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ある部下の独白
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『霞流組』が表向きに名乗っているコンサルティング会社、常務取締役の『羽鳥 孝文』
そんな俺が仰せつかった仕事は、若が拾った子供の世話係。
若も秘書の裕也も営業や挨拶回りで忙しいので、学校が終わってから夜までの面倒を見てくれと頼まれた訳だ。
(友達かな?)
「迎えに来たぞー。」
今日も今日とて車でお迎え。
友達と思わしき男児と会話を弾ませ、やがて小さな影が近づく。
窓を開け、駿に呼びかける。
そうすればすっかり慣れた様子で助手席に乗ってくれる。
「さっきの子と何話してたんだ?」
「…ゲーム。夜オンライン対戦しないかって。」
「そっか。友達できてよかったな。」
小学生というのは同じ物を持っているだけで簡単に仲良くなれた。
嬉しそうな表情をからかうと「あいつが勝手に話しかけてくるだけ」なんて、テンプレ通りのツンデレを発揮する。
駿はむさ苦しい野郎ばかりが集まる我が組にとってはマスコット的存在。
可愛い舎弟を独り占めできるこの道中に、いつしか優越感すら抱いていた。
「ただいま戻りました。」
「帰ったか。書類溜まってるぞ。」
「…若が放棄したやつじゃん。」
取引先とのあれこれと書類を類推する。
ふと目に止まったのは介護施設の要項。
覚えのない名前に首を傾げる。
「駿のばあさんが居る施設らしい。」
「なるほど。でも、本人に伝えないんですか?」
「病気がどこまで進行してるか判らないし、介護施設なら認知症を併発してる可能性だってある。まずはこっちで話をつけてから。裕也も色々考えてるみたい。」
居合わせた荻原さんが疑問に答える。
傍の机で宿題に勤しむ駿には聞こえないよう、耳元で続きを伺う。
組員の一人を清掃員のアルバイトに扮して潜入させ接触を図り、意思疎通ができる健康状態であるか確かめる。
上司が考案した作戦は理にかなっていた。
「お、噂をすれば通知が来てる。」
裕也から届いたメッセージへ返信を打つ。
「営業の後、ついでにキャバクラの闇金捕まえに行くから遅くなる。駿の夕飯も頼んでいい?」
「了解。人数は大丈夫か?」
「ノープロブレム!さくっと片付けてくるわ。」
案件はシマで害を為す闇金業者の成敗。
貧乏な女性を狙い、強引に夜の店に売り込み紹介料を天引き。
抵抗すれば若を使って脅す、さしずめ虎の威を借る狐だろうか。
しかもその店はうちがコンサルティングを承るお得意様。
(コンサルティングとは経営のアドバイザーをしたり、資金を援助したりすること。)
「…あの二人なら急がずとも対処可能なはずですが。」
「ほら、例の議員に結構貸してるでしょ?差し押さえするまでの財源の穴埋めだって。」
情報を整理しつつ、若がサボった報告書を纏める。
議員の処分と社長夫妻の捜索。
これに加え、駿を異様に嫌悪する吉峯の存在。
監視のため、自作の超小型カメラを彼の私物に忍ばせた。
(…今のところ吉峯に変化はないが)
「駿の宿題も終わったところでお茶にしようか。取引先に貰った菓子折りがある。」
「桐森堂のどら焼き!これ好きなんですよ~。」
「…おいしそう。」
「だろ?ちなみにおすすめはバター入りな。」
荻原さんが持ってきたどら焼きを嬉々として覗く。
俺と同じで駿は甘味に目がない。
「そういえば、若のダンス見ました?」
「ダンス?」
「この前行ったゲーセンのやつ。裕也が動画撮ってた。」
「見せて見せて!」
好きなおやつを食べてくだらない話題で盛り上がる、上司には秘密のティータイム。
裏の仕事の隙間にもそんな平穏な日常がある。
そんな俺が仰せつかった仕事は、若が拾った子供の世話係。
若も秘書の裕也も営業や挨拶回りで忙しいので、学校が終わってから夜までの面倒を見てくれと頼まれた訳だ。
(友達かな?)
「迎えに来たぞー。」
今日も今日とて車でお迎え。
友達と思わしき男児と会話を弾ませ、やがて小さな影が近づく。
窓を開け、駿に呼びかける。
そうすればすっかり慣れた様子で助手席に乗ってくれる。
「さっきの子と何話してたんだ?」
「…ゲーム。夜オンライン対戦しないかって。」
「そっか。友達できてよかったな。」
小学生というのは同じ物を持っているだけで簡単に仲良くなれた。
嬉しそうな表情をからかうと「あいつが勝手に話しかけてくるだけ」なんて、テンプレ通りのツンデレを発揮する。
駿はむさ苦しい野郎ばかりが集まる我が組にとってはマスコット的存在。
可愛い舎弟を独り占めできるこの道中に、いつしか優越感すら抱いていた。
「ただいま戻りました。」
「帰ったか。書類溜まってるぞ。」
「…若が放棄したやつじゃん。」
取引先とのあれこれと書類を類推する。
ふと目に止まったのは介護施設の要項。
覚えのない名前に首を傾げる。
「駿のばあさんが居る施設らしい。」
「なるほど。でも、本人に伝えないんですか?」
「病気がどこまで進行してるか判らないし、介護施設なら認知症を併発してる可能性だってある。まずはこっちで話をつけてから。裕也も色々考えてるみたい。」
居合わせた荻原さんが疑問に答える。
傍の机で宿題に勤しむ駿には聞こえないよう、耳元で続きを伺う。
組員の一人を清掃員のアルバイトに扮して潜入させ接触を図り、意思疎通ができる健康状態であるか確かめる。
上司が考案した作戦は理にかなっていた。
「お、噂をすれば通知が来てる。」
裕也から届いたメッセージへ返信を打つ。
「営業の後、ついでにキャバクラの闇金捕まえに行くから遅くなる。駿の夕飯も頼んでいい?」
「了解。人数は大丈夫か?」
「ノープロブレム!さくっと片付けてくるわ。」
案件はシマで害を為す闇金業者の成敗。
貧乏な女性を狙い、強引に夜の店に売り込み紹介料を天引き。
抵抗すれば若を使って脅す、さしずめ虎の威を借る狐だろうか。
しかもその店はうちがコンサルティングを承るお得意様。
(コンサルティングとは経営のアドバイザーをしたり、資金を援助したりすること。)
「…あの二人なら急がずとも対処可能なはずですが。」
「ほら、例の議員に結構貸してるでしょ?差し押さえするまでの財源の穴埋めだって。」
情報を整理しつつ、若がサボった報告書を纏める。
議員の処分と社長夫妻の捜索。
これに加え、駿を異様に嫌悪する吉峯の存在。
監視のため、自作の超小型カメラを彼の私物に忍ばせた。
(…今のところ吉峯に変化はないが)
「駿の宿題も終わったところでお茶にしようか。取引先に貰った菓子折りがある。」
「桐森堂のどら焼き!これ好きなんですよ~。」
「…おいしそう。」
「だろ?ちなみにおすすめはバター入りな。」
荻原さんが持ってきたどら焼きを嬉々として覗く。
俺と同じで駿は甘味に目がない。
「そういえば、若のダンス見ました?」
「ダンス?」
「この前行ったゲーセンのやつ。裕也が動画撮ってた。」
「見せて見せて!」
好きなおやつを食べてくだらない話題で盛り上がる、上司には秘密のティータイム。
裏の仕事の隙間にもそんな平穏な日常がある。
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