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第三部
隠していた想い
しおりを挟むあれからさらに改革は進み、東洋国家は完全な平穏を得た。
長年アケチ家に搾取され続けた税は下がり、食糧事情も改善したようだ。
今では国民の誰も、アケチ家の名を口にする人はいない。
彼らは暴君として歴史の隅に追いやられたのだ。
国が安定したとなると、私たちもそろそろ家に帰るという話が出始めた。
国を離れ、冒険者として活動していたパパたちも帰ってくるみたいだし、いつまでもこの森の中で、ユミエラさんのお世話になっているのも良くない。
ママはそう言っていた。
確かにそう思う。ずっとこの森で生活していくわけにはいかない。
私たちには、私たちの日常があるのだ。
それを取り戻したのだから、私たちは元の場所に戻らなければならないだろう。
……でも、どうしてかな。
家に帰らなきゃと思うほど、胸の奥でモヤモヤがあふれ出してくる。
私は今、上手に笑えているだろうか。
モヤモヤの原因も分からない。
私は……。
『――――嘘つき、はっけ~ん』
「っ!?」
突然後ろに人の気配。
いや、この感じは人じゃなくて、精霊だ。
振り返ると、聖樹の枝に座り精霊王のティア様が楽しそうに笑っていた。
「……う、嘘つきって、どういうことですか?」
『まあ、嘘つきって言うのは少し違うわね。でも、頭の良いあなたならわかっているはずでしょ。いつまでその気持ちから目を逸らすのかしら?』
ティア様に真っ直ぐ見つめられ、ドキッと心臓が跳ねた。
ずっと考えないようにしていた。だって、そのほうが楽だから。
こんな思いをいつまでも抱えていてはダメ。
ただ辛いだけだから。
だから、私は知らないふりをして目を逸らし続けていた。
ティア様の言う通り、ずっとわかっていたんだ。
「……こんなの言葉にしちゃいけない」
『あら、どうして?』
「我儘言うのは迷惑だから……」
『子供が我儘を言うのは当たり前の事よ。我慢している方が変だわ』
「……おばあちゃんも同じことを言っていました。私の我儘なんてちっぽけなもの。それくらいで迷惑だと思うことなんてないって。でも、言えません。私にはこんなこと言う資格なんてないっ!」
抱えていた想いが滴となってあふれ出してくる。
ずっと言わないようにしていたのに、自分の心は意外と抑えられないものだ。
「私のせいで、皆に迷惑かけたっ! 私が居なければ、こんなことにはならなかった! ママたちを危険に晒して、勝手にここまで逃げ込んで、ユミエラさんたちを巻き込んで、全部私のせいなのに! それなのに…………寂しいから、ずっと一緒に居たいなんて、絶対に言えない……っ」
全部、全部、私のせい。
あの戦争も、あの人たちの目的も、全部私にこんな力があったから。
おばあちゃんから強く引き継いだこんな力があったから……。
だから……。
「……こんなことになるのなら、私に力なんてなければよかったのに……っ!」
私がそう口にすると、ティア様がフッと笑う。
どうして笑うの。私は、こんなに悩んでいたのに。
『やっぱり、まだまだ子供ね』
「……いま、そんなの関係ないですよ」
『いいえ。いつも大人ぶっていたけれど、子供らしいところもあるじゃない。無理せずに言いたいこと言いなさい。ただ、それを言うのはあたしにじゃないけれどね』
そう言って、ティア様はどこかに飛んで行ってしまった。
本当、自由な方……。
そんあことを思っていると、突然後ろから抱きしめられた。
温かい……。
このぬくもりを、私は知っている。
いつも私とカナモをこうして抱きしめてくれる、おばあちゃんと同じぬくもり。
「……ユミエラさん?」
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