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嫌な予感
しおりを挟む四階層に入ってから、私たちは休む暇もなく戦い続けていた。
マリーさんたちはずっと魔法を撃ち続け、私は転身を解除する暇もない。
魔力が枯渇しかける度に、回復薬を飲んで体を酷使する。
しかし、それもピークを迎えて始めてきた。
回復薬の数にも限度があるし、休息を取らなければ精神的な疲労は回復しない。
いい加減休みを取らないと、それこそまずいことになる。
そうは言っても、”侵略者”が足を止めてくれるわけではない。
目の前の障害を排除しない限り、私たちに休息が訪れることはない!
「――もう、むりっ!!」
「アリス、泣き言は後だよ。攻撃の手を休めてはいけない。今は耐える時だ」
「そんなこと言ったって、これ以上は無理よ! ミルフィ、何かないの!?」
ミルフィは氷槍で”侵略者”を牽制しつつ、周囲を見渡した。
ミルフィ真下にいるマリーさんは、疲労が祟り顔面蒼白で今にも倒れそうになっている。
その横でメイドのアリーさんも、荒い息を吐いて膝に手をつき、どうにか呼吸を整えようとしていた。
二人の状態がかなり危ない。それでも視線は常に前を向いている。戦う意志だけは潰えていないようだ。
……なんて強い人たちだろう。
「そうだね……アリス、スリーカウントでこっちに戻っておいで」
「へ? いきなり、ちょ――」
「……3、2、1」
急に無茶なことをっ。
私はミルフィの声に意識を集中させ、カウントと同時に目の前のグールに一撃入れ、ミルフィの下へと戻った。
すると、通路を塞ぐように氷の壁が出現し、”侵略者”たちの道を阻む。
私たちの立っている場所に繋がる通路は三つ。その通路を全て塞ぐことで、”侵略者”の襲撃が止んだ。
大きく息を吐き、私はその場に座り込む。
「はぁぁぁ……〈解除〉。ようやく一息付けるわね……」
「単なる時間稼ぎにしかならないよ。壁の向こうには大量の”侵略者”が集まるだろうね。まあ、多少は休憩できるかな」
「マリーさんたちも、休んでください。無理し過ぎちゃダメですよ」
「い、いえ……だ、大丈夫……です、から……」
「二人は少し危険だね。初めてのダンジョン攻略で、ここまで激しい戦闘をしたんだ。無理もないけど、できれば頑張ってほしい。君たちの目的のためにも、ね」
「わかって、います……私が、望んだことです。弱音を吐いていられません」
……なんか、申し訳ないです。
わたしなんて、弱音吐いてばっかりで。
「まあ、対策を考えないことには同じことの繰り返しになるからね。いい加減どうにかしようか」
「何か考えてるの?」
「まあ、あるにはあるかな」
「それなら、もったいぶらないで早く言いなさいよ」
「あの状況ではできないし、成功するかどうかも分からない賭けだからね。できるだけ万全な状態でやりたかったのさ。王女様、浄化の魔法は使えるかな?」
アリーさんに介抱されている王女様へ、ミルフィが訊ねる。
戸惑いながらも、マリーさんは答えた。
「え、ええ……浄化の魔法でしたら、個人的に訓練していましたので、それなりに……」
「うん、その様子なら問題はなさそうだ。それじゃ、とっておきの方法を試してみようか」
そう言ってニヤリと笑うミルフィに、私はとても嫌な予感がしたのだった。
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皆さんのおかげです。
本当にありがとうございます🙇💕
これからもよろしくお願いします。
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