転生した元悪役令嬢、村娘生活を満喫していたはずが白豚王子に嫁ぐことになりました

宮之みやこ

文字の大きさ
上 下
19 / 20

19

しおりを挟む
『本当に君はそれでいいのか? もっと重い刑に処すこともできるのに』

 憤慨した顔でそう書き殴ったのはダミアンだ。そばでは書記官が、レイチェルの言葉を聞き逃すまいと緊張した顔で書記版を構えている。

「いいんですわ。大体その場で害するならともかく、武器もなしにあの場に乗り込んできてわたくしをさらおうなんて無謀の極み。そんなずさんな犯行を予防できなかったわたくしにも落ち度があります。――それにマルセル伯爵には、もうひと仕事していただかなければいけませんし」

 マルセル伯爵に掴まれて痛めた腕をさすりながら、レイチェルが微笑む。

「わたくし、書類上ではまだ名前がクリスティーナですし、まだあなたの妻なんですの。これを“間違いだった“と教会に認めさせて訂正してもらうには、それはもうたくさんのお布施をしなければいけません。それこそ、伯爵家の金庫が全て空っぽになるくらいには」

 何かを察したらしいダミアンが、何も言わずにじっとレイチェルを見る。

「それにね、昔お父さまにも約束しましたのよ。いつかにつけて差し上げると。だからそうね……とても小さな村の小さな役所で、人手が不足しているというお話を聞きましたの。屈強な村の皆さんとは顔馴染みなんですけれど、なんでも役人と言っても実際は牧場で豚さんのお世話をするのが主なお仕事なんですって。何かと豚が好きなお父さまには、ぴったりだと思わない?」

 あらかじめ用意されたセリフのようにスラスラとそらんじれば、ついにダミアンが堪えきれず笑い出した。その声は快活そのもので、とてもどもりに悩まされている人の笑い声とは思えない。

 散々笑った後で、ダミアンは笑いに震えながらペンを走らせた。

『わかった。では君の望む通りに進める。何か、に伝えておきたいことはある? それとも直接言いに行く?』
「そうですわね……。直接会うのはもうごめんですから……」

 レイチェルそばに立つ書記官を見る。彼は慌ててペンを構えた。
 
「ではこう伝えてくださる? 『いいか、決して逃げるでないぞ。もし逃げたら必ず探し出して、死んだ方がマシだと思う目に遭わせるからな』と」

 初めて会った日に、レイチェルがマルセル伯爵から言われた言葉。それを一字一句違えず、そのまま突き返してやることにする。

「承知いたしました! こちら伝えさせていただきます!」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ

奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。  スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな

ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
ヒロインがいない。 もう一度言おう。ヒロインがいない!! 乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。 ※ざまぁ展開あり

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

訳ありヒロインは、前世が悪役令嬢だった。王妃教育を終了していた私は皆に認められる存在に。でも復讐はするわよ?

naturalsoft
恋愛
私の前世は公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者だった。しかし、光魔法の使える男爵令嬢に汚名を着せられて、婚約破棄された挙げ句、処刑された。 私は最後の瞬間に一族の秘術を使い過去に戻る事に成功した。 しかし、イレギュラーが起きた。 何故か宿敵である男爵令嬢として過去に戻ってしまっていたのだ。

悪役令嬢を追い込んだ王太子殿下こそが黒幕だったと知った私は、ざまぁすることにいたしました!

奏音 美都
恋愛
私、フローラは、王太子殿下からご婚約のお申し込みをいただきました。憧れていた王太子殿下からの求愛はとても嬉しかったのですが、気がかりは婚約者であるダリア様のことでした。そこで私は、ダリア様と婚約破棄してからでしたら、ご婚約をお受けいたしますと王太子殿下にお答えしたのでした。 その1ヶ月後、ダリア様とお父上のクノーリ宰相殿が法廷で糾弾され、断罪されることなど知らずに……

処理中です...