123 / 123
第三部
精霊の姫は穏やかに暮らしたい
しおりを挟むあれから私たちは、国に帰り元の生活に戻った。
国内の活気も前よりどこか明るくなり、街が笑顔で溢れかえっている。
学校も少し変わった。
授業内容の変化や先生のレベルが今までと大違いだ。
シンジロウ様が子供の教育に力を入れているらしい。
それに先生の顔ぶれも変わっていた。
高慢な態度を取っていた先生の姿が居なくなっているのだ。
元々彼らはアケチ家の関係者やアケチ家にお金で雇われた人たちだったみたい。
アケチ家の所業が国中に広まり、彼らの居場所がなくなったそうだ。
そんなわけで、私も以前より楽しい学校生活を送ることができている。
それから、今もあの森には通っている。
休みの日は、いつもあの家で過ごすようになった。
魔法の勉強をたくさんして、魔力の保有量が上がったことで自分の力で転移陣を使えるようになったのだ。
そのため、カナモを連れ毎週のようにお世話になっている。
ユミエラさんは、いつも笑顔で受け入れてくれる。
いつの日だったか、ユミエラさんも街に住まないかと聞いたことがある。
「……そう言ってもらえるのは嬉しいけれど、私はもう普通の人間ではなくなってしまったから。ノアちゃんたちと同じように街に住むことはできないわ。それに、この森でこうして穏やかに過ごしている方が、私には合っているみたい」
そう言って断わられてしまった。
まあ、なんとなくわかってはいたけど。
だから、こうしてユミエラさんたちに会いに来ている。
「ユミエラさん! 来ましたよ!」
「あら。いらっしゃい。今日も元気いっぱいね」
ユミエラさんは、いつものように聖樹の下で動物たちに囲まれて読書をしていた。
その姿が相変わらず神秘的で、何度見ても見惚れてしまう。
「――ノアとカナモ。よく来た。今日はお姉特製チーズケーキ。運が良い」
「あ、タマモ……って、また摘まみ食いしたでしょ? 口元に食べかすが付いてるよ」
「タマモちゃん、私たちの分まで食べてないよね?」
「無問題。タマモはお姉の分しかつまみ食いしない。お茶淹れるから少し待つ」
「「は~い」」
いつもと同じようなやり取りをして、タマモはお茶を淹れる準備を始める。
すると、これまたいつものように家の方から、お怒りのミシェルさんが飛び出してきた。
こうして外観を見てるとやっぱりカフェなんだよね、あの家。
「ユミエラさん、あの家ってやっぱりカフェですよね?」
「そのつもりで建てたんだけど、こんな森の奥に来るお客さんなんて居ないことを失念していたの。結局カフェなんて見た目だけ。でも、いいの。当初の目的は果たせたから」
「当初の目的?」
「ええ、そう……」
そうしてユミエラさんは、空を見上げて大きく深呼吸をした。
それを見て、囲んでいた動物たちも同じように伸びをする。
その様子が可笑しくて私たちは笑ってしまった。
ユミエラさんは少し不思議そうな顔をしていたけれど、とびっきりの笑顔を浮かべて言った。
「私は、ゆっくりと穏やかな時間を過ごしたかったの。こうして、動物たちに囲まれ、ミシェルやタマモ、ティアに動物たちとお散歩したりお茶したり、ね。それが叶ったから、私はもう幸せよ。ノアちゃんとカナモちゃんも、幸せに生きなきゃダメよ。自分の思う通りに、やりたいように生きるの。アリアはそうしたわ。貴方たちもそうなってほしい。私は、ここで見守っているから」
そうして私たちは笑い合った。
とても幸せな時間、その思い出を心に刻み、これからも――。
◇◇◇
むかしむかしのお話。
とある聖なる森に、一人の少女が居ました。
彼女の側には常に二人のメイドが付き添い、精霊たちの王が共に在りました。
さらには神獣という神聖な獣を従え、その結果膨大な寿命を授かりました。
脅威を感じた国の王は、彼女の力を求め森へ兵を差し向けましたが、敵うはずもなく返り討ちに。
彼女は言いました。
「私は、こうして力を持っていますが、悪用する気も誰かを傷つけるつもりもありません。私はただ、穏やかな暮らしがしたいだけなのです」
彼女は言葉通り、誰も傷つけることなく、森の奥でひっそりと穏やかに暮らしました。
これは、そんな何の変哲もない、穏やかな姫のお話。
貴方に伝えることがあるとするのなら、彼女のように自由に生きてほしい。
ただ、それだけ――。
『精霊の姫は穏やかに暮らしたい』
著 ノア・サザナミ
婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ
~完~
31
お気に入りに追加
523
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。
聖女の紋章 転生?少女は女神の加護と前世の知識で無双する わたしは聖女ではありません。公爵令嬢です!
