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前世では、立場や家柄を気にするあまり、たくさんのことを我慢してきた。
「公爵令嬢たるもの品よく貞淑に」とばあやに叩き込まれ、婚約者である王子からデートに誘われてもほとんど応じたことはない。本当は行きたくてたまらなかったのに、「男性と軽々しく外出なんて」と跳ね除けたのは他でもない自分だった。
結果、婚約者は突然やってきた聖女とやらに心を奪われてしまった。
(当時は悔しさと悲しさでいっぱいだったけれど、一度死んだからかしら。今ならわたくしの至らない所もわかるわ)
思い出すのは、レイチェルが誘いを断る度、少し寂しそうな表情をした婚約者の顔。それから、めげずにずっと誘ってくれた彼の姿。そして最後に、悩み、迷い、やっとのことで本音を告白してきた彼の声。
そんな前世の婚約者を、レイチェルは憎んではいなかった。ただずっと後悔していたのだ。――もっと優しくできていたのなら、本音で語り合えていたのなら、何か変わっていたのかしら、と。
『何の後悔?』
「わたくしの個人的な後悔ですわ。だってあなた、このまま放っておいたら一生“できそこない“のままでいる気でしょう?」
『できそこないのままじゃなくて、できそこないなんだ』
「ほら、そう言うところよ。まずは自分を卑下するところから直さないと」
言って、レイチェルは考える。
(こういうのってなんて言うのかしら? お節介? でしゃばり? どちらにしろ――わたくし、この王子の事が嫌いじゃないんですわね、きっと)
初めに抱いたのは同情心だったが、彼の思わぬ一面を知って興味が湧いてしまった。だから家に帰ることより、ダミアンを優先することにしたのだ。
「それにあなたは私の“夫“でしょう? 夫のために助けになりたいと思うのは、普通の事じゃなくって?」
『君は身代わりなのに?』
「ええ。身代わりよ。でも、困っている人がいたら助けてあげる。わたくしは両親と村のみんなにそう教えてもらいましたわ。あなたはそうじゃないの?」
今まで誰も彼を助けてあげなかったのだろうか? そんな疑問を投げると、ダミアンはすぐにふるふると首を横に振った。
『先生以外、助けどころか、誰も僕と話をしたがらないよ。だって僕がそう仕向けているんだから』
「そうなんですの? 今はわたくしとお話ししてくださっているのに?」
『それは君がしつこいから。今までは大体物を投げれば、みんな諦めていったんだ』
「わたくしってしつこいんですの? ……ふふ、そう言われたのは初めてですわ」
初めての単語に、レイチェルは思わず笑みをこぼす。
今まで誰かに、しつこいなんて言われたことはない。前世では公爵令嬢というプライドから、常に毅然とした――周りから見れば傲慢ともとれる――態度を貫き通していたし、今世ではしつこく聞かなくてもみんなの方から教えてくれた。
『君も変な人だな。全然褒めてないのに』
「ふふ、先生と同じぐらい変?」
レイチェルがイタズラっぽく聞くと、ダミアンは首を捻ってうーんと考える。それから、
『変』
とだけ書かれた日記を突き出した。
「では、お互い変人同士、仲良くしてくださらない?」
悪巧みを誘うように問いかけると、ダミアンはしぶしぶと言った顔で頷いた。
「公爵令嬢たるもの品よく貞淑に」とばあやに叩き込まれ、婚約者である王子からデートに誘われてもほとんど応じたことはない。本当は行きたくてたまらなかったのに、「男性と軽々しく外出なんて」と跳ね除けたのは他でもない自分だった。
結果、婚約者は突然やってきた聖女とやらに心を奪われてしまった。
(当時は悔しさと悲しさでいっぱいだったけれど、一度死んだからかしら。今ならわたくしの至らない所もわかるわ)
思い出すのは、レイチェルが誘いを断る度、少し寂しそうな表情をした婚約者の顔。それから、めげずにずっと誘ってくれた彼の姿。そして最後に、悩み、迷い、やっとのことで本音を告白してきた彼の声。
そんな前世の婚約者を、レイチェルは憎んではいなかった。ただずっと後悔していたのだ。――もっと優しくできていたのなら、本音で語り合えていたのなら、何か変わっていたのかしら、と。
『何の後悔?』
「わたくしの個人的な後悔ですわ。だってあなた、このまま放っておいたら一生“できそこない“のままでいる気でしょう?」
『できそこないのままじゃなくて、できそこないなんだ』
「ほら、そう言うところよ。まずは自分を卑下するところから直さないと」
言って、レイチェルは考える。
(こういうのってなんて言うのかしら? お節介? でしゃばり? どちらにしろ――わたくし、この王子の事が嫌いじゃないんですわね、きっと)
初めに抱いたのは同情心だったが、彼の思わぬ一面を知って興味が湧いてしまった。だから家に帰ることより、ダミアンを優先することにしたのだ。
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『君は身代わりなのに?』
「ええ。身代わりよ。でも、困っている人がいたら助けてあげる。わたくしは両親と村のみんなにそう教えてもらいましたわ。あなたはそうじゃないの?」
今まで誰も彼を助けてあげなかったのだろうか? そんな疑問を投げると、ダミアンはすぐにふるふると首を横に振った。
『先生以外、助けどころか、誰も僕と話をしたがらないよ。だって僕がそう仕向けているんだから』
「そうなんですの? 今はわたくしとお話ししてくださっているのに?」
『それは君がしつこいから。今までは大体物を投げれば、みんな諦めていったんだ』
「わたくしってしつこいんですの? ……ふふ、そう言われたのは初めてですわ」
初めての単語に、レイチェルは思わず笑みをこぼす。
今まで誰かに、しつこいなんて言われたことはない。前世では公爵令嬢というプライドから、常に毅然とした――周りから見れば傲慢ともとれる――態度を貫き通していたし、今世ではしつこく聞かなくてもみんなの方から教えてくれた。
『君も変な人だな。全然褒めてないのに』
「ふふ、先生と同じぐらい変?」
レイチェルがイタズラっぽく聞くと、ダミアンは首を捻ってうーんと考える。それから、
『変』
とだけ書かれた日記を突き出した。
「では、お互い変人同士、仲良くしてくださらない?」
悪巧みを誘うように問いかけると、ダミアンはしぶしぶと言った顔で頷いた。
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