転生した元悪役令嬢、村娘生活を満喫していたはずが白豚王子に嫁ぐことになりました

宮之みやこ

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 その晩、言葉通り迎えをよこした男の屋敷にレイチェルはいた。

 彼女の部屋だと言って与えられた部屋はどう見てもメイド用の狭さで、ベッドの他にあるのは文机と椅子、それから小さなクローゼットだけ。身だしなみを整えるための鏡すらない。

(娘って言うなら、せめてもう少しまともな扱いをしたらどうなの!?)

 心の中で思い切り罵りながら男を睨む。そんなレイチェルに構うことなく、男は尊大に言った。

「改めて覚えろ。私はエマニエル・マルセル伯爵。そしてお前はクリスティーナ・マルセル伯爵令嬢だ。いいな?」
「……はい」

(伯爵と言うことは、前世のわたくしより格下ね)

 なんて心の中で見下してみても、残念ながらスッキリはしない。この場では従順に振る舞うしかないのだ。

「それから、こっちが本物のクリスティーナだ」

 マルセル伯爵がそう言うと、一人の少女が部屋に入ってきた。
 その姿を見て、レイチェルが目を丸くする。

 長い亜麻色の髪に、切れ長の瞳。つんと尖った鼻に薄めの唇まで、クリスティーナはレイチェルと何から何まで似ていた。マルセル伯爵が「瓜二つ」と言っていたのも納得いくほどに。

 驚いたのは向こうも同じだったようで、クリスティーナはしげしげとレイチェルを見つめた。そんな二人を急かすように、マルセル伯爵が冷たく言い放つ。

「お前は本物のクリスティーナの仕草や言葉遣いを一通り覚えるように。それが済んだら、すぐに結婚式だ」
「結婚式!?」

 思わず声が出た。何をやらされるのかずっと疑問だったが、よりにもよって結婚式だなんて。

(恋とか結婚とか、そう言うのはもうコリゴリ……! あ、いえ、前世では婚約までだったから初めてではあるけれど、それでも嫌! )

 そんなレイチェルの気持ちを代弁するように、本物のクリスティーナが声を上げる。どうやら、父親と違って彼女はいい人らしい。

「お父さま、どうか考え直してください。見ず知らずの方にそんなことを……!」
「黙れ! もとはと言えばお前がいけないのだぞ!? せっかく第二王子との結婚が決まったと言うのに、騎士なんぞと駆け落ちを企みおって……! おまけに純潔まで失ったときた。これが露呈すれば、我が家の恥どころではすまないとわかっているのか!?」

 カッ! と、雷を落とすようにマルセル伯爵が怒鳴った。「純潔まで失った」という言葉に、クリスティーナの顔にさっと朱が走る。それきり、彼女は何も言えなくなってしまった。

 まだ興奮が収まらないらしいマルセル伯爵は肩で荒く息をしながら、イライラしたようにレイチェルに向かって言った。

「いいか、明日からすぐに身代わりの準備を始めろ。そして何としてでもあの白痴の“白豚王子”にお前の純潔を捧げてこい。それが済めば、お前を解放してやる。――念のため聞くが、お前まで純潔を失ってはいないだろうな?」
「生粋の乙女ですわ」

 レイチェルが答えると、マルセル伯爵はふんと鼻を鳴らして部屋から出て行った。
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