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魔獣
しおりを挟むダンジョンの周辺では、濃密な魔素が漂っている。
魔素とは、いわゆる魔力の瘴気と言えるもので、魔力を持たない者にとっては害となる物質であると、研究成果が発表されていた。
魔素に晒されたものは、魔瘴という症状を発症する。魔瘴は、身体に様々な変化を及ぼし、最悪の場合、死に至ることもある。
しかし、極稀に魔瘴の影響で、身体組成が作り替えられてしまうことがある。
特に、魔力も知性もない獣に多く、魔素に犯された変異体を「魔獣」と呼ぶ。
”侵略者《レイダー》”とは違い、魔獣はダンジョンの外に出没する。
ダンジョンの外で生活する魔獣は、人里に降り、人的被害を及ぼすこともあるらしい。
そういった被害を減らすため、魔獣発見の報告があると、探索者ギルドが国よりも早く早急に対処することになる。
「……魔獣については、だいたいこんな感じかしら」
「なるほど。ダンジョンが放つ魔素によって、自然に生きる動物たちが影響されるわけか。魔力を持たない存在であれば魔瘴にかかる、と言ったね? それは、魔力というものを体が感知したことが無いゆえに、自身の体で魔力を消化できないから。というわけかい」
「確か、学者さんの研究にも似たようなことが書いてあったわ。基本的に、魔力と言うものは誰しもが生まれた時から持っていると言われている。その魔力を持っていないということは、自力で魔力を精製する力そのものが備わっていないとされ、他人よりも魔力に対する耐性に乏しい、だったかしら」
「実際のところ、根本的な問題については誰も論じていないみたいだね。――魔力とは何か。それが分かれば、なぜ魔力を持つ者と持たざる者が生まれるのか、わかるのではないかな。……四時の方向、三匹来てるよ」
ミルフィの言う通りに、ちらりと視線を向ける。
伝承の生き物である、ユニコーンのような角を生やした小さなウサギが三匹。
魔獣の特徴である、炎のような赤い眼と穢れた黒き体。
うーん……ウサギってもっと可愛い動物だったはずなのに。
艶の無い黒いだけの毛並みは、モフモフさの欠片もなく、私はもったいないと思った。
これも全て、ダンジョンの弊害。ダンジョンが動物たちを狂わせる最大の元凶なのである。
三匹のウサギは、私に狙いをつけ、立派な角を突き付けようと飛びかかってくる。
これまでの戦闘で学習したのか、三匹並んで同時に飛び、後方以外の逃げ場を奪う。
凶悪に映る三本の角が私に迫り――くるはずもなく、右端のウサギの側面を、振り上げた私の右足が捉えた。
並んだことによって、振り抜いた私の足が、三匹のウサギをまとめて蹴り飛ばす。
近くの樹に叩きつけられた衝撃で、グシャッという肉の潰れたような音が耳を汚す。
「う~……この感覚だけは、慣れない……」
「弱肉強食とは世界の理だ。やらなければ、こちらがやられてしまうからね。生きるためだと割り切るしかない。しかし、誤ってはいけないよ。その感覚で享楽に浸ってはダメだ。君の成長の糧となる彼らを悼む心を忘れないように。彼らも、憐れなダンジョンの被害者でもあるのだから」
御高説を垂れるように、ミルフィが言う。
こんなことが楽しいだなんて、私は思えない。
快楽殺人者になんてなるつもりなんてないし。……この場合、快楽殺兎者?
どっちでもいいか。とにかく! 私は命を奪うことを楽しむことはしません。
「そう。その気持ちは大切に。魔法少女が殺しを楽しむなんて、あってはならないことだからね。君はどちらかと言うと、正義の味方、なんだ」
「実感わかないけどね。――とりあえず、終わりかしら」
「そうだね。半径五百メートル圏内に生体反応は無しだ。この辺り一体の魔獣は片付いたはずだよ」
「そ。なら、討伐証明の角だけ持って帰りましょう。これでようやく私の探索者ランクも上がるかしら……」
これまでパーティーのお荷物だった私は、自力で依頼を達成したことはなく、いつまで経っても実績はつかなかった。
そのため、ずっと最下級のランクだったのだが、今回のことで多少の評価は得られるのではないかな。
私は期待に胸を膨らませ、数十本の角を持って街へと戻るのだった。
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