幸之丞
ファンタジー
2023/11/22~11/23 女性向けホットランキング1位
2023/11/24 10:00 ファンタジーランキング1位 ありがとうございます。
「うわ~ 私を捨てないでー!」
声を出して私を捨てようとする父さんに叫ぼうとしました・・・
でも私は意識がはっきりしているけれど、体はまだ、生れて1週間くらいしか経っていないので
「ばぶ ばぶうう ばぶ だああ」
くらいにしか聞こえていないのね?
と思っていたけど ササッと 捨てられてしまいました~
誰か拾って~
私は、陽菜。数ヶ月前まで、日本で女子高生をしていました。
将来の為に良い大学に入学しようと塾にいっています。
塾の帰り道、車の事故に巻き込まれて、気づいてみたら何故か新しいお母さんのお腹の中。隣には姉妹もいる。そう双子なの。
私達が生まれたその後、私は魔力が少ないから、伯爵の娘として恥ずかしいとかで、捨てられた・・・
↑ここ冒頭
けれども、公爵家に拾われた。ああ 良かった・・・
そしてこれから私は捨てられないように、前世の記憶を使って知識チートで家族のため、公爵領にする人のために領地を豊かにします。
「この子ちょっとおかしいこと言ってるぞ」 と言われても、必殺 「女神様のお告げです。昨夜夢にでてきました」で大丈夫。
だって私には、愛と豊穣の女神様に愛されている証、聖女の紋章があるのです。
この物語は、魔法と剣の世界で主人公のエルーシアは魔法チートと知識チートで領地を豊かにするためにスライムや古竜と仲良くなって、お力をちょっと借りたりもします。
果たして、エルーシアは捨てられた本当の理由を知ることが出来るのか?
さあ! 物語が始まります。

転生騎士団長の歩き方
Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】
たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。
【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。
【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?
※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
時には激しい波に襲われ、けど決して穏やかな波を保ち続けてる姫が凄いね
「たられば」な話ですけど、もしかの国が姫を追放せず国母として迎えてた場合、世界は老魔道士の陰謀で乱れ、ミシェルさん等には気に入らない事実かもですけど、彼処で追い出された事が切っ掛けで世界は穏やかな日々を迎える事が出来たと考えると、追い出した連中はファインプレーだったのかも知れません。 アリアさん達も姉妹の関係が悪化して姉殺しを実行してたかもですしね
王国の貴族たちは必要なですからねとあるが、必要ですからねの間違いではないですか
お嬢様…マイペースすぎる😅
森の主✨精霊王様が✨涙目に。
先ずは😓お互いを知るコトから !?
精霊王も混乱する( ̄∇ ̄)ウフフフ♡
天然記念物級マイペースお嬢様!!!
無敵ですな💦末オソロシイわ💧
人が訪れないであろう森に
カフェ☕を開くとは…お嬢様の
考える理想のカフェとは何か???
興味津々です。たま~に訪れる
であろう冒険者と後は(≧∇≦)b
何方が来店されるのでしょうね。続きが楽しみです。 🌱🐥💮