読めば文章力が上がるかもしれない、ゆるゆる講座

二階堂まりい

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登場人物の容姿を書こう

登場人物の容姿の描写を、捜索願にしないためには

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 突然ですが、私は可愛い服が好きです。
 好きなものは当然、一次創作に盛り込みたいと思うのがオタクの常。
 小説に出てくる服装や髪型にはこだわりを持っています。

 またファッションは人間にとって単なる趣味ではなく、衣食住の一環です。
 なので登場人物の生活スタイル、作品の世界観にリアリティを持たせるには必要となってくる要素でしょう。
 誰も見たことがない異世界を描くなら、ますます大事です。


 しかし、同時にこんな心配もよぎるのです。
 容姿の描写がくどすぎはしないか。
 人物描写というより、捜索願になってはいないか。

 或いは、そもそもビジュアルを書くのが苦手、全部
「美しい」 「金髪碧眼」 「まるで天使」
などの一言で終わってしまう……というお悩みもあるかもしれません。


 私が公開している長編小説はリアル、ネット上含め複数の方々に読んでいただいております。
 幸い、容姿の描写がくどい! と言われたことはありません(服飾の専門用語が分かりづらい、とのご指摘はいただいたことがありますが)。

 なので、人物の容姿を描くにあたって私が心掛けているコツを書いていこうと思います。
 大したことは言えませんが、何かの助けになれば嬉しいです。

        ♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 例文として、当アカウントで公開中の小説から一部引用します。
 宣伝ではありません、念のため。


 人形と見紛うような美しい人が座っていた。
 白く体温を感じさせない細面、青黒いアイメイクと唇は作り物じみた印象を強めている。
 周りの景色を反射するのではないかという程に黒く艶のある長髪、猫を思わせる上がり目。
 服は白いニットのミニワンピースに、うっすらと模様がプリントされた黒いタイツ、黒エナメルのキンキーブーツ(注 太腿まである丈のブーツ)。
 洒落た格好と、足元にある機能的なキャリーバッグが妙にミスマッチだ。
 薄い掌は、耽美派の詩集の文庫本を支えている。
 そして何より、文字を追っている蘇芳すおう色の瞳が印象的だった。


 絵に描けと言われても困らない程度には、ヘアメイクや服の描写も詳細です。

 正直、もの凄くくどい文章です。
 可愛い服を書きたい、美形キャラを書きたいという私の欲望がダダ漏れてます。

 しかし小説の一文としての体は成しており、捜索願感は薄いと思います。

 
 例文からテクニックを排除した場合は、以下のような文章になります。


 人形と見紛うような美しい人が座っていた。
 白く体温を感じさせない細面、青黒いアイメイクと唇。
 周りの景色を反射するのではないかという程に黒く艶のある長髪、猫を思わせる上がり目。
 服は白いニットのミニワンピースに、うっすらと模様がプリントされた黒いタイツ、黒エナメルのキンキーブーツ(注 太腿まである丈のブーツ)。
 足元には機能的なキャリーバッグ。
 薄い掌は、耽美派の詩集の文庫本を支えていて、蘇芳すおう色の瞳が文字を追っている。

 
 大した差はありませんが、テンポが悪くなった上に、ちょっと捜索願感が増したと思います。
 この文章が小説に出てくると、改変前に比べると違和感が強いのではないでしょうか。

 ほんの少しの工夫が有るか無いかで、そこそこの違いが生まれるのです。


       ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 私が人物の容姿を描写する時に心掛けているのは、
「その容姿によってどんな印象を与えるか」
 という一点です。

 ぶっちゃけキャラクターの容姿なんて、作者の中でどれだけ出来上がっていても、
媒体が小説である限り、読者にとっては意味の無いことです。
 それが初登場の、何の思い入れも無いキャラクターなら尚更。

 理由は単純で、キャラクターの見た目なんてストーリーと関係ある方が稀だからです。
 だからこそ少しでも違和感を与えてしまった途端、「小説に突如として挟み込まれた捜索願」と揶揄され、読み飛ばされるのでしょう。


 ならば逆に考えるのです。
 容姿の描写に意味を持たせてしまえば良い、と。



 上記の文章を解体すると、以下のような構成になっています。

「白く体温を感じさせない細面、青黒いアイメイクと唇」(事実)

「作り物じみた印象」(思考)

美しいが無機質なキャラクター像(読者に伝わる情報)

 先ほどの悪い例で消えていた箇所は、この「思考」の部分に当たります。

 このように視覚から来る「事実」の羅列に、それを見た語り手の「思考」を付け足すことで、
「白く体温を~」云々を読者にとって無意味な情報では無くすのです。
 そうすると多少くどくても、箇条書きのような文章よりは没入しやすくなるのです。


 ちなみに引用した作品は地の文が三人称です。
 地の文の人称に関わらず使えるテクニックです。
 
 (むしろ一人称の方が、語り手の服飾に関する知識量の有無を考慮する必要があるので難しいです。
 例えば、歴史や裁縫に明るくないキャラクターが異世界の貴族を見て急に
「彼女が着ているのはブロケードで織られたロココ調のドレス。共布のストマッカーには繊細な薔薇の刺繍が~」
とか言い出したら噴飯ものですが、三人称だとそこらへんの心配は無いからです)


また、
「洒落た格好」「足元にある機能的なキャリーバッグ」(事実)

「ミスマッチ」(思考)

キャリーバッグを持って何処へ行くのか、何をしようとしているのか?(読者に伝わる情報)

というように、見た目から生まれる謎によって、読者を自然と次の展開へ誘導することも出来ます。

 こうすることで自然にストーリーを進行しながら、思う存分「ぼくが考えた最高にお洒落なキャラ」を押し売り出来る訳です。

      ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 服装を例にしましたが、これは作中に登場する森羅万象についても同じです。

 この建物は生活感や温かみがあるのか、または無機質で権威的なのか。
 それによって住人のイメージも変わるでしょう。

 この武器はギミック満載なのか、鋭い切れ味以外は何も持たないのか。
 それによって武器を振るう者のイメージも変わるはずです。


 せっかく書く小説なのですから、読む人の気持ちを考えつつ、自分の好きな物はたくさん盛り込んじゃいましょう!
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