RPGの魔王が乙女ゲームに転移して、俺様王子に逆攻略される話

二階堂まりい

文字の大きさ
24 / 24

魔王、王子を恐れさせる

しおりを挟む
「トラゴスのことを最初は、王子である私に武芸を示したくて暴れてるんじゃないかって、冷めた目で見ていた」
 ジーヴルが言う。
 忘れもしない、入学式当日の話か。

「でも君は私が王子だと知らなかっただろう?
 その時、こやつは本当に私を恐怖させたい一心で挑んできたのだな、と気付いて……楽しいことに真っ直ぐな君を好きになった」

 ……そうだったのか。
 ジーヴルの気持ちはバグではないのだな。


「本当は気付いているのだろう?
 君は随分前から、私の恐怖以外の表情に見惚れているはずだ」
「はぁ!?」
 真剣な告白からの唐突な俺様ムーブに困惑してしまう。
 なんというかまあ……図星だ。
 この俺が、ジーヴルの絶望する顔を引き出せないまま、笑顔に見惚れてしまうとは。不覚。
 気に食わなくて、つい目を逸らす。

 
「もちろん、君の趣味はラスボスらしくて素敵だ。
 だが、恐怖以外の感情も案外美しいものだろう?
 私はこの通り最強だから、ビケットが望む恐怖を与えてはやれない。
 だから代わりに、トラゴスが人を怖がらせること以外にも楽しめることを、もっと沢山、共に探したいんだ。
 趣味なんて、いくらあっても良い。
 楽しいことに目を輝かせる君をもっと見たい」


 良い意味で、ジーヴルは俺を魔王扱いしてくれない。
 絶望から生まれた存在、だなんて事実にはこだわらず、俺を一人の享楽主義者として尊重してくれる。
 ありのままの俺自身を。
 どこまでも俺様で、強引で前向きで、俺の世界をぐいぐいと広げてくれる。


「……良いだろう。
 せいぜい俺を楽しませてみろ、魔王の伴侶よ!」
 ジーヴルの手を取り、額と額をこつんと重ねる。
 するとエメラルドのような瞳が、きょとんと見開かれた。
 
 む……ジーヴルめ、恐怖している?

 覗き込むと、ジーヴルは震える声で言った。
「……可愛すぎた。怖いくらい」

 なんだ、こんな簡単なことでジーヴルが恐怖するとはな!
 絶望からくる恐怖ではないが、これはこれで面白い。
「そうだろう?」


 しばらくして馬に跨ったルルとアンジェニュー、カルムが駆けつけ、ルミエルとブランシュ、そして途中で拾ったらしい聖女を載せた馬車も到着する。
 
 ルルがジーヴルの傷口に回復魔法をかけ、両親がジーヴルを心配している間、聖女は勇者に駆け寄っていた。
「大丈夫!? ごめんなさい、私が祈ったせいで、みんなに迷惑が……」
 青ざめている聖女を、勇者が抱きしめる。

「大丈夫だよ。僕たちのRPGがそういうシナリオなんだから、コメディアが発生するのは仕方のないことさ。
 乙女ゲーム世界に流れ着いちゃったのもバグのせいだし」
「でも……」
「君はトラゴスを恨んだことがある?」
 勇者が突然、俺の名を出した。
 何か知らんが、勘弁してくれ。

「いいえ……」
「だろ? トラゴスだって、RPGのストーリーの都合で、僕たちに倒されるために生まれた悪なんだから。
 トラゴスを許すように、君自身を許してやってくれ」
 勇者に言われ、やっと聖女は納得したようだった。


 カルムが抱えていた本を開くと、中から見覚えのある姿が飛び出てくる。
 電子の女神、クウランだ。

「僕とカルムで二時間くらい祈って、やっとクウランを召喚出来たんだよ!
 やっぱりコメディアの力でコンセントの中に飛ばされてたみたい」
「コンセント……怖かった……」
 にこやかに説明するアンジェニューの隣で、クウランが震えている。
 コンセントの中って怖いのか……。俺より怖いだろうか?


 げんなりしつつ、クウランはワープゾーンを作ってくれる。
「勇者、聖女。そしてコメディア。
 貴方たちにはまだ、RPG世界で果たすべき役割があります。
 戻りましょう」

 そうだ。俺とは違い、彼らには向こうでやるべきことがある。
 俺とジーヴルが乙女ゲーム世界でコメディアを撃破しても、それはRPG世界にとっては無意味なことだ。
 向こうの世界で、勇者パーティがコメディアを倒すことで、ようやく彼らの二周目が終わる。


