転生した元悪役令嬢、村娘生活を満喫していたはずが白豚王子に嫁ぐことになりました

宮之みやこ

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「白い結婚とは、いったいどう言う事なんだ!」
「お父さま、声が大きいですわ、周りに聞かれてしまいましてよ?」

 翌日。首尾を確かめに来たマルセル伯爵は、彼女の報告を聞くと顔を真っ赤にして詰め寄ってきた。レイチェルが紅茶を飲みながらやんわり窘めると、メイドの目を気にしたマルセル伯爵が行儀良く座り直す。

「おほん。……それで、どうする気なんだ? 我が娘クリスティーナよ」
「そうですわねえ……。こればっかりはわたくし一人でできることではありませんから……」
「クリスティーナ!」
「大丈夫ですわお父さま。ちゃんと策は考えてあります。ただ、あの臆病な王子を動かすには、少し時間がかかると思いますの。待ってくれますわよね?」

 それからそっと顔を寄せて、マルセル伯爵にだけ聞こえるよう囁く。

「その間、くれぐれもわたくしの両親をお願いいたしますわ。もし彼らに何かあったら……わたくし気が動転して、あることないこと、国王陛下に吹き込んでしまうかもしれません」

 暗に“両親に何かあったら全部告げ口して伯爵家もろとも潰してやる”と脅せば、男の顔がぶるぶると震えた。本当は怒鳴りたくてたまらないのだろう。が、そばには何人ものメイドが控え、常にこちらの様子を窺っている。

(今は形勢逆転していること、ようやく気づいたかしら?)

 実はこれが、レイチェルがあっさりと彼の企みを受け入れたもう一つの理由だった。

 “妃殿下”となった娘の権力は、時に実親であるマルセル伯爵よりも上になる。

 ただの村娘だったら、脅してきた貴族を脅し返そうなどという恐れ多いことは考えなかったかもしれない。だがレイチェルは貴族社会で長年過ごした元公爵令嬢。黙ってやられるほどやわではなかった。

 非常に危険な賭けではあったが、さいわい今のレイチェルには勝機が見えている。ダミアンが、身代わりである彼女を受け入れてくれたからだ。

(もう少しダミアンさまと仲良くなって土台を固めたら、頃合いを見て両親の保護をお願いしなければ。脅しが効いているうちはいいけれど、いつこの男の限界が来るかわかりませんもの)

 マルセル伯爵に脅しをかけた以上、すでに“一夜だけ過ごして元通りの生活に戻る”という選択肢は消え去った。これからはいかにマルセル伯爵を飼い殺しながら、両親と自分の身の安全を確保するかにかかっている。

(そもそも、わたくしが役目を果たしたとしても、この男が安全を保障してくれるとは限りませんしね……)

 人を雇い、家族ごと葬り去れば秘密は永遠に闇の中。マルセル伯爵なら平気でやりそうな手だ。むしろその可能性の方が強いと、今になって思う。

「大丈夫です。わたくし、お父さまの悪いようにはいたしませんわ。こんないい生活をさせてくれたんですもの……きっと恩返しいたします。王家との繋がりが欲しいのでしょう? ゆくゆくは官職にお父様をと、国王陛下にお願いするつもりです。どう? にこんな考えができまして?」

 猫なで声を出しながら鞭の後に飴を差し出せば、多少機嫌を直したらしいマルセル伯爵が顎髭をなでた。純粋無垢なクリスティーナには考えつけないまつりごとでも、レイチェルならできるということに気づいたのだ。

「ふむ……。まあ、わかっているならいい。その調子で励めよ」
「はい、

 にっこりと、心の奥では全く笑ってない笑顔でマルセル伯爵を玄関まで見送ると、話は済んだとばかりにレイチェルは伸びをした。それから気を取り直して腕まくりをする。

「そんなことより、ダミアンさまですわね」
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