転生した元悪役令嬢、村娘生活を満喫していたはずが白豚王子に嫁ぐことになりました

宮之みやこ

文字の大きさ
上 下
1 / 20

01

しおりを挟む
 心より愛した人がいた。
 でもその人には自分ではない、運命の人がいて。
 愛も王位も授けられない自分にできるのは、悪役として二人の背中を押して去ることだけ。運悪く事故に巻き込まれそのまま命を絶つことになってしまったけれど、それも心の底で望んでいたことなのかもしれない。

 全てが終わるならそれでよかった。この体も記憶も愛も全て、消え去ってしまえば……。

「――って思っていましたのに、わたくし、なぜ前世の記憶を持っているのでしょう」

 思えば、二歳にして突然流暢に喋り出した娘を、両親が見捨てずに育ててくれたのは本当に感謝してもしきれない。

 さらにそれだけでは飽き足らず、

「魔法、ないんですの!? 全く!? ではどうやって生活していますの!? 料理は!?」

 なんて問い詰めてくる二歳児。ものすごく嫌を通り越して、もはや恐怖しか感じない。悪魔憑きと言われた方がまだ納得できるだろう。

 けれど、彼女の新しいお父さまとお母さま――と言っても二人ともド平民だが――は、優しく教えてくれた。

「マッチを使って火を起こすのよ。灯りはろうそくに火をつけて。体の回復は、なんと言っても食事と睡眠ね。どうしてもの時にはお薬よ」
「基本的な部分から固めるんですのね、わかりましたわ!」

――そうして彼女の、レイチェルという名の新しい人生が始まった。

 のどかな村でおっとりとした両親に囲まれて、ちょっと、いや、だいぶ変わり者のレイチェルだったが、幸い村人たちもみんな心が広かったおかげで、のびのびと育つことができた。時はあっという間に過ぎ、気づけば花もはじらう十八歳。今は村で唯一の飯屋兼酒場で、看板娘として働かせてもらっている。

 ちなみに言葉遣いは面白がって誰も注意しなかったので、未だに直っていない。

「レイチェル! 今日薬の入荷があったってよ! おっかさんが必要なんだろう?」
「本当!? 後で買いに行きますわ、ありがとう!」
「ようレイチェル! 今日もべっぴんさんだな! 俺のとこに嫁に来ねえか!?」
「お断りしますわ! わたくし二度と恋はしないって決めていますの!」
「出たよ、それもまた“前世”とやらかぁ!?」
「ええ! その通りでしてよ!」

 昼休憩を取りに来た陽気な男達に囲まれながら、レイチェルは負けないよう声を張り上げた。

 生まれ変わる前はこれでも公爵令嬢で、国の第一王子と婚約していた時期もあったけれど、前世は前世、今は今。

 もう二度と恋なんてしないと決めた以外、レイチェルは非常に楽しく過ごしていた。なんならむしろ、身分とか義務とかから解放された分、今の方が楽しい気さえしている。

 家はと言えば、数年前に母が体調を崩して以来ずっと薬が手放せなくなっているが、それでもレイチェルと父の二人で稼げばなんとか生活はできた。公爵令嬢時代のような贅沢はできなくとも、優しい人たちに囲まれて毎日をしっかりと生きている充足感は何物にも代えがたい。何より自分で稼ぎ、自分で作ったご飯を食べるのはとても楽しかった。

 だからこの生活がずっと続くと思っていた。あの蛇のような男が来るまでは。




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ

奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。  スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな

ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
ヒロインがいない。 もう一度言おう。ヒロインがいない!! 乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。 ※ざまぁ展開あり

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

愛されない花嫁はいなくなりました。

豆狸
恋愛
私には以前の記憶がありません。 侍女のジータと川遊びに行ったとき、はしゃぎ過ぎて船から落ちてしまい、水に流されているうちに岩で頭を打って記憶を失ってしまったのです。 ……間抜け過ぎて自分が恥ずかしいです。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

訳ありヒロインは、前世が悪役令嬢だった。王妃教育を終了していた私は皆に認められる存在に。でも復讐はするわよ?

naturalsoft
恋愛
私の前世は公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者だった。しかし、光魔法の使える男爵令嬢に汚名を着せられて、婚約破棄された挙げ句、処刑された。 私は最後の瞬間に一族の秘術を使い過去に戻る事に成功した。 しかし、イレギュラーが起きた。 何故か宿敵である男爵令嬢として過去に戻ってしまっていたのだ。

処理中です...