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幸せの足跡
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9月も半ば、バイトも随分と慣れた頃。
ついに手に入れた!
念願のノートパソコンだ!!
本当はまだまだ買える様な金額には達せずにいた。
もちろんバイト代だってまだ入ってるわけがない。
そんな時、高野が立て替えてくれたのだ。
リハビリは1日でも早い方がいいと。
足りない分は出世払いでいいからと。
そんな流れで知夏の元にパソコンが届いた。
いつものようにベッドの背を起こして、設置したテーブルの上にドンと構える。
目の前の機械に知夏は驚いた様子だ。
「これで俺たち話せるようになるぞ!」
興奮気味になりつつ、下準備。
まず握る力はある知夏の手に鉛筆のような形をしたペン型マウスを握らせる。
ネズミ型の指を使うマウスでのクリック操作は無理だろうということでペン型マウスならと試すことになった。
ノートパソコンを開き、電源を入れ、デスクトップ画面が表示される。
知夏の手に添えながら一緒に動かしてアイコンを押す。
ワープロソフトの画面が起動した。
ゆっくりとパソコンのキーボードに知夏の手を移動させ、ペンのまま、キーを打つ。
画面上に"ち・な・つ"の文字が現れた。
知夏はビックリしたように目を見開き、俺の顔を見る。
まさかこんな形で会話が出来ると思いもしなかったのかもしれない。
といっても俺の誘導があってこその入力。
つまり知夏自身が出来なければ意味がない。
すると今度は知夏は自分がやってみるというような顔つきになった。
俺は手を離し、キーボード上にあるペンの行方を見守る。
知夏の手は細かな揺れを生じさせつつも、ゆっくりと左右に移動する。
勢い余って画面上の文字がキーを押しっぱなしになってしまったのか同じになってしまう。
その度に悔しそうに改行を繰り返す。
「焦る必要はないからな」
俺は高野に言われたことを知夏にも言った。
リハビリは日々の積み重ねが大事。
一歩一歩進めばいいんだって。
努力家の知夏は必死に頑張っていた。
初めてということもあってどうしてもうまくいかない。
ペン先でキーが反応してしまうので力加減が難しいみたいだ。
同じ文字の羅列が何行も続く。
根を詰めてやるのはよくないともアドバイスを受けてたので休み休み続けた。
それでも結局この日は文字らしい文字を打つことが出来なかった。
最初からうまくいくわけない。
分かっていたとはいえ、やっぱり悔しかった。
それから数日は同じことが続いた。
何行も何行も同じ文字の羅列が続く。
俺なら嫌になって投げ出してしまいそうな繰り返しを知夏は根気よく続けた。
たとえ進歩がみられなくても努力を惜しまない。
見えない小さな積み重ねを信じてる証拠だ。
そういえば春休みの頃も俺に対してしつこかったもんな。
まあ、そのおかげで今こうやって知夏と向き合えてるし。
そういうところを見習わなきゃいけねぇな、俺。
いい加減諦めてしまいそうになる俺に喝を入れ、知夏を見守る。
突然、今まで必死で動かしていた知夏の手が止まった。
同じ文字の行が並んでいるが、……何だ?
俺は驚いた。
一行目がひひひ……と続いていて、二行目がろろろ……。
そうやって縦に読んでいくと、
―ひ・ろ・く・ん・あ・り・が・と・う―
「ち、知夏!」
思わず嬉しくなって抱きしめていた。
小さな成果が現れた序章だった。
ついに手に入れた!
念願のノートパソコンだ!!
本当はまだまだ買える様な金額には達せずにいた。
もちろんバイト代だってまだ入ってるわけがない。
そんな時、高野が立て替えてくれたのだ。
リハビリは1日でも早い方がいいと。
足りない分は出世払いでいいからと。
そんな流れで知夏の元にパソコンが届いた。
いつものようにベッドの背を起こして、設置したテーブルの上にドンと構える。
目の前の機械に知夏は驚いた様子だ。
「これで俺たち話せるようになるぞ!」
興奮気味になりつつ、下準備。
まず握る力はある知夏の手に鉛筆のような形をしたペン型マウスを握らせる。
ネズミ型の指を使うマウスでのクリック操作は無理だろうということでペン型マウスならと試すことになった。
ノートパソコンを開き、電源を入れ、デスクトップ画面が表示される。
知夏の手に添えながら一緒に動かしてアイコンを押す。
ワープロソフトの画面が起動した。
ゆっくりとパソコンのキーボードに知夏の手を移動させ、ペンのまま、キーを打つ。
画面上に"ち・な・つ"の文字が現れた。
知夏はビックリしたように目を見開き、俺の顔を見る。
まさかこんな形で会話が出来ると思いもしなかったのかもしれない。
といっても俺の誘導があってこその入力。
つまり知夏自身が出来なければ意味がない。
すると今度は知夏は自分がやってみるというような顔つきになった。
俺は手を離し、キーボード上にあるペンの行方を見守る。
知夏の手は細かな揺れを生じさせつつも、ゆっくりと左右に移動する。
勢い余って画面上の文字がキーを押しっぱなしになってしまったのか同じになってしまう。
その度に悔しそうに改行を繰り返す。
「焦る必要はないからな」
俺は高野に言われたことを知夏にも言った。
リハビリは日々の積み重ねが大事。
一歩一歩進めばいいんだって。
努力家の知夏は必死に頑張っていた。
初めてということもあってどうしてもうまくいかない。
ペン先でキーが反応してしまうので力加減が難しいみたいだ。
同じ文字の羅列が何行も続く。
根を詰めてやるのはよくないともアドバイスを受けてたので休み休み続けた。
それでも結局この日は文字らしい文字を打つことが出来なかった。
最初からうまくいくわけない。
分かっていたとはいえ、やっぱり悔しかった。
それから数日は同じことが続いた。
何行も何行も同じ文字の羅列が続く。
俺なら嫌になって投げ出してしまいそうな繰り返しを知夏は根気よく続けた。
たとえ進歩がみられなくても努力を惜しまない。
見えない小さな積み重ねを信じてる証拠だ。
そういえば春休みの頃も俺に対してしつこかったもんな。
まあ、そのおかげで今こうやって知夏と向き合えてるし。
そういうところを見習わなきゃいけねぇな、俺。
いい加減諦めてしまいそうになる俺に喝を入れ、知夏を見守る。
突然、今まで必死で動かしていた知夏の手が止まった。
同じ文字の行が並んでいるが、……何だ?
俺は驚いた。
一行目がひひひ……と続いていて、二行目がろろろ……。
そうやって縦に読んでいくと、
―ひ・ろ・く・ん・あ・り・が・と・う―
「ち、知夏!」
思わず嬉しくなって抱きしめていた。
小さな成果が現れた序章だった。
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