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「あの、クロード殿下は、ヤーラ皇女様のことが好きなのではなかったのですか……?」
「ヤーラ皇女? なぜ? 彼女はいい友達になれるとは思うが、私が好きなのは今も昔も君だけだよ」
「でも、ナーバ皇国に行ったのはてっきりヤーラ皇女を追いかけて行ったのかと……」

 リュシエルが正直に言えば、クロードは「ああ」と納得したように言った。

「話すと長くなるんだけれどね……ナーバに行ったのは人探しをするためだ。その人がナーバにいると言うのを教えてくれたのが、ヤーラ皇女なんだよ」
「人探し……?」
「ちょうどいい。これ以上あの方達を待たせておくのも良くないし、エドガー、呼んできてくれないか」
「かしこまりました」

 ずっとそばでニコニコと見ていたエドガーが、足早にどこかへ消える。そしてすぐに、フードとマントにすっぽりと身を包んだ、二人の人物を連れてきた。
 前を歩いていた人がフードを下ろすと、リュシエルはハッと息を呑んだ。
 フードの中からは、黄金のように輝く豊な長い金髪がこぼれ、目から下は黒いベールで隠されていて見えないものの、純度の高い宝石を思わせる水色の瞳はハッとするほど美しい。後ろにいるもう一人はフードを深く被っていて顔は見えないが、背の高さや肩幅の良さから判断すると男性だろうか?
 リュシエルがまじまじと観察していると、クロードが要人に接するように恭しく頭を下げて、それからリュシエルに説明した。
 
「訳あって名前は名乗らないが、その身元は保証する。この方達はリュシーの呪いを解くために来てもらったんだ」
「呪い?」

 突如出てきた物騒な単語に、リュシエルはまた混乱した。

「初めまして。貴女が噂のお嬢さんね?」

 大人の色気を含んだ甘い声が、彼女の口から発せられる。リュシエルが慌てて挨拶を返そうとした所で、細く華奢な美しい指が、ついとリュシエルの頬に伸びてくる。

「きゃっ……」
「びっくりさせてごめんなさい。良く見せて頂戴ね」

 それから彼女は、一通りリュシエルの顔を撫で回したあと、悲しげに言った。

「……これは、ひどいですわね。魔法の質自体は大したことはないけれど、こんな魔法を女の子にかけるなんて……。かわいそうに。ずっと苦しめられてきたのでしょう。今解いてあげますわ」

 彼女が何を言っているのか良く理解できなかったが、彼女の手から伝わってくる暖かさは不思議なほど心地よく、本能的にリュシエルを傷つけることはないとわかった。そのため、リュシエルはされるがまま、身を任せていた。
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