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イメトレ
しおりを挟む次の日、私は激しい筋肉痛に苛まれた。
起き上がるのも辛い。こんな状態で、昨日と同じ訓練を行うのは無理じゃないかな? そう思うよね!?
そう思い、あの鬼教官のような毛玉に抗議すると。
「――筋肉痛? それは良い事だ。君の体が今まさに、作り替えられているということだよ。しかし、そうなると今日の訓練は中止かな。回復している最中に、さらに負荷をかけるのは良くないからね。今日はとりあえず――瞑想でもしようか」
そう言って、私はケイトの家のリビングで、胡坐を掻いて床に座らされた。
ミルフィに言われるがまま、感情を抑制し、心を空っぽにする。
すると、徐々に周囲の音が遠くなっていく感覚。街の喧騒がどこかへ行ってしまった。
ミルフィの声だけが、私の耳を刺激する。
「ふむふむ。素晴らしい集中力だね。感情のコントロールも完璧だ。ここまで逸材だったとは思わなかったよ。
これから、とある武闘家の戦闘記録を君の意識に落とし込む。何度も、何度も何度も、同じ映像が頭の中で流れることだろう。それをイメージとして体に叩き込むんだ。イメトレは大事だよ。何事もイメージ次第さ。
……次の訓練時には、君も別人になっていることだろう」
……まるで洗脳だ。
暗示のような何かで私の意識を作り替えようとしているみたい。
しかし、悪い気がしないのは何故だろう。
私は、頭の中で繰り返し流れる、黒髪の女武闘家の戦闘を見続けた。
何時しか、その映像に移る武闘家の姿が、まるで自分と同じ姿になっていることに、私は気づかなかった。
◇◇◇
辺境の地で、アリスが訓練に勤しんでいた頃の王都。
とある大きな屋敷の一角で、激しい爆発音が鳴り響いた。
そこは魔法技能向上のために設けられた修練場。
魔法攻撃に超耐性のある鉱石で作られた壁は、生半可な魔法では傷を付けることすら叶わない。
しかし、爆発が起こったその壁を見てみると、小さな亀裂が走っていた。
その傷を作り出した当の本人は、荒い息を吐いて膝に手を付いている。
魔力は枯渇状態。今にも倒れそうな様子で、見守っていたメイド達が支えようと駆け寄ってきた。
「――お嬢様! これ以上の修練は危険です! 一度ご休憩をっ……」
「……ダメ。この程度じゃ、足りない。あの子の隣に立てない。今頃、どこかで名を上げているはず。遅れた分は、取り戻す」
夜空のような黒髪のポニーテール、特徴的な金の瞳の美少女――カスミ・スフレイン。
彼女の目は真っ直ぐ前を向いていた。彼女の視線はどこか遠くを見ているようだった。
思い返せば蘇る、輝かしい思い出。学院内で爪弾きにされていた二人の少女。
一人は落ちこぼれ、また一人は優秀過ぎた。
彼女らは、必然的に出会い、人並みに楽しい学園生活を送っていた。
しかし、ある事件を境に二人の時間は噛み合わなくなってしまった。
カスミは、その失われた時間を取り戻すため、無茶苦茶な鍛錬を行う。
一刻も早く強くなるため。今すぐにでも彼女の下へ向かいたい想いを堪え、彼女は牙を研ぐ。
「……もう少し、もう少しで私は……待っているといい。必ず、あなたの下へ、もう一度――ね、アリス」
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