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Chapter1 強欲の腕
第4話 出会い
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光の人影が消え、辺りは依然変わらず人間の代わりを務めている黒い人影で満たされていた。
黒時は己の掌を見つめてみる。一瞬激しい光が身体を覆ったがあれは何だったのだろうかと考える。何も変わっていないように感じる。光の影との出来事は幻覚だったのか。それとも、立ったまま夢でも見ていたのだろうか。いくら考えてみても答えは出そうになかった。
ふと横を向くと、黒時はある事に気がついた。苛立ちのあまり小突いた一体の人影。その人影が自分に並列するようにして横に立っていたのである。黒時は光の影に気をとられて気付いていなかったが、この人影は黒時に小突かれてからずっとこの場所に立っていた。
黒時はもう一度自分の掌を見つめ、そして、横に立つ人影の頭を両手で挟みこんだ。ゆっくりと力を込めて人影の頭を挟み潰していく。小突いたときに感じた、硬い、といった感触がしない。黒時はこの時はっきりと自身の力が向上していることを理解した。
頭が軋む音が聞こえる。きしきし、きしきし、と。
更に力を込めていく。頭の形が変形して、楕円形となっていく。更に力を込める。ぱきぱき、と小枝が折れていくような音が聞こえた。軋み、折れて、そして――
ぐしゃ。
中が柔らかく外殻が硬い物体を潰したような、嫌な音が響いた。
人影の頭が黒時の挟む力によって潰れた音である。頭を潰された人影は、首元から噴水のように黒い液体を噴き出し、辺り一帯は汚らしい黒い液体にまみれた。自身が撒き散らした液体の中に自らを沈ませていく人影のその姿はまるで、一つの生命が絶命していくかのような物悲しさが感じられた。
黒時は手についた得体の知れない黒い液体を振り払い、嬉々とした表情を見せている。黒い人影の頭が潰れる感触が心地よかったのだろう。しかし、また手を汚したくないので、一度きりで止めた。
止めて、改めて実感する。自身の身体能力が格段に上がっていることを。
【真の世界】。
新たな世界。
七人の人間。
世界の変貌。
そして、神と名乗った光る人影。
立て続けに理解不能な言葉や出来事がこの数分の間に起こったわけだが、不思議と黒時の気持ちは世界が変貌する前と同じように晴れ晴れしい気持ちになっていた。世界がこのまま人間がいなくなった状態を維持し続けることを、変えることができるのだと知れたのだ。その情報だけでも黒時の暗い気分を明るくさせたのである。
それに、神と名乗る存在の言葉をそのまま信じるとするならば、この世界には七人の人間がいるわけで、それを思うと黒時の気分は更に明るくなるというものだった。
しかし、明るくなるのはよいが、直面する問題がないわけではない。というよりも問題だらけで、山積みどころか既に詰んでしまっているような感じでもある。
黒時は、何をすれば良いのか分かっていないのだ。
いや、黒時でなくても分からなかっただろう。それほどまでにあの神を名乗った人影が与えてくれた情報は少なかった。
黒時は少々首を傾げる。
まずはどう動くべきか黙然としたまま考える。人影が歩いて行く音だけが響き渡る中、思案顔の黒時の耳に届く別の音があった。その音は次第に鮮明になってきて、どうやら人間の声のようだった。
「おーい! 聞こえるかー! ちょっとそこから動かないでくれよー!」
立ち尽くしている黒時に向かって手を大きく振りながら走ってくる一人の男。時折、人影にぶつかりそうになっているあの男に黒時は見覚えがあった。
「いやー、よかったよかった。急に夜になるわ、なんか気味悪い人影が出てくるわですげー心細かったんだよ。俺以外にも人がいてくれて、本当助かったぜ」
「そうか……よかったな」
騒がしげに駆け寄ってきた赤茶色の髪をしたこの男は、黒時と同じ七罪高等学校二年三組に所属している男だった。クラス中から面倒がられる孤高のムードーメーカ、誰もが関わりを持ちたくないと感じるあの男である。
「えーっと、そうだ自己紹介。俺の名前は――」
「見栄坊栄作――だろ」
「あれ? なんで、俺の名前知ってんの? 俺、言ったっけ?」
「同じクラスだ」
そう言われて栄作は、はっとした表情を見せた。どうやら今になって黒時と自分が同じ服装をしている事に気がついたらしい。学校の制服という特徴ある服装に目がいかないほど人と出会えた事に喜んでいたのか、それともただぬけているだけなのか。それはきっと、本人にも分からないのだろう。
それにしても、この時の黒時の落胆ぶりは凄まじかった。
遠くから駆けてくる人間を視認して心躍らせていたというのに、まさか現れたのが見栄坊栄作だなんて期待はずれもいとこだった。黒時ですらこの男の人間の本質に興味を持ちたくないほどに、面倒臭い男なのだから。
「マジか!? 悪い悪い、全然知らなかった。ほら俺ってさ、クラスの中心じゃん? だからさ、あんまり隅にいる奴のことは知らなくてさ。めんごめんご!」
