75 / 78
Final Chapter 傲慢の人
第74話 皆の想い
しおりを挟む
ここまでか。
そう思って黒時が目を閉じようとした時、暖かいなにかが身体の中に入ってくるのを感じた。
暖かい想い。
怜奈の黒時を想う想いが、黒時の中に流れ込んでくる。すると、今まで指一本動かせなかった身体に力が漲ってくるのを感じた。
黒時は立ち上がった。そしてまた一つ、彼の身体の中に飛び込んでくる。それはまるで小さな光る石。悪魔のコアだった。
妬美の嫉妬が、黒時に伝わる。自分を憎む想いだが、それもまた心地よく感じられた。
黒時は微笑を漏らした。
彩香をじっと見つめる。やがて黒時の両目は輝きだし、一筋に光線を放った。放たれた光線は、彩香を襲う青黒い炎を掻き消し、彼女の身体を解放させた。
『それは、嫉妬の目。何故、汝が扱える?』
ルシファーの言葉を無視して黒時は彩香のもとへ駆けてゆく。かろうじて息をする焼け焦げた彼女。
最早、一目では人間とは分からない形をしている。
「い……、や……」
彩香が搾り出して発した言葉。それは、少女の淡い想いがゆえの言葉だった。焼け焦げて、女どころか人の形を成していない自分を、愛する相手に見られたくない。
彩香の目であろう部分から一滴の涙が零れたような気がした。
まもなく死ぬであろう彩香。そんな彼女を腕の中に抱き、黒時は――
「大丈夫だ。安心しろ」
そう言って、彼女の唇であろう場所に己の唇を重ねた。黒時の唇が輝きだし、光が彩香の中へと流れ込んでいく。
次第に彩香の焼け焦げた身体は、もとの可愛らしい彼女へと戻っていき、生気を帯びていった。
「く、黒時……、先輩」
「怜奈の力だ。もう苦しくないだろ?」
胸が苦しい、なんてことを彩香は一瞬思ったが、自粛した。今はそんなことを言っている場合ではない。
この闘いが終わって元の世界に戻ってから、この想いをあますことなくぶつけてしまえばいい、彩香はそう思って黒時の腕の中から離れ、ゆっくりと立ち上がった。
立ち上がったと同時に、彩香の身体の中にも悪魔のコアが一つ飛び込む。
「あったかい……、瑠野の想いが、流れ込んでくるよ」
「ああ、そうだな」
二人は己の胸に手を当て、目の前に立つ強大な悪魔を見上げ、そして睨みつけた。
『愚かな羽虫ども。時は終焉、全てを終わらせてくれる』
ルシファーの視線。それだけで二人の身体は痛みを感じた。けれど、それだけである。
ただ痛みを感じただけ。それだけで逃げ出してしまうほど、二人は既に弱者ではなかった。
強大な存在と対峙できるほどの、強者だった。
「黒時先輩、栄ちゃん先輩は?」
「二キロメートル先ぐらいか。そこで転がってる」
「どうします? 彩香が時間を稼ぎましょうか?」
「できるのか?」
「さあ? でも、自信はありますよ。瑠野もついてますから」
「――そうか」
黒時は飛ばされた栄作のもとへと走り出し、彩香はルシファーのもとへと走り出した。
ルシファーを殺すためには対応した器である栄作の力が不可欠になってくる。全てが終われば死んだ人間も蘇らせることができると言っても、栄作がいなければ全てを終わらすことができないのだ。
『止まれぃ!』
黒時を看過するわけもなく、ルシファーが怒号を上げて残された左の翼を羽ばたかせた。
片側だけであるため発生した風は弱まってはいるが、それでもまだ建造物を破壊するほどの威力はあるだろう。
しかし、頑強な建造物を吹き飛ばすことが出来たとしても、矮小な一人の少年の存在を吹き飛ばすことはできなかった。
「うおぉぉぉ――!」
黒時の腹が輝きだし、横に亀裂が入ると大きく開いていく。全てを飲み込み、喰らう為に果てしなく広がっていく。
『暴食の腹、か』
黒時の開いた腹はルシファーの起こした風を飲み込み、黒時はルシファーの攻撃の届く距離から離脱した。
『行かさぬ!』
黒時を追いかけようと動き始めるルシファー。だが、巨大な光る腕によって抑止される。
顔面を殴打され、あのルシファーの身体が大きくよろめいた。
「どこに行くの、ルシファーさん? 彩香、寂しがり屋だから相手してくれないと、泣いちゃうよ?」
あざとい感じに首を傾け、舌を出す彩香。いかにも彼女らしい仕種だった。
『よかろう、汝から殺してくれる!』
そう思って黒時が目を閉じようとした時、暖かいなにかが身体の中に入ってくるのを感じた。
暖かい想い。
怜奈の黒時を想う想いが、黒時の中に流れ込んでくる。すると、今まで指一本動かせなかった身体に力が漲ってくるのを感じた。
黒時は立ち上がった。そしてまた一つ、彼の身体の中に飛び込んでくる。それはまるで小さな光る石。悪魔のコアだった。
妬美の嫉妬が、黒時に伝わる。自分を憎む想いだが、それもまた心地よく感じられた。
黒時は微笑を漏らした。
彩香をじっと見つめる。やがて黒時の両目は輝きだし、一筋に光線を放った。放たれた光線は、彩香を襲う青黒い炎を掻き消し、彼女の身体を解放させた。
『それは、嫉妬の目。何故、汝が扱える?』
ルシファーの言葉を無視して黒時は彩香のもとへ駆けてゆく。かろうじて息をする焼け焦げた彼女。
最早、一目では人間とは分からない形をしている。
「い……、や……」
彩香が搾り出して発した言葉。それは、少女の淡い想いがゆえの言葉だった。焼け焦げて、女どころか人の形を成していない自分を、愛する相手に見られたくない。
彩香の目であろう部分から一滴の涙が零れたような気がした。
まもなく死ぬであろう彩香。そんな彼女を腕の中に抱き、黒時は――
「大丈夫だ。安心しろ」
そう言って、彼女の唇であろう場所に己の唇を重ねた。黒時の唇が輝きだし、光が彩香の中へと流れ込んでいく。
次第に彩香の焼け焦げた身体は、もとの可愛らしい彼女へと戻っていき、生気を帯びていった。
「く、黒時……、先輩」
「怜奈の力だ。もう苦しくないだろ?」
胸が苦しい、なんてことを彩香は一瞬思ったが、自粛した。今はそんなことを言っている場合ではない。
この闘いが終わって元の世界に戻ってから、この想いをあますことなくぶつけてしまえばいい、彩香はそう思って黒時の腕の中から離れ、ゆっくりと立ち上がった。
立ち上がったと同時に、彩香の身体の中にも悪魔のコアが一つ飛び込む。
「あったかい……、瑠野の想いが、流れ込んでくるよ」
「ああ、そうだな」
二人は己の胸に手を当て、目の前に立つ強大な悪魔を見上げ、そして睨みつけた。
『愚かな羽虫ども。時は終焉、全てを終わらせてくれる』
ルシファーの視線。それだけで二人の身体は痛みを感じた。けれど、それだけである。
ただ痛みを感じただけ。それだけで逃げ出してしまうほど、二人は既に弱者ではなかった。
強大な存在と対峙できるほどの、強者だった。
「黒時先輩、栄ちゃん先輩は?」
「二キロメートル先ぐらいか。そこで転がってる」
「どうします? 彩香が時間を稼ぎましょうか?」
「できるのか?」
「さあ? でも、自信はありますよ。瑠野もついてますから」
「――そうか」
黒時は飛ばされた栄作のもとへと走り出し、彩香はルシファーのもとへと走り出した。
ルシファーを殺すためには対応した器である栄作の力が不可欠になってくる。全てが終われば死んだ人間も蘇らせることができると言っても、栄作がいなければ全てを終わらすことができないのだ。
『止まれぃ!』
黒時を看過するわけもなく、ルシファーが怒号を上げて残された左の翼を羽ばたかせた。
片側だけであるため発生した風は弱まってはいるが、それでもまだ建造物を破壊するほどの威力はあるだろう。
しかし、頑強な建造物を吹き飛ばすことが出来たとしても、矮小な一人の少年の存在を吹き飛ばすことはできなかった。
「うおぉぉぉ――!」
黒時の腹が輝きだし、横に亀裂が入ると大きく開いていく。全てを飲み込み、喰らう為に果てしなく広がっていく。
『暴食の腹、か』
黒時の開いた腹はルシファーの起こした風を飲み込み、黒時はルシファーの攻撃の届く距離から離脱した。
『行かさぬ!』
黒時を追いかけようと動き始めるルシファー。だが、巨大な光る腕によって抑止される。
顔面を殴打され、あのルシファーの身体が大きくよろめいた。
「どこに行くの、ルシファーさん? 彩香、寂しがり屋だから相手してくれないと、泣いちゃうよ?」
あざとい感じに首を傾け、舌を出す彩香。いかにも彼女らしい仕種だった。
『よかろう、汝から殺してくれる!』
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる