兄は、不倫女の義姉に黙って家を出て行った。彼女は今も兄を待ち続けているだろう。

兄は、不倫女の義姉に黙って家を出て行った。彼女は今も兄を待ち続けているだろう。

結婚というのは一生に一度のもの。

だから、きちんと私を大事にしてくれるだろう人を選んだつもりだったの。

私が選んだエランという侯爵令息は、姿形は綺麗だし中身も良かったのだけど、不倫していた。


相手は私の兄の妻・アンネ。

なんで分かったかというと、エランがアンネの香水と同じ匂いを纏っていたから。
もしや……と思って、

「あなた、アンネと同じ香りがするわよ。まさか、不倫していないでしょうね」

とエランに訊いてみたの。
エランは嘘が苦手な人だから、すぐ「ごめんなさい」と謝ってきた。

アンネは綺麗で色気のある人。
だから、その色気にあてられてしまったのだろうね。


でも、不倫は不倫だ。


エランはすぐに謝ってくれたけど、私は許せなかったので、

「エラン。あなたとは離婚よ」
「分かった」

エランは何も言わずに離婚に同意したの。

私は兄に不倫のこと、エランと離婚することを話した。

兄もなんとなく、アンネが不倫していると勘付いていたんだそうで。

離婚するのかなと思っていたけど、兄はしなかった。

でも、兄は少しずつ少しずつ家を出る準備をし始めたんだって。

アンネが外出している時に荷物を纏めたりして、絶対に気付かれないように。


そして、準備が整い、アンネが外出した時を狙って家を出たらしい。

私は離婚して実家に戻ってきていたから、突然、兄が家にやって来てびっくりした。

事情を聞いて、なるほど、これが兄の復讐かと納得した。

そして、兄は、

「アンネが来ても、僕はいないと言ってほしい」

と私や両親、使用人たちに話した。

実際にアンネが実家に来たのだが、「兄のことは知らない」と話したところ、

「あの人がここに来たら、早く帰ってきてほしいと伝えてください」

と言い残して帰って行ったの。

アンネは今も兄を待ち続けているのだろう。