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八章
8 楼夫の最期
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深夜美と楼夫は港の倉庫の上に立ち、海を眺めていた。
外宇宙の色に染まった黒い海原に、次第に起伏が生まれてくる。
波が激しくなってもそこに映る星辰がぼやけないのは、その異常性を物語っている。
傍らの灯台はヒビシュの隊列に堅固に守らせている。
もう遊軍を仕向けておく必要も無い。
九十八人の生ける屍と、忠実な手下、そして自身。
深夜美の持つ総力がこの場に集結していた。
置物のようにおとなしかったヒビシュたちの呼気が俄かに荒くなる。
振り向くと、港に鎮神、真祈、路加、団、与半が来ていた。
それぞれ得物を手に深夜美を見上げている。
「帝雨荼が浮上してくるまで、まだ少し時間ありますよね?
深夜美さん、荒津さん。
もう一度、お話しさせてもらえませんか」
つかつかと歩んできた鎮神が何をするかと思いきや、そんなのんきなことを申し込んでくる。
『絶対悪』を愚弄しているのか、と一喝しながら攻撃してやりたかった。
しかし、少年の真っ直ぐな視線を浴びていると、そんなことが馬鹿らしくなってきて――見ていられなくて、深夜美は適当にあしらう。
「勝手にすればいい」
「どうも。
深夜美さんはおれたちに目的とか過去のことを教えてくれましたよね。
それで、恥ずかしながらついさっき、荒津さんが置かれてた状況のこと、知りました。
二人とも、世界を呪うには十分すぎる想いをしてきたんですよね。
貴方たちのやったことは酷いと思います。
だけど、ちゃんと話しておきたかった。
おれの目的は、大事な人と生き抜くこと。
二人の本当の夢を、最後に聞かせてください」
本当に『絶対悪』としてこの決戦に挑むのか――鎮神はその最後の確認をしているようだった。
やっぱり嫌だ、私は可哀想な生い立ちのせいで狂ってしまっただけだ、許してほしい、
なんて言えば彼はきっと深夜美にさえ赦しを与えようとするだろう。
路加たちも複雑そうではあるが、楼夫を悪の道に走らせてしまった罪悪感があるらしく、黙ってこちらを見守っていた。
真祈に関して言えば、投降した者への処分という判断はするだろうが、
怒りに任せて他者を受け入れないということは有り得ない。
今もこの血の中で響いている。父の罵声、母の寝物語、自身が漏らした嗚咽。
深夜美を復讐へと駆り立てる呼び声。
黙っている深夜美の隣で、楼夫がぽつりぽつりと語り始めた。
「貴方たちが赦しを美徳とするように、赦さない強さというものもあるのですよ。
復讐に身を焦がしながら一点だけを見つめ、
手を取り合えたかもしれない出会いさえ薪にして突き進む、悪の強さ。
その姿を見て、守りたいと思ったのです。
私の夢は、深夜美様と共に戦うこと」
鎮神たちは神妙な面持ちでそれを聴いていた。
しかしすぐに、その表情は驚愕に染まっていく。
弾力のあるものが深夜美の口の中で爆ぜて、迸る熱が喉を、臓腑を、原始の記憶を潤す。
これこそが、闇より生まれた命の本来の姿。
呪術を操る旧支配者の復活。
鎮神の問いにつらつらと答えてやる代わりに、深夜美は背後から楼夫に寄り縋り、その首筋に噛みついていた。
頸動脈に歯を突き刺し、溢れる血を飲み下す。
血と共に酸素を失っていき、楼夫はみるみる蒼白となり意識も虚ろになる。
深夜美が楼夫を盾にしている状態の上に、敵が敵を傷つけるという異常事態が故に、鎮神たちは手出し出来ないでいた。
「これより始まるは私たちの新たなるステージだ。
私を『恨んで』死んでいけ、楼夫」
外宇宙の色に染まった黒い海原に、次第に起伏が生まれてくる。
波が激しくなってもそこに映る星辰がぼやけないのは、その異常性を物語っている。
傍らの灯台はヒビシュの隊列に堅固に守らせている。
もう遊軍を仕向けておく必要も無い。
九十八人の生ける屍と、忠実な手下、そして自身。
深夜美の持つ総力がこの場に集結していた。
置物のようにおとなしかったヒビシュたちの呼気が俄かに荒くなる。
振り向くと、港に鎮神、真祈、路加、団、与半が来ていた。
それぞれ得物を手に深夜美を見上げている。
「帝雨荼が浮上してくるまで、まだ少し時間ありますよね?
深夜美さん、荒津さん。
もう一度、お話しさせてもらえませんか」
つかつかと歩んできた鎮神が何をするかと思いきや、そんなのんきなことを申し込んでくる。
『絶対悪』を愚弄しているのか、と一喝しながら攻撃してやりたかった。
しかし、少年の真っ直ぐな視線を浴びていると、そんなことが馬鹿らしくなってきて――見ていられなくて、深夜美は適当にあしらう。
「勝手にすればいい」
「どうも。
深夜美さんはおれたちに目的とか過去のことを教えてくれましたよね。
それで、恥ずかしながらついさっき、荒津さんが置かれてた状況のこと、知りました。
二人とも、世界を呪うには十分すぎる想いをしてきたんですよね。
貴方たちのやったことは酷いと思います。
だけど、ちゃんと話しておきたかった。
おれの目的は、大事な人と生き抜くこと。
二人の本当の夢を、最後に聞かせてください」
本当に『絶対悪』としてこの決戦に挑むのか――鎮神はその最後の確認をしているようだった。
やっぱり嫌だ、私は可哀想な生い立ちのせいで狂ってしまっただけだ、許してほしい、
なんて言えば彼はきっと深夜美にさえ赦しを与えようとするだろう。
路加たちも複雑そうではあるが、楼夫を悪の道に走らせてしまった罪悪感があるらしく、黙ってこちらを見守っていた。
真祈に関して言えば、投降した者への処分という判断はするだろうが、
怒りに任せて他者を受け入れないということは有り得ない。
今もこの血の中で響いている。父の罵声、母の寝物語、自身が漏らした嗚咽。
深夜美を復讐へと駆り立てる呼び声。
黙っている深夜美の隣で、楼夫がぽつりぽつりと語り始めた。
「貴方たちが赦しを美徳とするように、赦さない強さというものもあるのですよ。
復讐に身を焦がしながら一点だけを見つめ、
手を取り合えたかもしれない出会いさえ薪にして突き進む、悪の強さ。
その姿を見て、守りたいと思ったのです。
私の夢は、深夜美様と共に戦うこと」
鎮神たちは神妙な面持ちでそれを聴いていた。
しかしすぐに、その表情は驚愕に染まっていく。
弾力のあるものが深夜美の口の中で爆ぜて、迸る熱が喉を、臓腑を、原始の記憶を潤す。
これこそが、闇より生まれた命の本来の姿。
呪術を操る旧支配者の復活。
鎮神の問いにつらつらと答えてやる代わりに、深夜美は背後から楼夫に寄り縋り、その首筋に噛みついていた。
頸動脈に歯を突き刺し、溢れる血を飲み下す。
血と共に酸素を失っていき、楼夫はみるみる蒼白となり意識も虚ろになる。
深夜美が楼夫を盾にしている状態の上に、敵が敵を傷つけるという異常事態が故に、鎮神たちは手出し出来ないでいた。
「これより始まるは私たちの新たなるステージだ。
私を『恨んで』死んでいけ、楼夫」
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