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二章 水の都
桃色美少女
しおりを挟む誰でもいいのでお怒りの美少女を静める方法を教えてください。
小さな女の子とは思えないほどの圧力を感じます。それに魔力も。
「どうするっすか。かなりお怒りみたいっすよ。あの人たちは何をやったんだか」
「どどど、どうするって誤解を解くしかないじゃない。カーナそういうの得意でしょ」
「自分が得意なのは商人とか貴族との交渉で、怒っている女の子の宥め方なんてなんて知らないっすよ。こういうのはリリィにお任せするっす」
「人に押し付けるんじゃないわよ!」
「最初に押し付けようとしたのはリリィの方っすよ!」
「「……」」
いつもの流れでにらみ合いが始まってしまった。
こんな時でも平常運転なのはある意味肝が据わっていると思いたい。
なんせ桃色美少女の存在を忘れてしまっていたのだから。
「――あんたたち。あたしを前にして勝手に喧嘩し始めるなんていい度胸ね。そんなに死にたいのかしら」
なんで私の後ろに隠れるのよ。
カーナの方が身長高いんだから隠せるわけないじゃない。
ちょっと。押さないでよ。ていうか私を盾にするな!
「え、え~と……一回、落ち着いてお話しませんか? ほ、ほら! もう夜も遅いですし、ご飯でも一緒に……」
「人間が作ったご飯なんかあたしが食べると思って? そんなもので懐柔できると思ったら大間違いなのよ! 第一、女連れてくればあたしが隙をみせるとでも思われていることに腹が立つわ」
「ご、誤解です! 私たちはたまたまここを通りかかっただけです! あなたをどうこうする気はありません!」
「そんなもの信じるわけないでしょ。今の私は機嫌が悪いの。だからさっさと殺してあげるわ」
桃色美少女が両手に魔法を生み出す。明らかに少女が使う魔法じゃない。
よく見ると背中にうっすらと何かあるような……。あれは……何かしら……羽?
「カーナ、あれって……」
「精霊……いやそれならもっと小さいはず……でも……」
カーナも気づいたようだ。
うっすらとしか見えないからよく目を凝らさないといけない。案外私たちも余裕があるわね。
「ごちゃごちゃと何言ってるか知らないけど、もういいわ。消えなさい!」
桃色美少女が魔法を放ってきた。
見たこともない魔法なのでどうしよう。間に合わないので咄嗟に。
「ブラウ!」
「わん!」
私たちの前にブラウが立ち、障壁を張る。
聖獣特有の力らしい。『聖獣壁』という聖なる障壁を作り、大体の攻撃は防げるみたい。
龍と呼ばれる魔物や魔王クラスの攻撃になると耐えきれないとミラノさんが言っていた。まぁ、そんな攻撃を受けることなんてそうそうないので防御は完璧だろう。
他にも攻撃に使える能力もあるみたい。それはまた今度。
改めて聖獣ってすごいわね。契約者の能力を底上げするだけでなく自分もかなり強いのだから。ブラウがいてくれてよかったと本当に思う。
「は? あたしの魔法を防ぐとかなんなの! ありえないわ……って、そこの狼、もしかして聖獣じゃない! どうしてこんなところにいるのよ!」
「えっと……一応、私が契約者なんですけど……」
「フェンリルと契約した人間?」
そう言うと私の近くに飛んできて、何やら観察している。
そ、そんなに見ても何もないですよ……? 私、普通の女の子ですよ……。
「いやいや、リリィはどう考えても普通の女の子なわけないっすよ」
「ちょっと黙ってなさい」
「よく見るとあんた……珍しい魔力持ってるわね。キラキラしてるというかなんというか。とにかく悪人には見えないじゃない。それなら最初にそう言いなさいよね!」
「いや、話を聞いてくれなかったのはそっちじゃ……」
「何か言ったかしら?」
「……なんでもありません」
すっごい睨んでくるわね。今の美少女のする顔じゃなかったよ。
美少女が睨むとこんなに怖いんですね。私はまた一つ学びましたよ、ミーシアさん。
「そんなことより、誤解も解けた感じ見たいっすね。とりあえずご飯にするっす。桃色美少女もご一緒にどうっすか。いろいろと聞きたいこともあるっすからね」
「桃色美少女って何よ。確かにあたしは美少女だけど、ちゃんと『ロゼ』って名前があるのよ! 特別にそう呼ぶことを許可してあげるわ!」
「じゃあ、ろぜっちっすね。自分はカーナっす。よろしくっすよ」
「ろぜっちってなによ! 可愛くないじゃない! もっとあたしにふさわしく呼びなさいよ!」
カーナはそれを無視して料理を始めてしまった。
相変わらず変なところでマイペースなんだから。
「私はリリナよ。よろしくね、ロゼちゃん。この子たちは私の従魔で、ルナとブラウよ」
「……あんた、何者なの? ファントムキャットとフェンリルを従魔にしている人間なんて見たことないわよ」
「私は普通の女の子です。だから何も気にしないでね」
にっこりと笑顔で言う。これだけは勘違いしてほしくないからね!
こら、そこっ。鼻で笑うな。やれやれみたいな感じで肩を竦めるな
「ふ~ん。まあいいわ。あんたたちは私の敵じゃないみたいだし、少しは仲良くしてあげるわ。光栄に思いなさい!」
そう言って胸を張るロゼちゃん。
何だろう、この可愛い生き物は。さっきまであんなに怖かったのに。
人間の感情って不思議ですね。
「ご飯できたっすよー」
とにかく私たちは、ご飯を食べながらゆっくりとロゼちゃんの話を聞くことにした。
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