転生した元悪役令嬢、村娘生活を満喫していたはずが白豚王子に嫁ぐことになりました

宮之みやこ

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「その前にまず、なぜあなたが気象観測をしているのか教えてくださらない?」

 善は急げとばかりに、レイチェルは勝手にソファに腰掛けると質問した。一方のダミアンは戸惑っているようだ。無理もない。妻とは言えほぼ初対面の人間に突然根掘り葉掘り聞かれて、戸惑わない人の方が少ないだろう。

 ダミアンの手が全然動きそうにないのを見て、レイチェルが一歩にじり寄る。

「教えてくれないなら、抱きつきますわよ」

 とたんにダミアンが慌てふためいてペンを走らせた。

 予想通り、どうもこの王子はレイチェルに近づかれるのが嫌らしい。乙女としては複雑な心境だが、それを逆手に取って脅しをかけるレイチェルも、もはや乙女と呼べるかどうか怪しい。

『空を見るのが好きなんだ。気象観測を始めたのは、先生が僕に教えてくれたから』
「先生?」
『前の環境大臣。名前が長いから、勝手に先生って呼んでいる』
「仲が良かったんですの?」
『仲良くはなかった。でも彼が色々教えてくれた。今はもう隠居したけど』
「優しい方なんですのね」
『優しい……よくわからない。変な人だったよ。家庭教師でもないのに、毎日やってきて勝手にあれこれ教えていくんだ』

 紙の上のダミアンは、驚くほど饒舌だった。レイチェルが一つ聞けば手元が素早く動き、弾むように答えが返ってくる。いそいそと書き上げた文章を見せてくる様子は、小さな子供が摘んだ花を母親に持ってくるのにそっくりだ。

 本人もその事に気づいたのだろう。彼はハッとして、手帳を大きなお尻の後ろに隠してしまう。

「あら、なぜ? もっとあなたのお話を聞きたいわ」

 ダミアンを怯えさせないよう、レイチェルは優しく語りかける。

 せかさずじっと待っていると、やがて、そろりそろりと巣穴から出てくる野ブタのように、ダミアンがそっと日記を差し出した。

『そもそも君は、なんで僕ができそこないじゃないって“証明”しようとするの?』
「それは……」

 聞かれて、今度はレイチェルが考え込んだ。
 冷静に考えれば、ダミアンができそこないじゃないと証明しなきゃいけない理由なんてどこにもない。それよりもさっさと目的を達成し、家に帰った方がいいだろう。

 にも関わらず、彼女が彼にこだわった理由。

「……後悔、したくないからかもしれませんわね」

 自分に聞かせるように、ぽつりと呟いた。
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