ヒロインの、はずですが?

おりのめぐむ

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王立貴族学院 一年目

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 こんな空気感の中、薄々思った。
 もしかしてわたしはヒロインとは関係ないのかもしれない!
 だって客観的に見てマリアもメアリもヒロインに相応しい存在だと断言できる。
 二人とも表情豊かで努力家で優しくて良い子なのは当たり前でとっても可愛い。
 それにマリアは何かと物をよく落とすし、メアリはよく転びそうになるという不可思議な特性がある気がする。
 ヒロインの条件を持ち合わせるキャラクターといえばそういう感じっぽい。
 でもわたしがそうじゃないと否定できないのは何の因果か同じ舞台に巻き込まれてしまう気質がある。
 目立たなくいようとか擬態しようとかしてたのに何故か露呈するように仕組まれている感。
 それに3人の中で一番身分が高いのがこのわたし。
 伯爵という位が他の下級貴族の方々に刺激を与えるらしく二人よりも存在が目立ってしまう。
 まあ、元平民が伯爵令嬢だからね。身分と中身がかけ離れすぎなんだよ。
 で、3人でやり玉にされる際は公爵貴族であるセリーヌさん筆頭に直接注意を受けることが度々。
 その時、マリアの妹ソフィアさんとメアリを注意したアイネさんを引き連れ、相対する。
 何でか3対3の構図になるという奇妙な現象。
 だからこそ、関係ないとは言い切れないでいる。

「ラぺーシュさん、またこちら、間違えていらっしゃるわよ!」

 回収された書類を片手に眼鏡を光らせながらアイネさんが切り込んでくる。
 うわ、またやっちゃったよ。スペルミス。
 前世の記憶からかついローマ字読み風に文字を綴っちゃう癖が出る。
 わたしぐらいなんだよね、ついありもしない文字を作っちゃうの。
 それをアイネさんに気付かれてからことある毎にチェックされるようになって絡まれる。
 同じ爵位の伯爵令嬢らしいから余計に粗が目立つのが許せないのかもしれない。
 伯爵家の品位を下げるとかなんとかでとにかくアイネさんからの圧がすごい。
 個人になると必ず何かにつけて絡まれてしまうのだ、何で?

「モランゴさん、貴方、ご自宅で靴を買い直された方がよろしいのでは?」
 
 廊下で転びかけそうになるメアリにセレーヌさんが言い放っていた。
 書き直した書類を提出しようと教室から出ようとした矢先の出来事である。
 またか。スカート捲り事件があった以来、こういった絡みは何度も見てきたよ。
 
「マリア、何しているの!」

 語気の荒い聞き慣れた声音に振り返れば床に筆記用具をばら撒いているマリアの姿。
 姉の扱いとは思えないほどの威圧を振りまくソフィアさんの様子も何度も見たし。

 ん? んんん?
 ふと何かの引っ掛かりを覚える。
 でも遠目から眼鏡を光らせるアイネさんの圧を感じ、自分の用事を済ませることにした。



「そういえばメアリって、殿下と親しいよね?」

 時はランチタイム。芝生の上にはマリアとメアリとわたし。
 それぞれ持参したバスケットを片手に中庭で昼食をとる。
 エセ貴族3人組は食堂で白い目をされて居心地悪くするよりは楽しくとこうしていつも食事。
 パン屋の娘だったわたしはサンドイッチにこだわりがあり、いろんな組み合わせを二人に披露する。
 茶葉の産地を領内に持つマリアはいつも美味しいお茶を提供してくれるし、珍しい食材を手に入れられるメアリはいち早く教えてくれるので至福の時を過ごせる。
 貴族令嬢としてはしたないと揶揄されるマナーでも気楽にできるしね。
 地べたに足を投げ出して座っていても今だけ大丈夫。
 と不意に靴が目に入り、メアリがセレーヌさんから絡まれていたことを思い出す。
 何故だか王子と親しいメアリ。初っ端、王子からも名前呼びされてたよね?
 時折二人で話しているところも見かけるし、そういう時、特にセレーヌさんが絡んでた気もする。
 
「うん、実は殿下のお婆様にあたる方と昔から取引があってそれがご縁で顔見知りだったの。でもまさか王族の方とは知らなくて驚いちゃった」

 メアリは垂れた目を大きく見開く。緑のポニテが少し揺れた。

「まあ、私もここに入学して初めて殿下をお見かけしたわ」

 両手を合わせてマリアが頬を赤くする。

「みんな同じだね。市井にいると目の前のことで精一杯だもんね」

 互いに顔を見合わせて頷く。平民なんて生活するので必死。日用品すら手に入れるのが大変だった。
 こんな風に立派な制服を着てペンを握って勉学に励めるなんて思いもしない。
 ふと筆記用具をぶちまけたマリアの出来事も頭に過ぎった。
 そういえば騎士くんが拾うの手伝ってたよね?

「あのさ、マリアはき……、ケラスムさんと知り合いなの?」

「え、あ……、実は……、カイル様はソフィアの婚約者なの……」

 俯き加減でマリアは言いにくそうに答えた。

「そ、そうなの? 知らなかった」

 両手を頬に当て、メアリの目がさらに大きく開く。

「えええええ! そんな風に全然見えなかった……」

 驚きを隠せず仰け反っていると時間だと鐘が鳴り響き始める。
 知らなかった事情に踏み込んでしまった衝撃のランチタイムは終わりを告げていた。
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