25 / 34
王立貴族学院 二年目
4
しおりを挟む
「スリィズ子爵家の領地へ訪問するのか、来月に?」
特別補習も日が経てば打ち解けていくもので初日に比べると先生とは親しくなったと思う。
今までは用がなければ関わらないという距離感で碌に話したことが無かったからかもしれない。
そんなこんなで特別補習の最終日。ばっちりと課題を熟し、いつものように雑談タイムへと入った。
さすがに2週間も経てばどこで集中すべきか理解できるもので二人ともミスが無くなった。
これで今後のテストは大丈夫、だよね、多分。
「はい。シャルからの検証結果がどうなるか楽しみなんです!」
マリアが祈るように手を組んで屈託なく笑う姿が可愛い。
春休み中、マリアとはほぼ毎日会っていたようなものだけど、忘れてはいけないもう一人、もちろんメアリとも会っていた。
店のお手伝いのために週末しか都合がつかなかったからようやく3人で顔を合わせた時にやっとこの予定は纏まった。
そもそも去年の小豆騒動をきっかけで思いついてマリアにとあるお願いをしていた。
といっても結局はソフィアさんがそれを訊きつけて仲介したことで実現できたことなんだけどね。
で、その成果を確認すべくこの時期、マリアの領地に赴くことは決めてた。
当初は協力者ということでソフィアさんを含めての4人だったはずなのにいつの間にか騎士くんが加わっていて、あれよあれよという間に何故かランチメンバー全員が参加ということに。
スリィズ子爵家が関わることだから細かいことは別に構わないんだけど、ただ高位なお貴族様や王族までも参加って負担が大きくなりそうで気が重くないのかな、と。
それにちょっと肉体労働的なことを行なうから体力的に大丈夫なのかは不安だともいえるし、まさかあのお願い事からこんな大げさになるとは思いもしないよ。
「そうか、少し気がかりだが……」
キルシュ先生が顎に手を当て少し何か考えるような素振りをした。
と、その時、ガシャンと大きく派手な音が響く。
どうやらマリアの手が当たったらしく、向かい合うように立っていた先生と机の間に筆記具がバラバラと散らばっていた。
「あ、お話の途中で私ったら……」
マリアが慌てた様子で立ち上がると長机の前へとしゃがみ込む。
先生も反応して拾い始める。もちろんわたしも手伝うために近づいた。
「あぁっ、先生もシャルもごめんなさいっ!」
焦っているためか少しでも早く自分で拾い集めようとするマリア。
わたしの近くにあったものにも身を乗り出して前かがみになる。
と同時に先生も同じものを拾おうと左手を伸ばしていた。
3人同時にそれを掴もうとしている最中、先生がひと足早くゲットした。
「わわっっ」
勢い余ったマリアが前のめりに倒れそうになるのを正面から受け止める。
危なっ、もう少しで顔から床にダイブするところだったよ。
そうして一安心したところでアクシデントが発生!
「痛っ!」
身を起こそうとしたマリアが一定の位置から身動きが取れない様子。
よく見れば先生のシャツの左袖口のカフスに結っている右側の髪の毛が引っ掛かっている。
「スリィズ嬢、動くな!」
筆記具を掴んだ左手をマリアが痛くならないように距離感を縮める先生。
「すまないが、ラペーシュ嬢、これを預かっていてくれ」
筆記具を渡してくると左腕を固定して髪を解こうとどうにかしようとしている。
でも髪を束ねた位置がカフスと複雑に絡まっていてどうしようもなさそう。
察したマリアがリボンをほどいて柔らかそうな髪を靡かせた。
サラリと右側の髪が広がり、幾筋かの分は抜けていった様子。
けどまだピーンと引っ張ってるカフスの根元に絡まったものは解けそうにみえない。
う~ん、見てる限りこれを解くにはちょっと面倒くさそうの一言。
はっきり言って切っちゃった方が早いかもと思ってしまった。ほんの少しの毛束だし。
「シャル、お願い。カバンにある裁縫道具からハサミを持ってきて欲しいの」
マリアもそう判断したようで頼んでくる。
「それはダメだ!」
わたしが立ち上がった時、キルシェ先生が声を上げた。
「女性の髪は大切なものだ。それは絶対に許すことはできないぞ!」
先生はカフスを掴むと左腕の方を強引に引っ張った。
ブチッと音が響き渡って一瞬の出来事。
見ればシャツの袖口の方が少し破れてる!!
