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二章 水の都
カーナの懸念
しおりを挟む「……ようやくオークションの日取りがつかめたのね。しかし、闘技場って何かしら?」
「マキナさんも知らないんですか?」
「二十年くらいここにいるけど聞いたことないわね」
マキナさんて二十年もここで働いているんだ。一体何歳なのだろうか。
……うぅ。何だか寒気が。
マキナさんがこれ以上ないくらいの笑顔で私を見つめていた。
ほんとそう言うところだけ鋭いなこの姉妹は。
下手したら恐怖で失神しているレベルですよ。まったく。
「あと一週間以内に闘技場を見つけないとっすね。誰か知っていそうな人に心当たりないっすか?」
「そうねぇ。ギルド長なら何か知っているかもしれないけど、今いないのよね」
「いないとは?」
「言葉通りよ。どこに行ったかまるで分らないの。時々いつの間にか姿が見えなくなることがあるんだけどね。仕事に関しては副ギルド長と私でなんとかなりからいいんだけど、せめてどこに行ったかだけでも教えてほしいといつも言ってるのよ」
流れるようにギルド長に対する愚痴が飛び出してきた。
よっぽど言いたいことをため込んでいるみたいだ。もしかしたらギルド長もこのお小言を聞きたくないから帰ってこないのでは?
そんなことを思ってしまう。
「それにしてもこの情報を広めないでほしいって、何か懸念でもあるの?」
「ただの保険っすよ。ちょっと気がかりな事があって……」
「ナトリちゃんには教えてもいいと思うけど」
「なっちゃんたちはダメっすね。さすがにこれ以上は危ないっす」
なるほど。戦力的な面で今回はダメってことね。
あれ? そしたら私もダメじゃない? つまり私も今回は……。
「リリィは当然参加っすよ」
「どうしてよ? てか勝手に人の心を読まないでっていつも言ってるでしょ」
「顔に全部書いてあるっていつも言ってるっすよ。言わずもがなリリィは最高戦力っすからね。おさぼりは許さないっす」
「ちょっと。勝手に最高戦力扱いしないでよ。むしろ戦力外じゃない」
「いい加減あほな事言わないでほしいっす。一番近くに何がいるかわかってるんすか? 聖獣と幻獣っすよ。これを従魔にしている人が戦力外とか意味わからないっす。あと、リリィはこの街に来てから剣の稽古サボってるのでなんとしても強制参加っすから」
ど、どうしてそれを!?
バレていないと思ったのに、ていうか忘れているものだと思っていたのに。
しかし、ここまで言われて否定するほど馬鹿でもないので、今回は仕方なく参加しますよ。仕方なくなんだからねっ。私が首突っ込んでるんじゃないんだからっ。
「それで、気がかりな事って?」
「それなんすけど、不思議に思わなかったっすか? ギルドの諜報部隊が出張っているのに何一つ情報が集まらなかったことに」
「それは……言われてみればそうね。そんなこともあるかと気にしていなかったけど」
「いや、ギルドの諜報部隊って最精鋭で構成されてるんすよ。それこそ全員がAランクオーバーの冒険者レベルで。しかも本部の諜報部隊っすよ。それなのに何も成果がないってことは普通ありえないんすよ」
「だからなんでそんなこと知っているのよ……」
「つまり何が言いたいかというと、誰かが意図的に情報操作をしているかもしれないということっす。もしくは裏組織と通じている人がいるかって話っすね」
「なるほど。ギルドに裏切り者ね……」
それはまずいのでは。
世界で唯一の独立した組織である冒険者ギルドの中に人身売買に関係している人間がいるなんて。
ましてやそれが本部の人間なんてもってのほかだ
「そんなこと考えたくないけど、実際にそういう可能性があるのよね。わかったわ。
諜報部の何人かに話してギルド職員の監視をするわ。もし裏切り者がいるのならこちらで対処するから。闘技場については任せてもいいかしら?」
「ちょっと難しいっすけど、何とかして見せるっすよ」
「やるだけやってみます」
「ありがとう、二人とも。期限は一週間。できるだけ最善を尽くしましょう」
こうしてマキナさんとの話は終わった。
なんだか話が大きくなってきたような。こんなはずじゃなかったのにどうして。
なんて考えても今さらか。もう、なるようになれ!
気持ちは前向きに、心に不安を抱えながら私たちはギルドを出た。
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