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第三部
二人のメイド
しおりを挟むユミエラさんが呆れた表情を浮かべて言った。
老師と呼ばれたおじいさんとご当主様は、理解しがたい事実を告げられ動揺しているのが目に見えてわかる。
「な、何をバカなことを言っておる。神獣に人間の魔法が効かない……などと、そんなことがあるわけが」
「事実、あなた方が何十年とかけて作り上げた魔法とやらは聞いていませんよ。それに、第一にそんな魔法が本当に成功するとでも思っているのですか?」
ユミエラさんの言葉に、ご当主様は悔し気に唇を噛みしめた。
睨みつけてくるが、ユミエラさんは飄々としている。
それよりも、様子のおかしな人がいるのだけど気づいているのかな……。
「…………ありえぬ。間違ってなどおらん……わしの持つ全ての叡知を結集したのだぞ……ありえぬありえぬありえぬありえぬありえぬありえぬありえぬありえぬありえぬ」
「ろ、老師。落ち着かれよ。あなたの魔法は確かに完成した。間違いない。あの小娘が何かしたに違いありませぬぞ」
「そうじゃそうじゃそうじゃそうじゃそうじゃそうじゃ。そうに違いない。わしが間違えるはずなど、ありえぬのじゃ。あってはならぬのじゃぁぁぁぁぁ!!」
「ろ、老師!? これは、何をぉ!?」
完全に錯乱し、おじいさんの体中から黒い靄のようなものが溢れだした。
見るのも嫌になるほど気味が悪く、禍々しい魔力。
それはヘドロのように纏わり付き、周囲の人間全てに襲い掛かる。
そして徐々に地面にも侵食していき、世界を腐敗させていく。
ご当主様も巻き込まれているけれど、いいのだろうか。
私たちの下には届かない。神獣が障壁を展開し防いでいる。
「こんな……汚らしいものを溜め込んでいたなんて」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ! わしは、この世界の全てを支配するのじゃ! そのためなら手段など」
「――――うるさいジジイですね。いい加減、その耳障りな声でお嬢様のお耳を汚さないでください」
「――――やっぱり話を聞く必要はなかった。お嬢は優しいから聞いてくれたけど、無駄な時間。さっさと終わらせる」
パァン、という軽快な音と共におじいさんの持っていた杖が弾けた。
それと同時に蒼白い炎が私たちを中心に広がり、黒い魔力を燃やしていく。
私の目の前では、ミシェルさんが銃を構え、タマモが手を前に突き出していた。
我慢の限界だったのだろう。元々は二人で全部終わらせようとしていたくらいだし。
「はっ!? 一体何が!? 老師、これはどういう……」
「わしの、杖が……これは世界樹の枝を用いた逸品。それが、あんな小娘の魔銃ごときに……」
「私のマスケットは特別製ですよ。黒竜の鱗だって撃ち抜きます」
「そ、そんなバカな話があるか!?」
「信じるも信じないも、お好きにどうぞ。そろそろあなた方にはこの世界からご退場いただきたいので」
「メイドごときに何ができる!? 我らは」
「黙れ、無能当主。お前がお嬢の父だなんて反吐が出る。もうお嬢の家族はタマモとお姉。お前は――――いらない」
メイド二人の殺気が充満する。
直接当てられたご当主様はみっともない悲鳴を上げ尻もちをつき、おじいさんは未だ呆然としている。
周囲に控えていた兵士たちも皆一様に武器を下げた。
敵わないと察したのだろう。膝をつき祈りを捧げている人もいる。
「あちらもそろそろ終わりそうです。こちらも手短に行きましょう」
「戦意喪失してるやつは見逃す。ただ、そこのジジイと当主は許さない」
そう言ってメイド二人はご当主様の下へと歩き出した。
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