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第三部

清算

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「――――さて、帰りましょうか」

 ユミエラさんが笑顔でそう言った。
 後始末は全てシンジロウ様にお任せしたので、私たちのやることは何もなかった。
 それに、この場にいて私とカナモは何もしていない。
 正直私たち来なくても良かったのではないかと思ってしまう。
 一応、私たちも当事者のはずなんですけど……。

「ミシェル、お願いね」

「かしこまりました。――――開門」

 ミシェルさんが来るときと同じように、転移門を開いた。
 門の先は森の中心、聖樹の下に繋がっている。
 最後に、この戦場の景色を目に焼き付け忘れないようにしようと思い、周囲を見渡した。
 そこで私はあることに気づいた。

「あれ、あのおじいさんいなくなってますね……」

「ノアちゃん、どうかしたの?」

「いや、あの魔導士姿のおじいさんがいないなって」

「んー、そう言えばそうだね。何処に行ったんだろう?」

「放っておいたら、また良くないことを企むんじゃ……」

 そう思って、私はあのおじいさんを探そうとした。
 しかし、それはユミエラさんとタマモに止められた。

「問題ない。タマモたちの役目は終わり。あとは帰ってお嬢にお茶を淹れてあげるだけ」

「でも……」

「いいのよ。あの魔導士との因縁を清算するのは私たちのすることではないから。あとはあの子が何とかするわ。それより早く帰りましょう。私はお腹が空いたわ」

「帰ったらまずはご飯にしましょう。今日のお嬢様はとてもお美しかったので私は一層美味しいお料理が作れそうです」

「お姉は寝てると良い。タマモが作るから」

「タマモ……いい度胸ですね。姉の生きがいを奪おうなど、そうはいきませんよ」

 二人のやり取りを見て、本当にもう終わったんだと実感した。
 これでやっと元の生活に戻れるんだ。
 ママたちも安心していつものように……。
 そう思うと、なんだか心が落ち着かない気がする。
 どうしてだろう。
 よくわからない不安を抱えたまま、私たちは森の家へと帰ったのだった。



 ◇◇◇



「――――くそっ! 認めん……認めんぞ。次こそはわしの悲願を達成するのだ」

 負けが確信した瞬間、わしは魔法で作り出した分身を残し退散した。
 役に立たぬ愚物の始末など奴らに任せておけば良い。
 そんなことより、神獣に魔法が効かぬなど誤算であった。
 そのような事、文献にも記されていない。
 人知の及ばぬ存在などあってはならぬのではないだろうか。
 故にわしはまたやり直すことにしよう。
 新たな安住の地を探し、また一から今度は神獣にも対抗し得る魔法を編み出すのだ!

「次こそは、必ず……」

「――――次なんてないわよ」

 凛とした声が耳に届いた。
 これは忘れもしない声だ。
 かつてわしが求めた力を持ち、忌々しい少女にその野望を阻まれ手に入れられなかったモノ。
 それが今、わしの目の前に姿を現した。
 かつてと姿が変わらず、作り物めいた美しさを放つ。
 精霊の姫より大人びた姿で彼女よりも強力で神聖な魔力を纏っている。
 まるで女神の化身。

「ようやく見つけたわ。数百年間、ずっとね」

「何やら物騒な雰囲気を纏っておるなぁ。精霊王殿がこのような老体に如何用か?」

「決まってるでしょ。いつかの借りを返そうと思って」

「ほう。いつかのとは、もしやあの少女のことですかな? 精霊王が人間の小娘一人にそこまで想いを寄せるとは、これは傑作ですな。しかし、わしには関係のないこと。あれはかの国が勝手に引き起こしたゆえ、わしに借りを返されても困りますな」

 焚きつけたのはわしだが、当時の国王が攻め入ったのは間違いない。
 どうしてわしのせいと決めつけ、こうしてわしの前に姿を現したのだろうか。

「裏で糸引いてたのは知ってるわ。今回のこともそう。いつも後ろにいるだけ。引っ掻き回しては失敗したら逃げる臆病者。それももう終わりよ。これまでの因縁は全て清算する」

 精霊王が右手を前に突き出し、魔力を集め始めた。
 わしの知らない魔法。これが精霊の力。
 とても興味深いのだが、このままではわしは消えてなくなるだろう。
 故に、わしは再度分身を………………なぜだ、魔法が使えぬ!?

「今集めているのはあんたの魔力。これっぽっちしかないのね。大したことない雑魚じゃない。こんなのに振り回されていたなんて、人間てやはり愚か者ね」

「な!? わしが、雑魚じゃと!? ふざけるな! わしの魔力を返せ!」

「バカなの? 返すわけないでしょ。あんたはここで果てるのよ。これでもう誰も哀しい思いをしないで済むわ。ユミも、ミシェルも、タマモも。そして――美優も」

 そう言って、精霊王は右手に集めた魔力を握りつぶした。
 魔力は霧散し、魔法は発動しなかった。
 今こそ、逃げる時! 
 そう思った瞬間――――天より光が降り注いだ。

「ぐっ………ああ、あああ、ああああああああああ!!!」

「神滅の光輝。神すら滅する光の柱に貫かれて逝きなさい」

 そして、わしの体、魂の全ては成すすべなく消滅した。

「これで、ようやく終わったわ。はぁ~、疲れたぁ。早く帰ってタマモをモフモフしながらミシェルのおやつもーらおっ」




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