺も互いに欠けている所があったからこそ通じ合っていたのかもしれない。
部屋まで戻る道中、凪は松葉杖を懸命に動かしながら廊下を歩いていく。
訓練が始まったばかりとはいえ、手放しで眺めるには少々危なっかしい。
転ばないよう補佐をしながらエレベーターに乗り込む。エレベーター出口から部屋までは近いから乗ってしまえばもうすぐだ。
「すみません。手間取らせて。」
「謝んなって。俺がいない間、頑張ってたんだな。」
ポンと頭を撫でると凪はフイと顔をそらす。
「嫌だったか?」
「…嫌じゃないけど、恥ずかしいっていうか。」
若干顔を赤く染めてしどろもどろに説明する様子を見ていると次第にからかいたくなってきた。
「可愛いとこあるよな、お前。」
「…別に可愛くなんか」
(好きな子ほどいじめたくなる、か。…いや小学生じゃあるまいし。)
1
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
聖也と千尋の深い事情
フロイライン
BL
中学二年の奥田聖也と一条千尋はクラス替えで同じ組になる。
取り柄もなく凡庸な聖也と、イケメンで勉強もスポーツも出来て女子にモテモテの千尋という、まさに対照的な二人だったが、何故か気が合い、あっという間に仲良しになるが…
私の事を調べないで!
さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と
桜華の白龍としての姿をもつ
咲夜 バレないように過ごすが
転校生が来てから騒がしくなり
みんなが私の事を調べだして…
表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓
https://picrew.me/image_maker/625951
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!?
※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。
いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。
しかしまだ問題が残っていた。
その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。
果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか?
また、恋の行方は如何に。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる