上 下
6 / 18

06

しおりを挟む
 というのも、ハージェスとモルガナの間には、もちろん愛情もあるだろうが、それよりも手を取る利点の方が多かったのだ。ハージェスにとっては不満のある婚約者リュシエルを切れる上に、何かとたてついてくる弟の最愛の人を奪ったという優越感も満たせる最高の人選がモルガナであり、モルガナもまた、憎きベクレル侯爵家のリュシエルから婚約者を奪え、かつ第二王子の妃より、将来の王妃という立場の方が魅力的だ。

「だからって、あんまりなやり方ですけれど……」
「私も兄がそこまで馬鹿だとは思わなかった」

 はあ、と誰からともなくため息が漏れる。

「……けれど、考えようによってはリュシー。君は自由になったということだ」
「自由?」

 クロードの言葉にリュシエルがキョトンとすると、エドガーも力強く同意した。

「そうだよリュシー。もうお前はあんな男に煩わされる必要はないんだ。これからは好きな催しにだけ参加すればいいし、結婚だって、好きな男とできるようになる。どう見ても非があるのは向こうだし、誰もお前を責めたりはしないよ」

 労るような兄の言葉を聞いて、リュシエルの胸が高鳴る。

「好きな人と結婚……?」

 つい、知らず目がクロードの方を見てしまう。リュシエルにとっては大変喜ばしいことに、彼もまた、婚約者がいない状態に戻ったということに今さらながら気がついたのだ。

(もしかしたら、もしかしてだけれど、私とクロード殿下が結婚できる未来もあるんじゃ……?)

 そんな将来を想像して一瞬ソワソワしたが、すぐにその気持ちは萎んだ。鏡に写った自分の姿を見てしまったせいだ。
 どんなに浮かれても、彼女が“スナギツネ令嬢“と呼ばれる残念な容姿は変わらない。

 クロードがいくらリュシエルに優しいと言っても、それはあくまで彼が幼なじみだからであって、恋愛感情からではない。先ほどは動揺からか、珍しく「そんな女」などという汚い言葉を使っていたが、それまではリュシエルが羨むほどモルガナを大事にしていたのだ。今リュシエルが結婚をお願いすれば、兄であるハージェスがやらかした負い目もあり、もしかしたら優しいクロードはうなずいてくれるかもしれない。だが……。

(そんなのって、あんまりだと思うわ……)

 婚約者を兄に寝取られ、代わりに不器量な幼なじみを押し付けられたら、たまったものではないだろう。
 
 リュシエルは「はあ」と諦めのため息をついた。

「私には、できないと思います……」

 せっかく励まそうとしてくれている二人には申し訳ないが、それがリュシエルの正直な気持ちだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

まさか、今更婚約破棄……ですか?

灯倉日鈴(合歓鈴)
恋愛
チャールストン伯爵家はエンバー伯爵家との家業の繋がりから、お互いの子供を結婚させる約束をしていた。 エンバー家の長男ロバートは、許嫁であるチャールストン家の長女オリビアのことがとにかく気に入らなかった。 なので、卒業パーティーの夜、他の女性と一緒にいるところを見せつけ、派手に恥を掻かせて婚約破棄しようと画策したが……!? 色々こじらせた男の結末。 数話で終わる予定です。 ※タイトル変更しました。

巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~

アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。

公爵子息に気に入られて貴族令嬢になったけど姑の嫌がらせで婚約破棄されました。傷心の私を癒してくれるのは幼馴染だけです

エルトリア
恋愛
「アルフレッド・リヒテンブルグと、リーリエ・バンクシーとの婚約は、只今をもって破棄致します」 塗装看板屋バンクシー・ペイントサービスを営むリーリエは、人命救助をきっかけに出会った公爵子息アルフレッドから求婚される。 平民と貴族という身分差に戸惑いながらも、アルフレッドに惹かれていくリーリエ。 だが、それを快く思わない公爵夫人は、リーリエに対して冷酷な態度を取る。さらには、許嫁を名乗る娘が現れて――。 お披露目を兼ねた舞踏会で、婚約破棄を言い渡されたリーリエが、失意から再び立ち上がる物語。 著者:藤本透 原案:エルトリア

辺境伯は王女から婚約破棄される

高坂ナツキ
恋愛
「ハリス・ワイマール、貴男との婚約をここに破棄いたしますわ」  会場中にラライザ王国第一王女であるエリス・ラライザの宣言が響く。  王宮の大ホールで行われている高等学校の卒業記念パーティーには高等学校の卒業生やその婚約者、あるいは既に在学中に婚姻を済ませている伴侶が集まっていた。  彼らの大半はこれから領地に戻ったり王宮に仕官する見習いのために爵位を継いではいない状態、つまりは親の癪の優劣以外にはまだ地位の上下が明確にはなっていないものばかりだ。  だからこそ、第一王女という絶大な権力を有するエリスを止められるものはいなかった。 婚約破棄の宣言から始まる物語。 ただし、婚約の破棄を宣言したのは王子ではなく王女。 辺境伯領の田舎者とは結婚したくないと相手を罵る。 だが、辺境伯側にも言い分はあって……。 男性側からの婚約破棄物はよく目にするが、女性側からのはあまり見ない。 それだけを原動力にした作品。

虐げられた第一王女は隣国王室の至宝となる

珊瑚
恋愛
王族女性に聖なる力を持って産まれる者がいるイングステン王国。『聖女』と呼ばれるその王族女性は、『神獣』を操る事が出来るという。生まれた時から可愛がられる双子の妹とは違い、忌み嫌われてきた王女・セレナが追放された先は隣国・アバーヴェルド帝国。そこで彼女は才能を開花させ、大切に庇護される。一方、セレナを追放した後のイングステン王国では国土が荒れ始めて…… ゆっくり更新になるかと思います。 ですが、最後までプロットを完成させておりますので意地でも完結させますのでそこについては御安心下さいm(_ _)m

婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~

ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。 そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。 自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。 マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――   ※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。    ※第二章まで完結してます。現在、最終章について考え中です(第二章が考えていた話から離れてしまいました(^_^;))  書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m    ※小説家になろう様にも投稿しています。

婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。

三葉 空
恋愛
 ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

処理中です...