 最強である俺を倒した勇者たちなのだから、コメディアくらい秒殺に違いない。
 またバグが悪さをするかもしれんが、それはその時だ。


 ジーヴルが氷漬けにしたコメディアを、勇者に渡した。


「君が幸せそうで良かったよ、トラゴス」
 勇者が言う。
 俺が、幸せそう……か。

「まあ、乙女ゲーム世界も悪くはないぞ」
 不敵に笑って返してやると、勇者と聖女も微笑んで、コメディアを連れてワープゾーンを潜って行った。

「じゃあ、私はこれで」
 クウランも帰って行く。
 女神だから仕事で仕方なくやっているが、二度とこちらに関わりたくなさそうな顔だ。


「トラゴスさーん」
 幼い声が俺を呼んだ。
 見ると、馬車から看護師見習いが出てくるところだった。

「居たのか」
「はい。
 これ、預かってた物です」

 そうだ、ジーヴルからもらった菓子をこの子に預けていたのだ。

「ありが……」
 受け取ろうとした俺の手は空を切る。
 ガキめ、気を利かせたつもりか知らんが、菓子をジーヴルに渡しやがった。

「我が伴侶に捧げる。トラゴス・ビケット・オーデー」
「……うむ」
 ジーヴルから菓子を受け取ってやる。
 今度は、伴侶として。





「これにて発表を終わります」
 カルムが言い終えると、講堂中に拍手が起こる。
 文学研究に関するカルムの発表、見事だった。

 学園を卒業した後、カルムは研究者になっていた。
 そして研究発表を奇しくも、アンブルと初デートした博物館で行うこととなった訳だ。

「ジーヴル、お前講義中に一瞬上の空だっただろう」
 言いながら席を立つと、隣でジーヴルが苦笑した。
「お腹が空いたなーと思っていたのだ。
 カルムもまだ片付けがあるだろうし、何か食べてから会いに行こう。
 トラゴスもどうだ」
 俺は食事の必要など無いのだが……ジーヴルと共に食事を摂るのは好きだ。
「うむ」

 博物館併設のレストランで定食を食べてから、講堂の控室を訪ねる。


「カルム、講義お疲れ様」
「面白かったぞ」
「ジーヴル、トラゴス! 久しぶり」
 そこにはカルムとアンブルのカップルだけでなく、ルルが率いるハーレムも居た。

 アンジェニューとヴェルティージュが同時にルルと交際していて、ルルが学園を卒業し回復魔法を活かした診療所を開業した後も関係が続いている……というのは知っていた。
 しかし、まさかの人物がハーレムに加わっていた。

「えっと……ジョリーもノワール先生も、ルルとお付き合いを?」
「ええ」
「はい」
 恐る恐る訊ねると、二人とも頷いた。
 ジョリーの角に飾られたアクセサリーが、しゃらりと揺れる。

 ジョリーはファッションデザイナー、ノワールは今もロジエ魔法学園で教師をしていると聞き及んでいたが……まさかの展開だ。
 正統派イケメン、影のある美少年、悪役令嬢、物静かな教師……ルルのストライクゾーン広すぎだろ!


「愛の形はそれぞれですもの。
 そういう信念を貫くルルに、私も惹かれたのですわ。
 貴方たちも伴侶になったかと思いきや、相変わらず決闘しているそうね。
 全く落ち着きの無いカップルだこと」
 ジョリーがふふんと笑う。

「決闘は、私たちが出会ったきっかけだからな。
 技をぶつけ合うのが楽しいんだ」
 ジーヴルが微笑んだ。
 卒業しても、俺はジーヴルの顔を恐怖に歪めることは出来ていない。
 しかしジーヴルが笑うだけで……いや、ジーヴルと居るだけで毎日が楽しいのだ。


「では俺たちはそろそろ出発する」
「また皆で集まろう」
「またねー」
「お土産よろしく!」
 しばらく駄弁ってから、俺とジーヴルは控室を出た。


 ジーヴルは王位継承者で、俺はそれを支える身。
 王位を継ぐ前に社会勉強するため、二人で旅をしているのだ。

 博物館の裏手に繋いでおいたサンダルとエベーヌにそれぞれ跨り、脚でぽんと出発の合図を送る。
「次はどこへ行く?」
「南の方には、先先代の王が成した堤があるらしい。
 その堤のお陰で、洪水がすっかりおさまったそうだ」
「ほう、ではそれを見に行くか」


「怖いくらい綺麗だな、ビケットは」
 風に吹かれる俺を見つめながら、ジーヴルがぽつりとつぶやいた。

「そうだろう?」
 最高の伴侶に向かって、俺はニッと笑ってやった。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

lavie800
2022.11.08 lavie800

話が面白いので投票します。

2022.11.08 二階堂まりい

投票だけでなく感想まで、ありがとうございます!

解除

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

処刑されたくない悪役宰相、破滅フラグ回避のため孤独なラスボス竜を懐柔したら番として溺愛される

水凪しおん
BL
激務で過労死した俺が転生したのは、前世でやり込んだBLゲームの悪役宰相クリストフ。 しかも、断頭台で処刑される破滅ルート確定済み! 生き残る唯一の方法は、物語のラスボスである最強の”魔竜公”ダリウスを懐柔すること。 ゲーム知識を頼りに、孤独で冷徹な彼に接触を試みるが、待っていたのは絶対零度の拒絶だった。 しかし、彼の好物や弱みを突き、少しずつ心の壁を溶かしていくうちに、彼の態度に変化が訪れる。 「――俺の番に、何か用か」 これは破滅を回避するためのただの計画。 のはずが、孤独な竜が見せる不器用な優しさと独占欲に、いつしか俺の心も揺さぶられていく…。 悪役宰相と最強ラスボスが運命に抗う、異世界転生ラブファンタジー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。