112 / 123
第三部
開戦
しおりを挟む「お嬢様、奴らが進軍を始めたようです」
ミシェルさんが報告した。
それを聞き、ユミエラさんは少しの間目を瞑った。
次に目を開いた瞬間、いつもとは違う覚悟の籠った笑みで告げる。
「――――それでは、行きましょうか。私たちの日常を守るために」
「出陣!!!」
シンジロウ様が刀を上に掲げ叫ぶ。
それに呼応し、志士の方たちが雄叫びを上げた。
聖域は怒号で包まれ地を揺らす。
周囲で私たちを見守っていた動物たちも、同じように咆哮した。
ここにいる皆の想いが一つになった。
「――――開門」
そんな中、ミシェルさんが静かな声で告げた。
聖樹の前に豪奢な装飾が施された巨大な門が出現。
その門の先は、東洋国家より西方、『聖魔の森』の入り口前の平原である。
彼らが森に入る前に決着をつけるとシンジロウ様が仰った。
ユミエラさんの提案で、登場は盛大に、開戦は突発的に、戸惑っている間に蹂躙しましょう。そう決まった。
そのための盛大な登場の演出として、ミシェルさん考案の転移門だ。
「もう繋がっているわ。先陣は誰が?」
「無論、俺が行く。我が精強な武士たちよ! 覚悟は良いな? 出陣である!! 俺についてこい!!!!」
『おぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!』
シンジロウ様が馬に乗り、門の先へと駆け出した。
そのあとをランコさんが同じように馬で追い、志士たちが走って追いかける。
その中には、ヒデヨシも交じっていた。
彼はシンジロウ様のお言葉通り、背中を追い見極めるのだとか。
オダ家の方々が全員門の中に入って行ってから、次は私たちの番である。
「さて、私たちも行きましょう。アイシャちゃんたち、お留守番よろしくね」
「はい。……ノア、怪我しないようにね」
「うん。大丈夫だよ、ママ。いってきます!」
心配そうな顔で私を抱きしめるママに笑顔で返す。
カナモの同じようにカンナおばさんに抱きしめられていた。
ハヤト兄はリーシャおばさんにお尻叩かれてたけど……。
「心配しなくて大丈夫よ。ただ行って帰ってくるだけだから。ね、ミシェル」
「そうです。お嬢様方に傷一つ付けることなどありえません。万事この万能メイドにお任せください」
ミシェルさんが自信満々に胸を張った。
そう言えるほど、確かにミシェルさんはすごい人だ。
いつも通りの雰囲気に少し安心する。
そうして、ミシェルさんを先頭に私たちも門へと入って行った。
◇◇◇
「――――くそっ! どうなっておるのだ! 奴らめ……一体どこから現れたのだ!!」
「ふむぅ……このような大規模な転移魔法、わしでも知らんな。オダ家の仕業でもあるまい。つまり、精霊姫の関係者というわけじゃのぉ」
老師が白いひげを撫でながら、分析する。
今はそのような些事に気を取られている場合ではない。
一刻も早く目の前のオダ家残党を打ち取らねば!
そう心の中で意気込む私に老師が告げる。
「油断しておると危ないぞ。ほれ」
「っ!?」
私の上空から矢の雨が降ってきた。
老師の魔法障壁が無ければ、今頃私は……。
「感謝いたします、老師」
「気にするでない。それより、あそこじゃ」
老師が杖で指した方角を向く。
すると、馬を駆りこちらに迫ってくる鬼の形相を浮かべた若者の姿。
忌まわしきオダ家当主に遺伝される黒交じりの赤髪。
現オダ家当主であると推測される。
その後ろからは黒髪の着物を纏った美女が付き従っている。
こちらに向かってきているが、奴らは息子に任せるとしよう。
わざわざ大将が先陣を切ってくるなど、愚か極まりない。
我々は――――。
「ほっほっほ。こちらも来たようじゃのぉ」
「――――ええ、そろそろあなたを退治しませんと、ティアが心の底から笑ってくれないのです。それに……因縁は他にもありますからね」
そう言って私の前に姿を現したのは、これまた忌々しい小娘。
よもや、私の前に姿を見せるとは、こ奴も愚か者である。
精霊姫などと噂され、調子に乗っていると見える。
これは、父として灸をすえなければなるまい。
「おめおめと姿を晒すとはな、役立たずの我が娘よ」
「お久しぶりですね、元お父様」
忌々しい笑みを浮かべ、奴はそう言った。
2
お気に入りに追加
444
あなたにおすすめの小説
聖女の紋章 転生?少女は女神の加護と前世の知識で無双する わたしは聖女ではありません。公爵令嬢です!
幸之丞
ファンタジー
2023/11/22~11/23 女性向けホットランキング1位
2023/11/24 10:00 ファンタジーランキング1位 ありがとうございます。
「うわ~ 私を捨てないでー!」
声を出して私を捨てようとする父さんに叫ぼうとしました・・・
でも私は意識がはっきりしているけれど、体はまだ、生れて1週間くらいしか経っていないので
「ばぶ ばぶうう ばぶ だああ」
くらいにしか聞こえていないのね?
と思っていたけど ササッと 捨てられてしまいました~
誰か拾って~
私は、陽菜。数ヶ月前まで、日本で女子高生をしていました。
将来の為に良い大学に入学しようと塾にいっています。
塾の帰り道、車の事故に巻き込まれて、気づいてみたら何故か新しいお母さんのお腹の中。隣には姉妹もいる。そう双子なの。
私達が生まれたその後、私は魔力が少ないから、伯爵の娘として恥ずかしいとかで、捨てられた・・・
↑ここ冒頭
けれども、公爵家に拾われた。ああ 良かった・・・
そしてこれから私は捨てられないように、前世の記憶を使って知識チートで家族のため、公爵領にする人のために領地を豊かにします。
「この子ちょっとおかしいこと言ってるぞ」 と言われても、必殺 「女神様のお告げです。昨夜夢にでてきました」で大丈夫。
だって私には、愛と豊穣の女神様に愛されている証、聖女の紋章があるのです。
この物語は、魔法と剣の世界で主人公のエルーシアは魔法チートと知識チートで領地を豊かにするためにスライムや古竜と仲良くなって、お力をちょっと借りたりもします。
果たして、エルーシアは捨てられた本当の理由を知ることが出来るのか?
さあ! 物語が始まります。
[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。
2人の幸せとは?今世も双子の姉妹で生まれちゃいました!
☆n
恋愛
何度生まれ変わっても双子の妹に全てを奪われる姉。
そしてその姉を見守り続けた者(物)達。
ー姉を見守り続けた者(物)達は、全ての力を今世に生まれたあの子に注ぐー
どれだけ悔しかったか...。あの子を幸せにできない自分達をどれだけ痛めつけてきたか...。
悔し涙の分だけ持った私達の力の全てを今世のあの子に...
追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。
美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます
今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。
アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて……
表紙 チルヲさん
出てくる料理は架空のものです
造語もあります11/9
参考にしている本
中世ヨーロッパの農村の生活
中世ヨーロッパを生きる
中世ヨーロッパの都市の生活
中世ヨーロッパの暮らし
中世ヨーロッパのレシピ
wikipediaなど
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる