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閑話
しおりを挟む――アラキスタ王国、王城。
アラキスタ王城のとある一室に、王族と事情を知る大臣や従者たちが集い、事の成り行きを見守っていた。
室内にある、五人は寝れる程大きなベッドに横たわる一人の女性。そのベッドの傍らで深紅の宝石が嵌めこまれたネックレスを握りしめ、祈るように目を伏せる少女の姿。
まさに、マリーの姉である第一王女の解呪が行われようとしていた。
神妙な空気の中、マリーは大きく息を吐き呟く。
「……いきます」
ネックレスに魔力を込め、解呪を試みる。
深紅の宝石は赤い光を放ち、眠る第一王女の体を包み込んでいく。
すると、第一王女の心臓付近から黒い靄のような何かが溢れだしてきた。
よく目を凝らして見ると、その靄は魔法言語で構成されているようで、見る人が見ればそれがとても複雑で高度なものだとわかる。
そんな魔法を使える人物、ましてや呪詛として構築できるほどの技量を持つ魔法使いなんて数えるほどしかいない。
様子を見守っていた内の、ローブを纏った数人が憤怒の面持ちを浮かべ部屋を退出していく。
赤い光が徐々に黒い靄をかき消していくと、眠る王女の様子が変化し始める。
青白く生気のない顔が徐々に赤みを帯びていき、途切れ途切れだった呼吸が安定していく。
胸元が上下する動きを確認し、正常な呼吸に戻ったことがわかると、誰もが安堵の声を零す。
そして、黒い靄を消し去ると同時に赤い光が消えると、眠っていたはずの王女が目を覚ました。
「お姉様っ!?」
「……あら、マリー……? 私は……確か、庭でお茶をしていたはず、だけど……。あれ、どうして、かしら……? 体が、うまく動かない、わね……」
「あぁ……よかった……本当に、良かったです……」
堪え切れず泣き崩れるマリーを、不思議そうに眺める第一王女、エリシア。
軋む体で何とか起き上がり、室内を見渡すと、彼女の両親や王家に使える大臣らも皆涙を流している。
状況が理解できずにいるが、エリシアは泣きじゃくるマリーの頭を撫で微笑みかけた。
以前と変わらないその笑顔を見て、マリーは泣きながらも笑みを浮かべる。
その日、数ヶ月に渡って王家を悩ませていた問題が解決した。
さらに、エリシアに呪詛を掛けた犯人も見つかり、捉えることに成功。
第一王女呪殺未遂は幕を閉じたのだった。
◇◇◇
「――なんて書いてあったんだい?」
「お姉さんの呪詛はちゃんと解けたって。犯人も捕まったみたいだし、一件落着みたい」
「それは朗報だね。命を懸けたかいがあったというものだよ。それにしても、王族の美人姉妹かぁ……一度、並んでいるところを見ておきたいね」
ミルフィが何かを想像して笑っている。いつものやらしい笑みだ。
こういうときは触れない近寄らないを鉄則に。
マリーさんから届いた手紙はもう一枚あった。
「ん? どういうこと?」
「何かあったのかい?」
「……捕まえた犯人がよくわからないことを言ってるみたい」
マリーさんの話によると、犯人は宮廷魔法士の副長で、高名な魔法使いの弟子だった人らしい。
その人の研究室に、呪詛の研究をしていた痕跡が残っていたみたいで、それについて問い質したのだが、何も知らないの一点張り。
呪詛の研究をしていない上、呪いに関わったことがないと言い張っているそう。
最初は嘘を付いていると思っていたが、次第に分からなくなってしまったようだ。
魔力の残滓も筆跡も全て当人のはずなのに、なぜかその記憶だけ切り取られたかのようになくなっている。
「うーん……それは確かにおかしな話だね。何か面倒なことになりそうな予感がするよ」
「えぇ……。ま、まあ、私が関わるとは決まったわけじゃないし、とにかくしばらくはダラっと過ごしましょう」
今回の報酬でもらった金貨で、しばらくはのんびり平和に過ごす予定だ。
探索者業も少しお休み。面倒事とはおさらばな生活をするのだ!
しかし、そう思っていた私の心とは裏腹に、どうにも私は面倒事に関わってしまうみたいだった――。
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