言い訳というにはあまりにもひどく無礼なものだったが、黒時にとって礼儀などどうでもいいものだったので、何の問題にもならなかった。ただ、問題があるとしたらもう既に面倒臭いと黒時が感じていることだろうか。
黒時は己の掌を見つめてみる。一瞬激しい光が身体を覆ったがあれは何だったのだろうかと考える。何も変わっていないように感じる。光の影との出来事は幻覚だったのか。それとも、立ったまま夢でも見ていたのだろうか。いくら考えてみても答えは出そうになかった。
ふと横を向くと、黒時はある事に気がついた。苛立ちのあまり小突いた一体の人影。その人影が自分に並列するようにして横に立っていたのである。黒時は光の影に気をとられて気付いていなかったが、この人影は黒時に小突かれてからずっとこの場所に立っていた。
黒時はもう一度自分の掌を見つめ、そして、横に立つ人影の頭を両手で挟みこんだ。ゆっくりと力を込めて人影の頭を挟み潰していく。小突いたときに感じた、硬い、といった感触がしない。黒時はこの時はっきりと自身の力が向上していることを理解した。
頭が軋む音が聞こえる。きしきし、きしきし、と。
更に力を込めていく。頭の形が変形して、楕円形となっていく。更に力を込める。ぱきぱき、と小枝が折れていくような音が聞こえた。軋み、折れて、そして――
ぐしゃ。
中が柔らかく外殻が硬い物体を潰したような、嫌な音が響いた。
人影の頭が黒時の挟む力によって潰れた音である。頭を潰された人影は、首元から噴水のように黒い液体を噴き出し、辺り一帯は汚らしい黒い液体にまみれた。自身が撒き散らした液体の中に自らを沈ませていく人影のその姿はまるで、一つの生命が絶命していくかのような物悲しさが感じられた。
黒時は手についた得体の知れない黒い液体を振り払い、嬉々とした表情を見せている。黒い人影の頭が潰れる感触が心地よかったのだろう。しかし、また手を汚したくないので、一度きりで止めた。
止めて、改めて実感する。自身の身体能力が格段に上がっていることを。
【真の世界】。
新たな世界。
七人の人間。
世界の変貌。
そして、神と名乗った光る人影。
立て続けに理解不能な言葉や出来事がこの数分の間に起こったわけだが、不思議と黒時の気持ちは世界が変貌する前と同じように晴れ晴れしい気持ちになっていた。世界がこのまま人間がいなくなった状態を維持し続けることを、変えることができるのだと知れたのだ。その情報だけでも黒時の暗い気分を明るくさせたのである。
それに、神と名乗る存在の言葉をそのまま信じるとするならば、この世界には七人の人間がいるわけで、それを思うと黒時の気分は更に明るくなるというものだった。
しかし、明るくなるのはよいが、直面する問題がないわけではない。というよりも問題だらけで、山積みどころか既に詰んでしまっているような感じでもある。
黒時は、何をすれば良いのか分かっていないのだ。
いや、黒時でなくても分からなかっただろう。それほどまでにあの神を名乗った人影が与えてくれた情報は少なかった。
黒時は少々首を傾げる。
まずはどう動くべきか黙然としたまま考える。人影が歩いて行く音だけが響き渡る中、思案顔の黒時の耳に届く別の音があった。その音は次第に鮮明になってきて、どうやら人間の声のようだった。
「おーい! 聞こえるかー! ちょっとそこから動かないでくれよー!」
立ち尽くしている黒時に向かって手を大きく振りながら走ってくる一人の男。時折、人影にぶつかりそうになっているあの男に黒時は見覚えがあった。
「いやー、よかったよかった。急に夜になるわ、なんか気味悪い人影が出てくるわですげー心細かったんだよ。俺以外にも人がいてくれて、本当助かったぜ」
「そうか……よかったな」
騒がしげに駆け寄ってきた赤茶色の髪をしたこの男は、黒時と同じ七罪高等学校二年三組に所属している男だった。クラス中から面倒がられる孤高のムードーメーカ、誰もが関わりを持ちたくないと感じるあの男である。
「えーっと、そうだ自己紹介。俺の名前は――」
「見栄坊栄作――だろ」
「あれ? なんで、俺の名前知ってんの? 俺、言ったっけ?」
「同じクラスだ」
そう言われて栄作は、はっとした表情を見せた。どうやら今になって黒時と自分が同じ服装をしている事に気がついたらしい。学校の制服という特徴ある服装に目がいかないほど人と出会えた事に喜んでいたのか、それともただぬけているだけなのか。それはきっと、本人にも分からないのだろう。
それにしても、この時の黒時の落胆ぶりは凄まじかった。
遠くから駆けてくる人間を視認して心躍らせていたというのに、まさか現れたのが見栄坊栄作だなんて期待はずれもいとこだった。黒時ですらこの男の人間の本質に興味を持ちたくないほどに、面倒臭い男なのだから。
「マジか!? 悪い悪い、全然知らなかった。ほら俺ってさ、クラスの中心じゃん? だからさ、あんまり隅にいる奴のことは知らなくてさ。めんごめんご!」
言い訳というにはあまりにもひどく無礼なものだったが、黒時にとって礼儀などどうでもいいものだったので、何の問題にもならなかった。ただ、問題があるとしたらもう既に面倒臭いと黒時が感じていることだろうか。
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