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呪詛洞穴

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「あら、お友達? どこかへ行くの?」

 数日後、諸々の準備を済ませ、王女様とメイドさんを連れてギルドへとやってきた。
 受付のカウンターに向かうと、ケイトがいつもの調子で訊ねてくる。

「お友達というか、依頼主というか……。まあ、何でもいいわね。それより、ダンジョンに行こうと思うんだけど」

「……どこの?」

「南にある中級ダンジョン。マリーさんがそこに用があるらしくて」

「そう。……私の言ったこと、忘れてないわよね?」

 あれ以来、ダンジョンに行くと言うと、ケイトはすごく不機嫌になる。
 私をひとりにすると無茶するのでは、と疑われているみたいだ。
 別に無茶なんてしないし、ミルフィもいるから厳密にはひとりってわけでもないし。
 それでも、なぜかケイトは私がダンジョンへ行くことを良しとしない。
 少し過保護すぎないかしら……。

「もちろん、忘れてないわ。無茶はしないし、命大事に。でしょ? 子供じゃないんだから」

「それでもお姉ちゃんは心配なのですっ。それに中級ダンジョン、でしょ……。本当に、大丈夫なのね?」

「もう、前の私じゃない。強くなったんだから。ちゃんと帰ってくるわ。美味しいパンケーキでも作って待ってなさい」



 ◇◇◇


 目的のダンジョンでの依頼を数件受注し、私たちは馬車に乗って移動を開始した。
 確か南の中級ダンジョンは、馬車で三時間ほど。
 以前はよく盗賊に襲われるなんて話を聞いたが、最近ではめっきり見なくなった。
 エドワードという金ランク冒険者の出現により、盗賊たちが拠点を移したという話だ。
 名前だけで盗賊を追い払うとか、金ランクって……。

「王国の辺境と聞いていましたが、殊の外治安がいいのですね」

 街道を行きかう馬車を眺めながら、メイドさんが口にした。

「辺境は、王都の次に栄えている都市ですよ。アリー、あなたも少しは国のことを学びなさい」

「いいえ。私は姫様にお仕えするために存在しているのです。姫様以外のことに時間を割くわけには参りません」

 と、メイドさん改め、アリーさんが誇らしげにそう言った。
 つまり、王女様関連以外では何もしないと言っているようなものだ。
 王女の専属侍女がそんなことでいいのだろうか。呆れ果てて溜息を吐く王女様に同情した。

「到着までにおさらいしておこう。アリス、ボクたちが今向かっているダンジョンはどんなところなのかな?」

「中級ダンジョン『呪詛洞穴』。一般的な洞窟型のダンジョンよ。出現する”侵略者《レイダー》”は動物タイプのスケルトンやゾンビが多いわ。攻撃を受けるとその身は呪詛に侵され、光属性の中級以上の魔法でなければ解呪できないみたい」

「光属性でしたらお任せを。未だ学生の身ではありますが、中級までは発動可能です」

「というわけで、多少は攻撃を受けても問題はないけど、ダメージが少ないに越したことはないでしょ。そして……」

「ええ。わかっています」

 王女様に視線を向けると、私の言わんとしていることを察し、王女様は神妙な顔つきで頷く。
 私たちの目的は、ダンジョンの攻略ではない。ダンジョンのどこかにあるアイテムを持ち帰ること。

「私たちは、ダンジョン内でひたすら宝箱を開封し、『呪詛返しのアミュレット』を見つけ出す。攻略は二の次。ボスなんかと戦っている時間はないからね」

 王女様のお姉さん、つまり第一王女が呪殺されるまであと数週間。
 二人が王都に帰るまでの時間を考えると、私たちがダンジョンで使える時間はたった三日。
 制限時間を気にしつつ、私たちは巨大なダンジョンの中で、一つのアイテムを見つけ出さなければならない。
 うん。ケイトに無茶しないと言った手前、早速約束を破るわけにはいかないのだが。
 ……とりあえず、心の中でケイトに謝っておこう。ごめんなさい。

「大丈夫だよ。なんてったってボクがいるんだからね。運は君たちに味方してくれるはずさ」

 ミルフィが自信満々でそう言い切る。
 何を根拠にそんなことが言えるのか、不思議でならない。
 だが、そのおかげで過度に緊張していた私たちの雰囲気が、少し弛緩した気がした。
 大きく深呼吸し、心を落ち着かせる。大丈夫、私は強くなったんだから。

「ほら、もう見えてきたよ。いかにもな雰囲気を醸し出すダンジョンだね。……そうだね、ボクから一つアドバイスをしよう。せっかくの冒険なんだから、少しは楽しむと良いよ。
 ――さあ、行こうか!」



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