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子爵侍女、前世を思い出す
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屋敷から離れ、木々が生い茂った場所に近づく頃、それが目に映る。
木材で作られたこじんまりとした古めかしい小屋は年季が入っているようだった。
もともと丈夫に建てられていたのか形状はしっかりとしていたがところどころに腐食が見られる。
入り口は外側の扉から木の板が嵌められ、閂のようになっていた。
内側から外に出れないよう閉じ込めているようにも思えたが、物音もなく何の気配を感じないこの小屋に何かがいるようには見えなかった。
板を抜き、恐る恐るそっと扉を開けてみる。
瞬間、中からツンとするような悪臭が鼻につき、思わず覆った。
小屋の中は薄暗く、劣化した木の隙間からかろうじて光を感じる程度で中は狭そうな様子。
一歩踏み出そうとした矢先、すぐ足元で薄汚れた皿がカツンと当たる。
開けてすぐの手前の地べたに皿を置いて立ち去っているだけと予測がついた。
もしかすると中に入ったことがないのかもしれない。
それにしても何ともいえないすごい嫌な臭いがする。
酸っぱいような、じめっとしたような、腐ったようなといろんな臭いが混じっている。
元々は解体小屋だったから今は使用してなくても染みついたものが残っているのかもしれない。
これはデリアさんが仕方なく回された仕事で、碌に掃除せず、閉じ込めたまま食べ物を与えているだけ、といったところかな。
こんな環境でちゃんと世話をしているとは思えない。もしかして弱ってたりするかも。
空っぽの皿を見る限りは生きてる様子が窺えるけど、いつから何を飼っているのか判らないし、どう見てもこれは酷い状態。
存在を確かめないと、と、ローブの裾を鼻にあてながら中の様子を窺う。
屋根裏のベッドスペースと変わらないぐらいの広さのそこは薄暗く奥の方に白っぽいものが視界に入る。
目を凝らすと端の隅に布のようなものが丸まっていた。
おそらくあの中に何かいるみたいで大きさ的に犬だろうか?
明かり取りと臭いを追い出すために扉を全開にした。雨は降り続いている。
念のため逃げ出さないよう用心し、片手で皿を持ちながらそちらに気を紛れさせられるように布に近づいていく。
不意に何かの気配を感じたのか薄汚れてボロボロの布がかすかに動く。
慌ててそばに皿を置き、声をかける。
「ほ、ほらご飯だよ。お利口だから大人しくしてね」
反応したのかヨロヨロと布が浮き上がりズルズルと動いて黒い物体がゆっくりと顔を出す。
べと付いて固まった黒い毛並みが見え、何故か服のようなものを着せられている。
服を着た犬? 違う、人の形をしている。しかも小さくてやせ細っている。
包まった布から現れたのは異臭を放っている小さな子どもだった。
「うそでしょ、こんな!」
子どもはのそのそと這うようにして皿に近づき、顔を突っ込んで食べ始める。
それはまるで動物の食事の様子を見ているようだった。
目の前の現実に頭が真っ白になる。
顔を隠すように伸びきった黒い髪はピタッと固まって張り付いている。
首筋までの雑に伸びきった髪の長さから男の子と思われた。
ワンピースのような上着は汚れが酷く、ところどころ破れている。
服から露出した肌は真っ黒で元々の色なのか汚れなのか判別がつかない。
どうしてこんなことに? あまりにも酷すぎる!