「ああっ、袖口が!」
マリアが涙目になった。
「大したことはない。髪を傷つけるよりマシだ」
キルシェ先生は優しく微笑むとスッと立ち上がる。
「さあ、そろそろ時間だな」
気にさせないよう隠すように手を後ろに組んでそのさり気ない仕草がちょっと紳士っぽい。
けどマリアにしてみれば気にならない訳はない。ばっちり破れた部分が見えちゃってたし。
「でも……」
「週明けから新学期だ。気持ちを切り替えて身に付けたことを継続して努力するように、……分かってるな?」
眼鏡の奥の瞳がわたしたちを優しく見つめている。何も言うなと言わんばかりに。
う~ん、何でだろう、ちょっとキルシェ先生が眩しく見えた。
特別補習も日が経てば打ち解けていくもので初日に比べると先生とは親しくなったと思う。
今までは用がなければ関わらないという距離感で碌に話したことが無かったからかもしれない。
そんなこんなで特別補習の最終日。ばっちりと課題を熟し、いつものように雑談タイムへと入った。
さすがに2週間も経てばどこで集中すべきか理解できるもので二人ともミスが無くなった。
これで今後のテストは大丈夫、だよね、多分。
「はい。シャルからの検証結果がどうなるか楽しみなんです!」
マリアが祈るように手を組んで屈託なく笑う姿が可愛い。
春休み中、マリアとはほぼ毎日会っていたようなものだけど、忘れてはいけないもう一人、もちろんメアリとも会っていた。
店のお手伝いのために週末しか都合がつかなかったからようやく3人で顔を合わせた時にやっとこの予定は纏まった。
そもそも去年の小豆騒動をきっかけで思いついてマリアにとあるお願いをしていた。
といっても結局はソフィアさんがそれを訊きつけて仲介したことで実現できたことなんだけどね。
で、その成果を確認すべくこの時期、マリアの領地に赴くことは決めてた。
当初は協力者ということでソフィアさんを含めての4人だったはずなのにいつの間にか騎士くんが加わっていて、あれよあれよという間に何故かランチメンバー全員が参加ということに。
スリィズ子爵家が関わることだから細かいことは別に構わないんだけど、ただ高位なお貴族様や王族までも参加って負担が大きくなりそうで気が重くないのかな、と。
それにちょっと肉体労働的なことを行なうから体力的に大丈夫なのかは不安だともいえるし、まさかあのお願い事からこんな大げさになるとは思いもしないよ。
「そうか、少し気がかりだが……」
キルシュ先生が顎に手を当て少し何か考えるような素振りをした。
と、その時、ガシャンと大きく派手な音が響く。
どうやらマリアの手が当たったらしく、向かい合うように立っていた先生と机の間に筆記具がバラバラと散らばっていた。
「あ、お話の途中で私ったら……」
マリアが慌てた様子で立ち上がると長机の前へとしゃがみ込む。
先生も反応して拾い始める。もちろんわたしも手伝うために近づいた。
「あぁっ、先生もシャルもごめんなさいっ!」
焦っているためか少しでも早く自分で拾い集めようとするマリア。
わたしの近くにあったものにも身を乗り出して前かがみになる。
と同時に先生も同じものを拾おうと左手を伸ばしていた。
3人同時にそれを掴もうとしている最中、先生がひと足早くゲットした。
「わわっっ」
勢い余ったマリアが前のめりに倒れそうになるのを正面から受け止める。
危なっ、もう少しで顔から床にダイブするところだったよ。
そうして一安心したところでアクシデントが発生!
「痛っ!」
身を起こそうとしたマリアが一定の位置から身動きが取れない様子。
よく見れば先生のシャツの左袖口のカフスに結っている右側の髪の毛が引っ掛かっている。
「スリィズ嬢、動くな!」
筆記具を掴んだ左手をマリアが痛くならないように距離感を縮める先生。
「すまないが、ラペーシュ嬢、これを預かっていてくれ」
筆記具を渡してくると左腕を固定して髪を解こうとどうにかしようとしている。
でも髪を束ねた位置がカフスと複雑に絡まっていてどうしようもなさそう。
察したマリアがリボンをほどいて柔らかそうな髪を靡かせた。
サラリと右側の髪が広がり、幾筋かの分は抜けていった様子。
けどまだピーンと引っ張ってるカフスの根元に絡まったものは解けそうにみえない。
う~ん、見てる限りこれを解くにはちょっと面倒くさそうの一言。
はっきり言って切っちゃった方が早いかもと思ってしまった。ほんの少しの毛束だし。
「シャル、お願い。カバンにある裁縫道具からハサミを持ってきて欲しいの」
マリアもそう判断したようで頼んでくる。
「それはダメだ!」
わたしが立ち上がった時、キルシェ先生が声を上げた。
「女性の髪は大切なものだ。それは絶対に許すことはできないぞ!」
先生はカフスを掴むと左腕の方を強引に引っ張った。
ブチッと音が響き渡って一瞬の出来事。
見ればシャツの袖口の方が少し破れてる!!
「ああっ、袖口が!」
マリアが涙目になった。
「大したことはない。髪を傷つけるよりマシだ」
キルシェ先生は優しく微笑むとスッと立ち上がる。
「さあ、そろそろ時間だな」
気にさせないよう隠すように手を後ろに組んでそのさり気ない仕草がちょっと紳士っぽい。
けどマリアにしてみれば気にならない訳はない。ばっちり破れた部分が見えちゃってたし。
「でも……」
「週明けから新学期だ。気持ちを切り替えて身に付けたことを継続して努力するように、……分かってるな?」
眼鏡の奥の瞳がわたしたちを優しく見つめている。何も言うなと言わんばかりに。
う~ん、何でだろう、ちょっとキルシェ先生が眩しく見えた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

もう尽くして耐えるのは辞めます!!
月居 結深
恋愛
国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。
婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。
こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?
小説家になろうの方でも公開しています。
2024/08/27
なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話
ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。
完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる