上 下
15 / 18

15

しおりを挟む
「そうとも。あれがリュシエル嬢だ。……そうだろう? フラヴィニー侯爵」

 突如名指しされたフラヴィニー侯爵、つまりモルガナの父親は、顔を真っ青にして震えていた。

(なぜフラヴィニー侯爵に……?)

 状況が飲み込めなかったのはリュシエルだけではなかったようで、モルガナも驚きの顔で父を見ている。

「お父様……どういうことですの……?」
「娘に聞かせてやるといいフラヴィニー侯爵。お前がベクレル侯爵家の長女、リュシエルに何をしたのかを」
「ご、誤解です。私は何も……」

 震える声で否定しようとするフラヴィニー侯爵に、クロードが声を荒げた。

「言い逃れができるとは思わない方がいい。こちらは既に証人を抑えてある。呪いをかけた魔法使い本人と、長年フラヴィニー侯爵の家令をしていた男が証言している。『フラヴィニー侯爵は、娘のライバルとなりうるベクレル侯爵家の長女、リュシエルの姿が醜くなるよう呪いをかけた』とな。それだけではない。魔法使いを密かに雇って、今までもずっと悪事を働いてきたそうだな?」

 それを聞いて、フラヴィニー侯爵が哀れなほどガタガタと震え出した。もはや言葉も出ないようで、顔色は既に死人のようになっている。王が玉座を指でトントンと叩きながら、低い声で言った。
 
「知っての通り、ヴァランタンでは王家以外の者が魔法使いを雇うことは大罪に値する。加えて呪いとなる暗黒魔法自体、ヴァランタンに限らず世界条約で禁止されている。さらに、リュシエルは王太子の婚約者、つまりは将来の王妃となる女性だった。その彼女に害をなすということは、王家へ対する反逆罪にもあたる。それとも何か申し開きすることがあるか? フラヴィニー侯爵よ」

 フラヴィニー侯爵は、もはや言葉もないようだった。その場にガックリと膝をつき、魂が抜けたように呆然と虚空を見つめている。

「ないならば、フラヴィニー侯爵家は爵位剥奪の上、フラヴィニー元侯爵は斬首刑に処す。連れて行け」

 王が顎をしゃくると、そばに控えていた騎士たちがフラヴィニー侯爵を取り立てようとした。それに気づいた娘のモルガナが、慌てて王の前に身を投げ出す。弱々しいながら、ハージェスもそれに加勢した。

「陛下! どうか、私に免じて情けを……! あんまりですわ!」
「そ、そうです父上。何かの誤解もあるかもしれません。私の妻になる人の親がまさかそんな……」 
「それからそなたたち二人にも言いたいことがある」

 王はそんな二人の言葉を無視し、ぎろりと冷たく見下ろした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 妹を愛していると言った貴方、本気ですか?気持ちが悪い!

音爽(ネソウ)
恋愛
幼くして王子と婚約したクラーラ公爵令嬢。 まだ子供の令嬢12歳と大人の王子22歳。 王子はまだ子供の婚約者より大人の妹の肉欲に走った、ベリンダを愛しているとほざく婚約者トマス王子。 「なにを言ってるんですか、気持ち悪い!」 「何が気持ち悪いのだ!これは真実の愛なのだ!」 しかも妹は妊娠しているというではないか……

【完結】婚約破棄断罪を企んでおられるようなので、その前にわたくしが婚約破棄をして差し上げますわ。〜ざまぁ、ですわ!!〜

❄️冬は つとめて
恋愛
題名変えました。 【ざまぁ!!】から、長くしてみました。 王太子トニックは『真実の愛』で結ばれた愛するマルガリータを虐める婚約者バレンシアとの婚約破棄を狙って、卒業後の舞踏会でバレンシアが現れるのを待っていた。

転生令嬢だと打ち明けたら、婚約破棄されました。なので復讐しようと思います。

柚木ゆず
恋愛
 前世の記憶と膨大な魔力を持つサーシャ・ミラノは、ある日婚約者である王太子ハルク・ニースに、全てを打ち明ける。  だが――。サーシャを待っていたのは、婚約破棄を始めとした手酷い裏切り。サーシャが持つ力を恐れたハルクは、サーシャから全てを奪って投獄してしまう。  信用していたのに……。  酷い……。  許せない……!。  サーシャの復讐が、今幕を開ける――。

馬鹿王子にはもう我慢できません! 婚約破棄される前にこちらから婚約破棄を突きつけます

白桃
恋愛
子爵令嬢のメアリーの元に届けられた婚約者の第三王子ポールからの手紙。 そこには毎回毎回勝手に遊び回って自分一人が楽しんでいる報告と、メアリーを馬鹿にするような言葉が書きつられていた。 最初こそ我慢していた聖女のように優しいと誰もが口にする令嬢メアリーだったが、その堪忍袋の緒が遂に切れ、彼女は叫ぶのだった。 『あの馬鹿王子にこちらから婚約破棄を突きつけてさしあげますわ!!!』

全てを義妹に奪われた令嬢は、精霊王の力を借りて復讐する

花宵
恋愛
大切なお母様にお兄様。 地位に名誉に婚約者。 私から全てを奪って処刑台へと追いやった憎き義妹リリアナに、精霊王の力を借りて復讐しようと思います。 辛い時に、私を信じてくれなかったバカな婚約者も要りません。 愛人に溺れ、家族を蔑ろにするグズな父親も要りません。 みんな揃って地獄に落ちるといいわ。 ※小説家になろうでも投稿中です

【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって

鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー  残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?! 待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!  うわーーうわーーどうしたらいいんだ!  メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!

悪役令嬢のお姉様が、今日追放されます。ざまぁ――え? 追放されるのは、あたし?

柚木ゆず
恋愛
 猫かぶり姉さんの悪事がバレて、ついに追放されることになりました。  これでやっと――え。レビン王太子が姉さんを気に入って、あたしに罪を擦り付けた!?  突然、追放される羽目になったあたし。だけどその時、仮面をつけた男の人が颯爽と助けてくれたの。  優しく助けてくれた、素敵な人。この方は、一体誰なんだろう――え。  仮面の人は……。恋をしちゃった相手は、あたしが苦手なユリオス先輩!? ※4月17日 本編完結いたしました。明日より、番外編を数話投稿いたします。

【完結】妹のせいで貧乏くじを引いてますが、幸せになります

恋愛
 妹が関わるとロクなことがないアリーシャ。そのため、学校生活も後ろ指をさされる生活。  せめて普通に許嫁と結婚を……と思っていたら、父の失態で祖父より年上の男爵と結婚させられることに。そして、許嫁はふわカワな妹を選ぶ始末。  普通に幸せになりたかっただけなのに、どうしてこんなことに……  唯一の味方は学友のシーナのみ。  アリーシャは幸せをつかめるのか。 ※小説家になろうにも投稿中

処理中です...