「ねえ、貴方、どうしてこんなところにいるの? 一体、誰がこんな……」
頭がぐらぐらする。異臭も堪らないがこの出来事にも衝撃が走る。
子供の顔を見ようと更に近づいたその時、ぐいっと腕が引っ張られ、小屋の外へ追い出された。
水音が撥ね、腕が痛い。
濡れた地面に尻もちをついたまま見上げれば、怖い顔をしたハーパーさんだった。
慌てた様子で扉を閉め、しっかりと蓋をするように板を渡す。
それから私と目を合わさないようにしつつ、立ち上がらせるように腕を掴む。
再び強引に引っ張るとこの場所から離れさせるためか別荘方面へと引き摺る形で歩き出していた。
木材で作られたこじんまりとした古めかしい小屋は年季が入っているようだった。
もともと丈夫に建てられていたのか形状はしっかりとしていたがところどころに腐食が見られる。
入り口は外側の扉から木の板が嵌められ、閂のようになっていた。
内側から外に出れないよう閉じ込めているようにも思えたが、物音もなく何の気配を感じないこの小屋に何かがいるようには見えなかった。
板を抜き、恐る恐るそっと扉を開けてみる。
瞬間、中からツンとするような悪臭が鼻につき、思わず覆った。
小屋の中は薄暗く、劣化した木の隙間からかろうじて光を感じる程度で中は狭そうな様子。
一歩踏み出そうとした矢先、すぐ足元で薄汚れた皿がカツンと当たる。
開けてすぐの手前の地べたに皿を置いて立ち去っているだけと予測がついた。
もしかすると中に入ったことがないのかもしれない。
それにしても何ともいえないすごい嫌な臭いがする。
酸っぱいような、じめっとしたような、腐ったようなといろんな臭いが混じっている。
元々は解体小屋だったから今は使用してなくても染みついたものが残っているのかもしれない。
これはデリアさんが仕方なく回された仕事で、碌に掃除せず、閉じ込めたまま食べ物を与えているだけ、といったところかな。
こんな環境でちゃんと世話をしているとは思えない。もしかして弱ってたりするかも。
空っぽの皿を見る限りは生きてる様子が窺えるけど、いつから何を飼っているのか判らないし、どう見てもこれは酷い状態。
存在を確かめないと、と、ローブの裾を鼻にあてながら中の様子を窺う。
屋根裏のベッドスペースと変わらないぐらいの広さのそこは薄暗く奥の方に白っぽいものが視界に入る。
目を凝らすと端の隅に布のようなものが丸まっていた。
おそらくあの中に何かいるみたいで大きさ的に犬だろうか?
明かり取りと臭いを追い出すために扉を全開にした。雨は降り続いている。
念のため逃げ出さないよう用心し、片手で皿を持ちながらそちらに気を紛れさせられるように布に近づいていく。
不意に何かの気配を感じたのか薄汚れてボロボロの布がかすかに動く。
慌ててそばに皿を置き、声をかける。
「ほ、ほらご飯だよ。お利口だから大人しくしてね」
反応したのかヨロヨロと布が浮き上がりズルズルと動いて黒い物体がゆっくりと顔を出す。
べと付いて固まった黒い毛並みが見え、何故か服のようなものを着せられている。
服を着た犬? 違う、人の形をしている。しかも小さくてやせ細っている。
包まった布から現れたのは異臭を放っている小さな子どもだった。
「うそでしょ、こんな!」
子どもはのそのそと這うようにして皿に近づき、顔を突っ込んで食べ始める。
それはまるで動物の食事の様子を見ているようだった。
目の前の現実に頭が真っ白になる。
顔を隠すように伸びきった黒い髪はピタッと固まって張り付いている。
首筋までの雑に伸びきった髪の長さから男の子と思われた。
ワンピースのような上着は汚れが酷く、ところどころ破れている。
服から露出した肌は真っ黒で元々の色なのか汚れなのか判別がつかない。
どうしてこんなことに? あまりにも酷すぎる!
「ねえ、貴方、どうしてこんなところにいるの? 一体、誰がこんな……」
頭がぐらぐらする。異臭も堪らないがこの出来事にも衝撃が走る。
子供の顔を見ようと更に近づいたその時、ぐいっと腕が引っ張られ、小屋の外へ追い出された。
水音が撥ね、腕が痛い。
濡れた地面に尻もちをついたまま見上げれば、怖い顔をしたハーパーさんだった。
慌てた様子で扉を閉め、しっかりと蓋をするように板を渡す。
それから私と目を合わさないようにしつつ、立ち上がらせるように腕を掴む。
再び強引に引っ張るとこの場所から離れさせるためか別荘方面へと引き摺る形で歩き出していた。
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