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お忍びの理由

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「……アラキスタ王国の、第二王女様……?」

「貴族令嬢か何かだとは思っていたけど、まさかお姫様だとは思わなかったよ」

 王女だと聞き、動揺する私を余所に、興味深く観察するミルフィ。
 ふんふん、と上から下までじっくりと眺めてはその都度頷いている。

「……リスが、言葉を……?」

「おっと。ボクはリスではなく、カーバンクルだよ。ほら、額の大きなルビーが特徴だよ。間違えないでね」

「これは、失礼しました」

「……そんなことより、マリエッタ姫様。お付きのメイドさんを止めなくてよろしいのですか?」

 姫は一度、未だに声を荒げているメイドさんに視線を送り、苦笑いを浮かべた。

「マリー、と呼んでください。今はお忍びの身。あまり公にはしたくありません。……それと、私の専属侍女がご迷惑を。ああなってしまっては、私の言葉も聞き入れてはくれません。少々手荒いお仕置きをしなくてはなりませんね」

 そう言うと、王女様は足音を立てずメイドさんの背後に回る。
 そして懐から扇子を取り出すと――。

「はぁっ――!!」

「――っ!?」

 思い切り、メイドさんの頭に叩きつけた。
 衝撃で意識を失ったメイドさんが倒れないよう支え、そっと床に横たえる。
 そして王女様が居住まいを正し、マスターへ深々と頭を下げた。

「ご迷惑をおかけしました。この子にはあとで言い聞かせておきますので」

「ああ、気にしなくていい。あんたのためを思っての行動だからね。余程、あんたのことが大事みたいだな」

「ええ。彼女にはいつも助けられてばかりで……。いい子ではあるのですが、少々熱くなりすぎるきらいが。申し訳ありませんが、この子を寝かせてあげてもよろしいですか?」

「ああ。アンナ、メイドの嬢ちゃんを裏に運んでやりな!」

 マスターに指示され、アンナさんが眠るメイドさんを肩に担ぎ、店の裏へと運んでいく。
 王女様はアンナさんに感謝を告げ、私たちのテーブルへと戻ってきた。

「お見苦しいものをお見せしました。できれば忘れていただけると……」

「あ、はい」

「いやぁ。実にいいものを見たよ。お姫様というのは、意外とアグレッシブなんだね。素晴らしい打撃だったよ」

「い、いえ。普段から、ああではなくて……その、やむを得ない場合のみ、と申しますか……」

 メイドさんにお見舞いした、扇子での一撃をミルフィに褒められ、しどろもどろになる。
 顔を赤くし、いやいやと手を振る姿は何とも可愛らしい。
 美少女補正とでも言うのだろうか。それとも、本物のお姫様だから? 

「それで、話とは一体何かな? 王女様ともあろう方が、ボクたちのような用があるとは思えないんだけどね」

「……見ての通り、私はお忍びでこの辺境の地にやってきました。護衛もなく侍女一人のみ。目的は、とあるダンジョンへ行くことです」

 ダンジョン。
 王女様から出る言葉ではない。
 よっぽどの何かがあると思った私は、どうにかして話を聞かない方法はないかと考える。
 しかし、なぜかミルフィが興味津々で、無視することはできないようだ。

「理由を聞こうか」

「……一切他言無用でお願いいたします。実は、姉が強力な呪詛をかけられてしまい、このままではあと数週間持つかどうか。姉を救うには、辺境にあるダンジョンで手に入る、聖なる素材が必要なのです。しかし、誰もが困難だと諦めてしまいました……。私は……姉を救いたいのですっ。どうか、お力をお貸しいただけないでしょうか……?」


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