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(どうせ調べ上げているくせに、わざわざ言わせるなんていやらしい人!)

 埃くさい部屋に残されたのはレイチェルとクリスティーナの二人だけ。クリスティーナは父親が出て行ったのを見ると、すぐにレイチェルの足元に駆け寄ってよよよと涙をこぼした。

「ごめんなさい、本当にごめんなさい……! 謝っても謝りきれないわ。あなたまで巻き込んでしまうなんて……」
「いいのよ、泣かないで」

 原因は彼女にもあるが、レイチェルを巻き込んだのはマルセル伯爵。クリスティーナを責める気になれなかった。それに、同じ顔で泣かれると正直気まずい。

「これも人助けだと思えばいいのですわ。その……白豚王子? とやらと一晩さえ過ごせば、私は帰れるってことでしょう?」
「え、ええ……。でも、いいのですか? そんなことを引き受けていただいて」
「かまいませんわ。どうせわたくしは一生独身を貫く身。純潔を捧げただけで人助けができるなら……まあ、我慢できなくもないですわ。……多分。それに、どうせ拒否権などないでしょうし」
「本当にごめんなさい……」
「いいんですのよ、あなたが謝らなくても」

 再度落ち込み始めたクリスティーナを慰める。

(全く、わたくしは一体何をしているのかしら……)

 どうやら一度死んだせいで、すっかり肝が据わってしまったらしい。以前のレイチェルであれば、それこそ自害して嫌がったであろうことを、諦めにも似た気持ちで受け入れてしまっているのだから。

「それにしても“白豚王子”というのは、どんな方ですの?」

 まだ泣き続けるクリスティーナの気を逸らすためにも、レイチェルは結婚相手のことを聞くことにした。するとクリスティーナは気まずそうに、モゴモゴと言葉を濁らせる。

「えっと……白豚王子というのはその、第二王子のダミアン殿下のあだ名で……。あっ、もちろんご本人の前では言っちゃいけませんよ!? でも、その、見た目が大変ふくよかでいらっしゃって……」
「なるほど。つまりお太りでいらっしゃると」
「ええ、まあ、そうとも言いますわ……。それからひどい吃音どもり持ちで、そのせいで喋ると豚の鳴き声に似ていると言われていて」
「何というか、ひどい言われようですわね……」
「その上ご本人もとても乱暴で、気に入らないことがあるとすぐ怒って物を投げるとかで……」
「それはだいぶ、いただけませんわね……」

 レイチェルは眉をひそめた。太っているのとどもりはしょうがないにしても、乱暴なのは頂けない。皆の手本となるべき王子としてあるまじき行動だ。

「だからこそ、我が家に結婚の打診が来たのだと思います。他の皆さまは、ダミアン殿下が王位継承者でない第二王子ということもあって、みんなお断りしているというお話を聞きましたわ」
「そういうことでしたの……」

 レイチェルはため息をついた。残念ながら、一夜限りの夫になる人物はどう聞いても胸がときめけるような相手ではなさそうだ。けれど両親を守るためには覚悟を決めるしかない。

「わかりましたわ。わたくし、精一杯努めさせて頂きます」

 レイチェルは大きく息を吸い込むと、落ち着いた声で言った。
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