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マルセル伯爵の本気を舐めすぎていた。加えて、応じたのが新入りの小間使いというのも運が悪かった。なんとか彼を落ち着かせないと。レイチェルが必死に言葉を探す。
「それよりお父さま、最近わたくし国王陛下の顔の覚えもめでたいのですのよ。そろそろお父さまを官職に……むぐっ!」
「何がお父さまだ白々しい! 知っているんだぞ。両親だけでは飽き足らず、あの汚らしい騎士まで呼び寄せたそうだな!? どうせ俺はもう破滅の身。こうなったらお前だけでも道連れにしてやる!」
完全に逆上したマルセル伯爵は、なだめようとするレイチェルの口を塞ぐとそのまま彼女をどこかへ連れていこうとする。彼の力は信じられないほど強く、両足で踏ん張ろうとしても踏ん張りきれず、逆に膝をついたところをそのままズルズルと引きずられてしまう。
(なんて力ですの!)
「お父さまやめてくださいませ! これ以上レイチェルさまに乱暴をしないで!」
「うるさいっ! お前は一体誰の味方なんだ! つべこべいっていないで手伝え!」
怒鳴られて、クリスティーナの肩がびくりと震えた。長年、父親に押さえ込まれながら生きていた娘だ。逆らえるはずもない。
そう思っていたのに、彼女は予想に反して、強い意志を宿した瞳で父親をにらみつけた。
「……いいえ。お父さまのやっていることは間違いです。もう、お父さまの言うことは聞きません。人を呼びますから!」
なんとそう言って、さっと身を翻したのだ。これに慌てたのはマルセル伯爵の方。このままではクリスティーナが助けを呼んできてしまう。今まで以上の力で、無理矢理レイチェルを連れていこうとする。
だが、それよりも早く複数の足音がしたかと思うと、騎士たちと共に、必死の形相をしたダミアンの姿が見えた。レイチェルの口は相変わらず塞がれたままだったが、彼の姿が見えたことで安心し、じわりと涙が目に浮かぶ。
「レイチェル!!!」
――それは、初めて聞くダミアンの叫びだった。同時に、彼が初めてレイチェルの名を呼んだ瞬間でもあった。
「き、き、き、貴様! 僕の妻に何をする! この者を捕らえよ! 彼女を救うんだ!」
どもりながらダミアンがばっと手を伸ばせば、騎士たちが素早くマルセル伯爵を取り囲む。
とたんに、これだけの凶行に及びながら何も武器を用意していなかったらしいマルセル伯爵がたじろいだ。その一瞬の隙に、レイチェルは自分の体をくるりと反転させ、伯爵の股間目掛けて思い切り蹴り上げた。
「そおいっ!!!」
――その日、離宮の庭園でドグッという鈍い音とともに、鶏が絞められた時のような、か細い悲鳴を聞いた者が何人もいたとか、いないとか。
「それよりお父さま、最近わたくし国王陛下の顔の覚えもめでたいのですのよ。そろそろお父さまを官職に……むぐっ!」
「何がお父さまだ白々しい! 知っているんだぞ。両親だけでは飽き足らず、あの汚らしい騎士まで呼び寄せたそうだな!? どうせ俺はもう破滅の身。こうなったらお前だけでも道連れにしてやる!」
完全に逆上したマルセル伯爵は、なだめようとするレイチェルの口を塞ぐとそのまま彼女をどこかへ連れていこうとする。彼の力は信じられないほど強く、両足で踏ん張ろうとしても踏ん張りきれず、逆に膝をついたところをそのままズルズルと引きずられてしまう。
(なんて力ですの!)
「お父さまやめてくださいませ! これ以上レイチェルさまに乱暴をしないで!」
「うるさいっ! お前は一体誰の味方なんだ! つべこべいっていないで手伝え!」
怒鳴られて、クリスティーナの肩がびくりと震えた。長年、父親に押さえ込まれながら生きていた娘だ。逆らえるはずもない。
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「……いいえ。お父さまのやっていることは間違いです。もう、お父さまの言うことは聞きません。人を呼びますから!」
なんとそう言って、さっと身を翻したのだ。これに慌てたのはマルセル伯爵の方。このままではクリスティーナが助けを呼んできてしまう。今まで以上の力で、無理矢理レイチェルを連れていこうとする。
だが、それよりも早く複数の足音がしたかと思うと、騎士たちと共に、必死の形相をしたダミアンの姿が見えた。レイチェルの口は相変わらず塞がれたままだったが、彼の姿が見えたことで安心し、じわりと涙が目に浮かぶ。
「レイチェル!!!」
――それは、初めて聞くダミアンの叫びだった。同時に、彼が初めてレイチェルの名を呼んだ瞬間でもあった。
「き、き、き、貴様! 僕の妻に何をする! この者を捕らえよ! 彼女を救うんだ!」
どもりながらダミアンがばっと手を伸ばせば、騎士たちが素早くマルセル伯爵を取り囲む。
とたんに、これだけの凶行に及びながら何も武器を用意していなかったらしいマルセル伯爵がたじろいだ。その一瞬の隙に、レイチェルは自分の体をくるりと反転させ、伯爵の股間目掛けて思い切り蹴り上げた。
「そおいっ!!!」
――その日、離宮の庭園でドグッという鈍い音とともに、鶏が絞められた時のような、か細い悲鳴を聞いた者が何人もいたとか、いないとか。
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