偽聖女は、はやく逃げ出したい

彗星

文字の大きさ
3 / 14

03

しおりを挟む
よし、とにかく早くここから出ていこう。

そうと決まれば、まず見た目を変えよう。今までは変える方法もわからないからそのままで居たけど、今日の私はひと味違う。

使用人さんの会話を盗み聞きして知った、カコの実とやらを手に入れたのだ。
「そういえば、カロンの話聞いた?カコの実で髪の毛染めちゃったみたいよ」「えっ!あれ全然落ちないのに」「カリの実と間違えたらしいわ。たしかに似てるものねぇ」「デートだからおしゃれするって言ってたものねぇ」
ちなみに城の庭を散歩しているときに拝借した。それは許してほしい。つまり、これで髪の色が変えられるってことだ。どうやって使うかは正直分からない。


「…とりあえずー…やってみるか」


とりあえず、実を小さく千切って、絞った。コップにどろっとした果汁が貯まっていく。この状態で髪に塗ればいいのかな。コップをお風呂場に持っていって、服も全部脱いでしまう。果汁を手のひらに乗せてみて、髪にペタペタとつけてみる。これでいいのか、不安になってきたけど、後には戻れない。たしか、カラー剤は塗ってから、少し時間を置いてた気がする。時間が経ってから、シャワーで流してみた。流し切ってから、鏡を見てみると、髪色が茶色になっていた。


「やった!いけてた…!」


あとは、これで髪を切れば、かなり見た目は変わるはず。伸びた髪を切るのは勿体ないけど、背に腹は代えられない。ささっと体をふいて、服を着る。部屋にあった鋏を持って、ごみ箱の前に立つ。そこに髪を垂らしながら、鋏を入れた。ジャキンッ、ジャキンッ、髪を切り進めて、全体を顎近くまで短く切った。すごい頭が軽い気がする。鏡の前に立った。今までの姿とは、全然違っていた。茶色のショートカットに、黒目の女性が鏡に映し出されている。

出ていくなら、変わった姿を見られていない、今だ。鋏を置いて、ごみ袋を縛る。切った髪を見られれば、変装していることがバレるかもしれない。部屋に唯一ある窓を開けた。下に誰もいないことを確認して、下の生垣にごみ袋を投げ、窓を閉めた。そして、扉の外から音がしないか耳をすませる。たぶん、今なら人がいない。そっと、扉を開ける。やっぱり、そこには誰もいなかった。

護衛の人たちは普段扉の外に立っているとかはないというのは、散歩のとき知り得た情報だ。基本的に使用人さんが来るとき以外とか、有事以外は、ここに近寄ることは禁じられているらしい。忍び足で部屋から出る。前に脱走した時、庭まで出る道は覚えている。その道を、足音を立てないように、速足で通る。早めにこの服装も変えないと。


誰にも見つかることなく、庭までたどり着いた。
庭から城壁がすぐ近くに見える。を面から出るわけにはいかない。使用人さんが使ってそうな裏口を探しに歩き始めた。

これだけ手薄だと、聖女様と呼ばれてたのも本当なのかなと思えてくる。建物に沿って、城壁を目指して歩く。城壁にほど近くまで着くと、人の話し声やカンッカンッという何かが当たる音がする。足音を立てないように、よりゆっくり歩く。庭の草に隠れながら、音の方を覗いた。

そこでは、ガルシア団長たちと同じように、耳と尻尾がある人たちが、木刀で戦っていた。端っこで話している人の中に、白い猫の人もいる。第二騎士団の人が訓練しているのだろうか。たぶん一番見つかったらダメな人たちだ。なるべく離れたところを通るように、庭の植物に隠れながら、訓練場らしきところを迂回する。

迂回した先に、扉があった。使用人さんが出入りしている。あそこからなら、出られるかもしれない。周りを見回して、誰もいないことを確認してから、扉に走った。急いで扉を開ける。そこからはまだ道が続いていて、すこし先の門には、騎士らしき人が立っていた。ぎくり、と身がすくむ。外を向いて立っているから、こちらにはまだ気づいていない。走って通れば、たぶん大丈夫。ふぅ、息を整えて、門に向かって走り出した。


