上 下
8 / 73

お泊り

しおりを挟む

「もうっ! アリスったら、心配かけて!!」

「わぷっ」

 ギルドに入った途端、カウンターから飛び出してきた、黒髪のおっとりお姉さんにして敏腕受付嬢のケイトに抱き着かれた。
 ……こやつ、やはり大きいな。
 どうやら、私がダンジョンから帰ってこないから、気を揉んでいたらしい。
 確かに結構時間が経っていた。ダンジョンから外に出て真っ暗だった時には吃驚したものだ。
 私はケイトの豊満な胸から顔を出し、呼吸を確保。とりあえず、謝罪。

「ぷはっ。……ご、ごめんなさい」

「いいわ。無事ね? 無事なのよね? ローブが汚れてるわね。どこか怪我はしてない?」

「だ、大丈夫だから。これは”侵略者レイダー”の血だし、少し全身が痛むだけだから」

「それを怪我って言うのよ! ……”トレイン”に巻き込まれたって聞いたから、本当に生きて戻ってきてくれてよかったわ」

 そう言って嬉しそうに微笑むケイト。
 お姉ちゃんに心配をかけてしまったのは、本当に悪いと思っている。
 でも、私だって探索者の端くれ。こんなに心配されるのはちょっと……。
 苦笑していると、ケイトの後ろから、金髪の美青年が顔を出した。
 休暇中らしく、ラフな恰好をしているが、高ランクの探索者らしい覇気を纏っていた。
 そんな彼も安堵の表情を浮かべている。

「アリス、おかえり。無事で何よりだ」

「エド、私そんなに心配かけてたかな……?」

「無理もないさ。”トレイン”に巻き込まれたと聞いたからね。いくら『始まりの洞窟』と言えど、”トレイン”を巻き込まれたら命に関わる」

「そうだ! その”トレイン”についてなんだけど」

「安心してくれ。犯人は既に捕まえているから」

「あ、そうなんだ……」

 まだ何も話していないのに、もう犯人捕まえちゃったの……?
 仕事が早いというか。犯人がボロでも出したのかな。
 まあ、捕まったって言うならそれでいいか。
 私はいつまでも抱き着いているお姉ちゃんを引きはがし、新たな決意を告げる。

「――ケイト、私、もう少し頑張ってみることにしたの」

「……どこか晴れやかな顔をしているから、何かあるんだろうとは思っていたけど。何があったの?」

「ちょっとね。進むべき道を見つけた、というか、これまで誤った道を進んでいたみたいだったから、一からやり直そうと思って」

「そう……。アリスがそう決めたのなら、私から何か言うことはないわ。でも、無茶だけはしないこと! いいわね?」

「わかってる。命は大事に、でしょ」

 心配性なお姉さんと二人、笑い合う。
 ケイトがいたから、私は探索者を続けられるのだから、彼女の言うことはちゃんと聞くようにしている。
 私が心の中で感謝をしていると、ミルフィがてしてしと前足で頭を叩いてきた。

「どうしたの、ミルフィ?」

「こうして無事を伝えられたんだ。今日のところはそろそろ帰らないかい? ボクも君も、汚れてしまっているからね。それにお腹も減ってきたよ」

「カーバンクルって何を食べるの?」

「人間と同じもので構わないよ。でも、ボクは甘党だからね。パンケーキでも献上してくれると嬉しいかな」

「そんなもの、食べるお金なんてどこにもないわ。今日は我慢しなさい」

「まったく……。仕方ないね。アリス、君にはこれからがっぽりと稼いでもらうから、覚悟してくれたまえ」

「はいはい。それじゃ、ケイト。私たち、もう帰る――」

 帰るから、と言う前に、腕を掴まれた。
 ケイトは、怪訝な表情でミルフィを見ている。

「まだ、説明してほしいことはいっぱいあるのよ」

「えー……明日にしない?」

「……それなら、私の家に泊まりなさい。シャワーもあるし、ご飯も作ってあげる。しっかりと話を聞かせてもらいますからね!」

 ケイトはそう言うと、帰り支度をするため、カウンターへと戻っていった。
 私はミルフィと顔を見合わせ、溜息を吐く。
 どうやら、私たちの夜はまだ終わらないらしい……。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

転生してギルドの社畜になったけど、S級冒険者の女辺境伯にスカウトされたので退職して領地開拓します。今更戻って来いって言われてももう婿です

途上の土
ファンタジー
『ブラック企業の社畜」ならぬ『ブラックギルドのギル畜』 ハルトはふとしたきっかけで前世の記憶を取り戻す。  ギルドにこき使われ、碌に評価もされず、虐げられる毎日に必死に耐えていたが、憧れのS 級冒険者マリアに逆プロポーズされ、ハルトは寿退社(?)することに。  前世の記憶と鑑定チートを頼りにハルトは領地開拓に動き出す。  ハルトはただの官僚としてスカウトされただけと思っていたのに、いきなり両親に紹介されて——  一方、ハルトが抜けて彼の仕事をカバーできる者がおらず冒険者ギルドは大慌て。ハルトを脅して戻って来させようとするが——  ハルトの笑顔が人々を動かし、それが発展に繋がっていく。  色々問題はあるけれど、きっと大丈夫! だって、うちの妻、人類最強ですから! ※中世ヨーロッパの村落、都市、制度等を参考にしておりますが、当然そのまんまではないので、史実とは差異があります。ご了承ください ※カクヨムにも掲載しています。現在【異世界ファンタジー週間18位】

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【R18】ダイブ〈AV世界へ堕とされたら〉

ちゅー
ファンタジー
なんの変哲も無いDVDプレーヤー それはAVの世界へ転移させられる魔性の快楽装置だった 女の身体の快楽を徹底的に焦らされ叩き込まれ心までも堕とされる者 手足を拘束され、オモチャで延々と絶頂を味わされる者 潜入先で捕まり、媚薬を打たれ狂う様によがる者 そんなエロ要素しかない話

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...