114 / 123
第三部
神獣支配の魔法
しおりを挟む周囲に吹き荒れる魔力の奔流に当てられ、気が狂いそうになる。
何なんだこれはっ……。
私は、こんなもの聞いてないぞ。
私の視線の先にいる、無価値な娘。
これまでそう思っていた。
だが、私が間違っていたと言うのか。
いや、そのようなことはありえない! 私が間違いを犯すなどありえないのだ!
「これはこれは……想像以上ですなぁ」
「老師! 話が違うぞ!」
「それはお主の認識の問題じゃ。わしは何も間違ったことは話しておらんわ」
そう言って老師は目の前の存在をじっくりと観察し始める。
生まれつきの輝く金髪をさらに輝かせ、精霊の羽で宙に浮く。
周囲に自身の魔力を煌めかせる姿はまさに伝説の精霊そのもの。
その力を持っているのが、私の娘であったなどと、認められるものか。
側にいる狐耳のメイド少女は、おそらく数年前に逃した神獣の器だ。
老師の言葉通り、少女はその身に神獣を宿し思うがままに力を振るっている。
同じくメイドの女。これは奴が幼少時に拾ってきた薄汚い孤児だな。
ずっと奴の側に付き従っていたが、まさか今でもともにいるとは思わなんだ。
だが、奴も異常な魔力を身に纏っているではないか。
七色に輝く魔力は、まるで御伽噺で語られる精霊使いと同じ。
まさか、あのメイドも有能だったなどというわけではあるまいな。
そのようなこと……事実であれば、私の目が節穴だと言っているのと同義。
許されぬ。許されぬぞっ。
「お覚悟は、よろしいですね。お父様――――いいえ、もうお父様ではありませんでしたね。アケチ家のご当主様、あなたの陰謀もここまでです」
「何をバカなことを! そのような力を振るって勝ったつもりか!? 調子に乗る出ないわ! こちらにはまだ奥の手があるぞ!」
「ほっほっほ。そうですな。精霊の姫よ、勝ち誇るにはまだ早いというもの。こちらには――」
「神獣を操る魔法がある、とでも?」
な、なぜそれを!?
我らが秘密裏に開発していた魔法であるぞ。
老師は厭らしい笑みを浮かべ、笑っている。
我らの秘密が知られているというのに、どうして笑っていられるのか。
「やはり、やはりご存じでしたか。ええ、そうですな。我が生涯をかけた大魔法、神獣支配の魔法は完成している! これさえあれば、かつての野望を叶えることも夢ではない! かつて精霊王と愚かな女勇者が邪魔さえしなければ、世界はわしのものであったというのに……だが、此度でそれも実現する。わしが世界の頂点に君臨するのだ!」
老師が目を血走らせ叫んだ。
そして杖を一振りし、空に巨大な黒い魔法陣が出現する。
これは、作り上げた支配魔法。代用品の子供でこれほどの禍々しい魔力を生み出せるとは。
怨嗟の声が周囲に広がる。苦し気に顔を歪め耳を塞ぐ兵士もいるが知ったことではない。
これならば奴らも……なぜそのように顔を歪める。
憐れんでいるとでも言うのか? この私を? ふざけるな!
何様のつもりだ!
「本当に、知らないのですね。その無知が、あなたが失敗した原因であるというのに」
「何をおっしゃっているか理解できませんなぁ! 命乞いですかな? さしものあなたでも二体の神獣を相手にするのは無謀というもの。この魔法陣のある限り、神獣は全て我が支配下に――――」
「――――この程度で、わらわが支配されるとでも?」
『人間というものはいつの時代も愚かであるな』
怒りに満ちた声が聞こえた。
先ほどの狐耳の少女と、いつか宮殿でみた白虎が私たちの前に出てきた。
もしや、今の声はこ奴らが……?
それにこの威圧感は、もしや神獣? 支配はどうなっているのだ!?
「な、なぜわしに牙を剥く……? この魔法は完璧なはずっ……!」
「あなたの知らない前提からお教えしますよ」
娘が心底呆れた表情で老師を見る。
そして告げた言葉は私たちの認識をはるかに超える信じがたいものであった。
「――神獣に人間の魔法が効くはずもないでしょう?」
10
お気に入りに追加
523
あなたにおすすめの小説
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。
聖女の紋章 転生?少女は女神の加護と前世の知識で無双する わたしは聖女ではありません。公爵令嬢です!
幸之丞
ファンタジー
2023/11/22~11/23 女性向けホットランキング1位
2023/11/24 10:00 ファンタジーランキング1位 ありがとうございます。
「うわ~ 私を捨てないでー!」
声を出して私を捨てようとする父さんに叫ぼうとしました・・・
でも私は意識がはっきりしているけれど、体はまだ、生れて1週間くらいしか経っていないので
「ばぶ ばぶうう ばぶ だああ」
くらいにしか聞こえていないのね?
と思っていたけど ササッと 捨てられてしまいました~
誰か拾って~
私は、陽菜。数ヶ月前まで、日本で女子高生をしていました。
将来の為に良い大学に入学しようと塾にいっています。
塾の帰り道、車の事故に巻き込まれて、気づいてみたら何故か新しいお母さんのお腹の中。隣には姉妹もいる。そう双子なの。
私達が生まれたその後、私は魔力が少ないから、伯爵の娘として恥ずかしいとかで、捨てられた・・・
↑ここ冒頭
けれども、公爵家に拾われた。ああ 良かった・・・
そしてこれから私は捨てられないように、前世の記憶を使って知識チートで家族のため、公爵領にする人のために領地を豊かにします。
「この子ちょっとおかしいこと言ってるぞ」 と言われても、必殺 「女神様のお告げです。昨夜夢にでてきました」で大丈夫。
だって私には、愛と豊穣の女神様に愛されている証、聖女の紋章があるのです。
この物語は、魔法と剣の世界で主人公のエルーシアは魔法チートと知識チートで領地を豊かにするためにスライムや古竜と仲良くなって、お力をちょっと借りたりもします。
果たして、エルーシアは捨てられた本当の理由を知ることが出来るのか?
さあ! 物語が始まります。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる