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第三部
神獣支配の魔法
しおりを挟む周囲に吹き荒れる魔力の奔流に当てられ、気が狂いそうになる。
何なんだこれはっ……。
私は、こんなもの聞いてないぞ。
私の視線の先にいる、無価値な娘。
これまでそう思っていた。
だが、私が間違っていたと言うのか。
いや、そのようなことはありえない! 私が間違いを犯すなどありえないのだ!
「これはこれは……想像以上ですなぁ」
「老師! 話が違うぞ!」
「それはお主の認識の問題じゃ。わしは何も間違ったことは話しておらんわ」
そう言って老師は目の前の存在をじっくりと観察し始める。
生まれつきの輝く金髪をさらに輝かせ、精霊の羽で宙に浮く。
周囲に自身の魔力を煌めかせる姿はまさに伝説の精霊そのもの。
その力を持っているのが、私の娘であったなどと、認められるものか。
側にいる狐耳のメイド少女は、おそらく数年前に逃した神獣の器だ。
老師の言葉通り、少女はその身に神獣を宿し思うがままに力を振るっている。
同じくメイドの女。これは奴が幼少時に拾ってきた薄汚い孤児だな。
ずっと奴の側に付き従っていたが、まさか今でもともにいるとは思わなんだ。
だが、奴も異常な魔力を身に纏っているではないか。
七色に輝く魔力は、まるで御伽噺で語られる精霊使いと同じ。
まさか、あのメイドも有能だったなどというわけではあるまいな。
そのようなこと……事実であれば、私の目が節穴だと言っているのと同義。
許されぬ。許されぬぞっ。
「お覚悟は、よろしいですね。お父様――――いいえ、もうお父様ではありませんでしたね。アケチ家のご当主様、あなたの陰謀もここまでです」
「何をバカなことを! そのような力を振るって勝ったつもりか!? 調子に乗る出ないわ! こちらにはまだ奥の手があるぞ!」
「ほっほっほ。そうですな。精霊の姫よ、勝ち誇るにはまだ早いというもの。こちらには――」
「神獣を操る魔法がある、とでも?」
な、なぜそれを!?
我らが秘密裏に開発していた魔法であるぞ。
老師は厭らしい笑みを浮かべ、笑っている。
我らの秘密が知られているというのに、どうして笑っていられるのか。
「やはり、やはりご存じでしたか。ええ、そうですな。我が生涯をかけた大魔法、神獣支配の魔法は完成している! これさえあれば、かつての野望を叶えることも夢ではない! かつて精霊王と愚かな女勇者が邪魔さえしなければ、世界はわしのものであったというのに……だが、此度でそれも実現する。わしが世界の頂点に君臨するのだ!」
老師が目を血走らせ叫んだ。
そして杖を一振りし、空に巨大な黒い魔法陣が出現する。
これは、作り上げた支配魔法。代用品の子供でこれほどの禍々しい魔力を生み出せるとは。
怨嗟の声が周囲に広がる。苦し気に顔を歪め耳を塞ぐ兵士もいるが知ったことではない。
これならば奴らも……なぜそのように顔を歪める。
憐れんでいるとでも言うのか? この私を? ふざけるな!
何様のつもりだ!
「本当に、知らないのですね。その無知が、あなたが失敗した原因であるというのに」
「何をおっしゃっているか理解できませんなぁ! 命乞いですかな? さしものあなたでも二体の神獣を相手にするのは無謀というもの。この魔法陣のある限り、神獣は全て我が支配下に――――」
「――――この程度で、わらわが支配されるとでも?」
『人間というものはいつの時代も愚かであるな』
怒りに満ちた声が聞こえた。
先ほどの狐耳の少女と、いつか宮殿でみた白虎が私たちの前に出てきた。
もしや、今の声はこ奴らが……?
それにこの威圧感は、もしや神獣? 支配はどうなっているのだ!?
「な、なぜわしに牙を剥く……? この魔法は完璧なはずっ……!」
「あなたの知らない前提からお教えしますよ」
娘が心底呆れた表情で老師を見る。
そして告げた言葉は私たちの認識をはるかに超える信じがたいものであった。
「――神獣に人間の魔法が効くはずもないでしょう?」
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