「あっ、おい!」


門を通り過ぎると、背中に声がかけられた。けど、それを無視して、そのまま走り続けた。履きなれていない靴で、足がずきずきと痛む。それでも、街が見える方向に向かって、走り続けた。













街が近づいてきて、走る足を緩めた。後ろを見ても、誰も追ってきてはいない。やっと、あの部屋から出られたんだ。


「よかった、」


初めて見る街を見回す。屋台のような店が立ち並び、人々が行き交う。たくさんの生活している人がいた。それに、ほっとした。あの部屋にいると、自分ひとりしかいないように思えていたけど、ちゃんと生活している人がいることに、息を吐いた。

さて、それで、これからどうしよう。

部屋を出た時はまだ日が高かったのに、もう暗くなり始めていた。立ち話をしていた人たちも、帰ろうとしていたのか、それぞれの方向に歩き出している。ちらほらと店も、閉め始めている。思った以上に、城から出るのに時間がかかってしまったらしい。お店の人とかに行く宛てがない人が住めるところがないのかとか、孤児院みたいなところはないのかとか、聞こうと思っていたけれど、これじゃあ聞けそうにない。夜に空いているのであれば、お酒を提供するところだろう。16歳の私には、入れないだろうし、すこし怖い。


「どうしようかな……」


とりあえず今日は野宿になるかなぁ。繁華街のような場所とは、反対方向に歩き始めた。だんだんと街灯が灯り始める。住宅街に見えるところが見え始めた。時々足早に歩く人がいるだけで、そこにはもう、ほとんど人がいなかった。アパートや一軒家には明かりが灯っている。

さくさく進めていた足を止めた。


「大丈夫か?」


後ろから聞こえた声に、勢いよく振り返った。そこには、シンと呼ばれていた銀色の人が立っていた。移送で、顔を伏せる。まずい、顔を見られたかもしれない。


「おい、大丈夫か?」
「大丈夫、です……」


声を掛けながら、私にだんだんと近づいてくる。じりじりと後ろに下がる。ざり、足元で音が鳴る。私のすぐ前に、黒い靴が見えた。


「子どもが夜に何をしてるんだ?もう暗くなるから、帰った方がいいぞ」


声音に嫌悪の感情はなく、ただ私を心配しているように聞こえた。おそるおそる顔を上げて、顔を伺った。それでも、きょとんとした顔をしていて、首をかしげている。


「どうした?」


もしかして、気づいていない?

黒髪黒目としか認識していないのかもしれない。だから、顔を見ても誰か分からないんだ。髪型を変えていて良かった。内心、ほっと息をついた。


「迷子か?」
「あー……そんな、感じです」
「そうか、それなら家まで送ろう。家はどこだ?」
「いえ、あの……」


まずい、家なんて聞かれてもどこにもない。視線を地面に落として、彷徨わせる。このままやっぱりいいやとかって、どこかに行ってくれないかな…。いや、行くわけないよね…。
心配そうに私を見ていた表情に、だんだんと訝しげに眉根が寄っていく。帯刀している剣に手をかける。


「…………もしかして、家の者に置いて行かれたのか?」
「えっ……」


さきほどの訝しげな表情が、心配そうな表情に戻っていた。この人の中で、どんな考えの変化があったかは分からない。でも、その表情に、付け入るなら今しかないと思った。


「はい!そうなんです…!」


そうか、と顎に手を当て、考え込み始めた。思ったより元気に返事をしてしまったけど、勘違いしてくれたのならラッキーだ。無事になんとか誤魔化せたことにほっとした。これ、このまま行かせてくれないかな。考え終わったのか、私の方に顔を上げた。


「じゃあ、着いてくるか?」
「……どこに、ですか?」
「俺が暮らしている第二騎士団の騎士寮だ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

 怒らせてはいけない人々 ~雉も鳴かずば撃たれまいに~

美袋和仁
恋愛
 ある夜、一人の少女が婚約を解消された。根も葉もない噂による冤罪だが、事を荒立てたくない彼女は従容として婚約解消される。  しかしその背後で爆音が轟き、一人の男性が姿を見せた。彼は少女の父親。  怒らせてはならない人々に繋がる少女の婚約解消が、思わぬ展開を導きだす。  なんとなくの一気書き。御笑覧下さると幸いです。

処理中です...