転生した元悪役令嬢、村娘生活を満喫していたはずが白豚王子に嫁ぐことになりました

宮之みやこ

文字の大きさ
上 下
9 / 20

09

しおりを挟む
(確かに、この方は太っていて、うまく喋れなくて、何より振る舞いが乱暴。王族としては失格ですわ。……でも)

 ダミアンの言葉に、なぜかレイチェルの方が言いようのないモヤモヤを感じていた。何故そう感じるのかわからないまま、正体を見つけるために心の中で整理する。

――先程、彼が投げてきたのはクッションやブランケットなど、当たってもそこまで痛くないものばかり。もちろん花瓶などは最初から置かれていなかったが、ペンを投げることだってできたはずだ。

――次に、レイチェルが真実を告白した時。彼は怒り狂って暴れることもなく、自分がいたらないせいだからと静かに受け入れた。

――そして最後に一つ、大きく気になることがあった。

「……あなた、できそこないと言うには少し早いと思いますの」

 言いながら、レイチェルは手帳を指さす。

「そこに書かれているのは、気象観測の記録じゃなくって?」

 先程チラリと見えた手帳に記されていたのは、一見するとただの天気の記録にも見える。だがそこには、温度や気圧の数字に加え、風向きや風力など、資料とも呼ぶべき情報がびっしりと書かれていたのだ。

 レイチェルの指摘にダミアンは目を丸くした。サラサラと、手帳に新たな言葉が書き足される。

『なぜ気象観測だとわかった?』
「ちょっとした嗜み、ですわ」

 ダミアンの問いに、うふふと笑って誤魔化す。まさか前世で、家に来ていた家庭教師に見方を教えてもらったなどとは説明できない。

「それよりも……こんな緻密な記録が書ける人が“できそこない”って、ちょっと説得力に欠けますわよ。そもそも本物のお馬鹿さんは、文章なんか書きませんし」

 レイチェルは前世で、いわゆる本物のお馬鹿さんを見たことがある。

 伯爵令息だったその男は見た目こそよかったものの、頭にあるのは女と酒とギャンブルばかり。振る舞いも軽薄そのもので、当時王子の婚約者だったレイチェルにすら手を出そうとしてきたため、思いっきり横っ面を叩いたことがあった。

 そんな彼と比べたら――比べるのは大変失礼だと言うことはさておき――物を投げるという大きな欠点こそあれ、不敬極まりない発言にも取り乱さず、さらに気象観測のような根気と知識を必要とする作業ができるダミアンは、できそこないとは言えない気がしたのだ。

「そんな風に自分を卑下するのはおやめくださいませ。人間、誰でも多少の欠点はありますから、その範囲内でしてよ。そうね、物を投げる癖はきっちり直すとして……あなたが名乗っていいのは、せいぜい“変わり者”ぐらいかしら?」

 これまた王子相手に失礼極まりない発言である。
 だが肝心のダミアンはと言うと、やはり怒るでも泣くでもなく、どうしたらいいかわからないような、途方にくれた顔をしただけだった。

「んもう、まどろっこしいですわね! よろしくてよ。ならわたくしが、あなたができそこないじゃないってこと、証明して差し上げますわ!」

 本来の目的も忘れ、レイチェルは腰に手を当てて言い放った。

――これが二人の、長い付き合いの始まりとなることも知らずに。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ

奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。  スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな

ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
ヒロインがいない。 もう一度言おう。ヒロインがいない!! 乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。 ※ざまぁ展開あり

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

王子は婚約破棄を泣いて詫びる

tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。 目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。 「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」 存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。  王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

訳ありヒロインは、前世が悪役令嬢だった。王妃教育を終了していた私は皆に認められる存在に。でも復讐はするわよ?

naturalsoft
恋愛
私の前世は公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者だった。しかし、光魔法の使える男爵令嬢に汚名を着せられて、婚約破棄された挙げ句、処刑された。 私は最後の瞬間に一族の秘術を使い過去に戻る事に成功した。 しかし、イレギュラーが起きた。 何故か宿敵である男爵令嬢として過去に戻ってしまっていたのだ。

処理中です...