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スパルタ再び
しおりを挟む「――そういうわけだから、アリス強化訓練のレベルを上げるわよ!」
リゾートを堪能し帰宅した途端、ツバキ先生が唐突にそんなことを言った。
いや、急に何事!? そういうわけって、どういう分けよ!
そんな感情が顔に出てしまったのだろう、先生がニコリと笑う。
「随分と嬉しそうね。特訓のし甲斐があるわ」
「いえ、嬉しくもなんともないです。そろそろ街に帰ろうと思っていたのですけど」
「まだ何も終わってないのに帰らせるわけないでしょ? 延長よ」
「勝手に延長しないでもらえます? いい加減、探索者の仕事もしないとなんですけど」
「そんなもの、先日ダンジョンに潜ったのだからしたじゃない。ミルフィが残していた記録映像も見たし、アリスの課題もまだまだたくさんあるし、最低でもそれが終わるまでは帰れると思わないことね」
「そんなぁ……」
記録映像って、いつの間にそんなものを……。
せっかく海でゆっくりして、心の保養をして、休暇を満喫したから帰ろうと思ったのに。
……考えてみれば、特にゆっくりもしていないし、保養もできていないし、休暇を満喫したかと言われてみれば、特訓特訓の毎日でそんなこともないわね。
私の休暇とは一体……――ハッ! まだ私は負けていない! 帰る理由を見つけたわ!
「先生! ケイトはそろそろ限界です。ケイトと一緒に辺境に帰らなくてはいけません」
「ケイトなら、とっくに帰らせたわよ」
「――え?」
「辺境なんて転移すればすぐじゃない。あの子も楽に帰れて喜んでいたわよ」
「そんな……ケイトの裏切り者ぉぉぉぉ」
そんなこんなで、ツバキ先生のスパルタ訓練が再び幕を開けたのだった。
◇◇◇
――辺境の街、探索者ギルド。
休暇を満喫し、艶々に輝いているケイトが受付に座っていた。
完全に英気を養い、どんな激務もどんとこい、と言わんばかりの顔つき。
同僚の受付嬢が少し羨ましそうに見つめながらも、少し引いていた。
「あれ、ケイトさん。お久しぶりですね。休暇はもう終わりですか?」
そんなケイトの下へ、ラフな恰好をした金髪の青年エドワードがやってきた。
彼は、アリスが「呪詛洞穴」に潜っている間に、辺境から離れた街に出現したダンジョンを攻略したことで、遂に探索者最高位の虹ランクへ到達した。
彼の名声は一気に世界中へ広まり、人柄もあってか元々あった人気がさらに鰻登り。
彼に会いに、商人や国の使者がひっきりなしに辺境へ訪れる。
彼の生ではないが、最近受付嬢たちの仕事を増やした原因でもある。
「ええ、十分休ませてもらったわ。アリスのおかげね。どこかの誰かさんが私たちの仕事を無意識に増やしたせいだけど」
「はは、申し訳ないとは思っていますよ。ご迷惑をおかけしてます。ところでアリスを見ないのだけど、彼女はどこに?」
「アリスならまだ帰ってこないわよ。数年ぶりの帰省だもの。ゆっくりさせてあげて」
「そうですか……。アリスのダンジョン攻略祝いをしようと思ったんですけどね。そういうことならまた今度にします」
そう言うと、エドワードは踵を返し受付から離れていく。
ふと、思い出したかのように立ち止まり、またケイトの前に戻ってきた。
そしてケイトに顔を寄せて、小声で話し始めた。
「そう言えば、聞きました? 新しいダンジョンの話」
「いいえ。どこかに発生したの?」
「それが……『呪詛洞穴』の跡地にまた発生したみたいなんです」
「また? 同じ場所にダンジョンは発生しないって話じゃなかった?」
「ええ。ですが、間違いないそうです。今国が極秘に調査中らしいですよ」
「そう。また厄介なダンジョンじゃなければいいけど……」
ケイトは、また何か起こるのではないかと予感した。
その予感は、悪い方向へと的中してしまう。
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